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「藤村龍至展 ちのかたち」にて、建築のデザインプロセスをご本人から学ぶの巻

ミッドタウンデザイン部さんの朝活ギャラリーツアーにまたまた参加しました。

今回はミッドタウンのデザインハブから場所を移して、乃木坂のTOTOギャラリー・間にて開催中の「藤村龍至展 ちのかたち―建築的思考のプロトタイプとその応用」にて、藤村龍至さんご本人の解説付きギャラリーツアーでした。
建築という、デジタルプロダクトとはまた違う分野でデザインをされている方の生のお話を聞ける、貴重で贅沢な時間でした。

・#0 Archives_2011-18(映像展示)
・#1 BULDING K(店舗・集合住宅)
・#2〜5 「〇〇の家」(個人住宅)
・#6 白岡ニュータウンプロジェクト
・#12 すばる保育園
・#13 鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設
・#15 G Chair
・#18 Deep Learning Chair

ROOM_TL

藤村さんのこれまでの「ちのかたち」を時系列で辿り、知識を形態へと転換し、そこで得た新しい知識をもとに次の形態を得る、というサイクルを感じられる展示です。
手がけられた建築のプロトタイプが時系列に並べられているだけでなく、建築物ごとのプロトタイプが時系列に並べられていて、
まさに「思考プロセス」のタイムライン展示という構成になっているのが面白いです。

#0  Archives_2011-18(映像展示)

東日本大震災直後から福島に通われて、調査や課題の理解、建築家として何ができるかを考え、形として見えてくるまで7年以上かかったそう。
その福島に通われた記録を2分半にまとめられた映像が、#0として展示されています。

#1  BULDING K(店舗・集合住宅)

用途が決まっていない400坪の敷地に、「何をつくるか」から施主さんと一緒に取り組まれた建築だそうです。
「全フロア店舗」という初期の案から、「1Fのみ店舗、2・3Fは住宅」の形に決まり、最終の構造の決定に至るまでの経過が、このテーブルに並べられたプロトタイプで表現されています。

テーブルの奥の方には、初期に受けた「利益を最大限に出したい」というインプットを形にした「全フロア店舗にする」プロトタイプ、そこから、「杉並で2階以上を商業用途で借りる人は少ない」というインプットを形にした「2階以上は住宅にする」プロトタイプと続き、大体の構造が見えてきて、「設備相談の結果」を形に反映したもの、「近隣説明や施主さんからのインプット」を形に反映したもの・・・と進み、ネゴシエーションを取り最終的な形へと決まっていったそうです。

藤村さん曰くクライアントさんにもよるそうですが、建築家の方がそんな初期段階から、手を動かしてプロトタイプを作り参加されるんだということにとても驚きました。

#2〜5 「〇〇の家」(個人住宅)

こちらも作りながらイメージができて行ったそうです。
左から、ビルみたいな家倉庫みたいな家小屋みたいな家と続き、最後は、家みたいな家ができたとのこと。
家を作っていて「家みたいな家ができた」というのは、なかなか一周回った発想だなと思ったのですが、藤村さんの「以前の設計で得た知識を次の設計に生かす」「設計を研究しながら作っている」という言葉で腑に落ちました。

「家を作る」というオーダーで家を作ってはいるけれど、どんな生活をしている人が住むのか、その土地の特性で一番コストバランスの良い設計はなんなのか、と掘り下げて行った結果が「ビルの家」だったり「小屋の家」だったり、「家の家」だったりするそうです。

#6 白岡ニュータンプロジェクト

スリッパを並べれば住宅が売れていた時代」は終わり、「(住宅購入のターゲットである)30代に、何が受けるか全然分からない」、という相談から始まったプロジェクトだそうです。
変形街区をどう活用するか考えた結果、「典型的な住宅」ができたそうです。
マーケットリサーチから始めても、出来上がるものがあまり変わらなかった」と仰ってはいましたが、グッドデザイン賞を受賞されているようです。
下記リリースによると「仲間と集えるデッキのある庭」、「家庭菜園の庭」、「季節の花木を眺める庭」など利用を明確にした外部空間の提案、とあり、それぞれ個性を持った住宅になっているようです。

#12 すばる保育園

「子供だちが楽しめるよう、ディズニーみたいな施設にしたい!」という話から、自然の多い周囲の環境と溶け込むような、一切の記号を取り除いたジオメトリーだけの空間に仕上がりに。
盛り上がった屋根の形は、奥に見える山と呼応するような形になっているそうです。

#13 鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設

環境教育施設ってなに?」というところから、学生さんとワークショップを重ね、みんなのアイデアで、みんなで作る、まさしく「知の集合」が形になった施設だそう。

#15  G Chair


画像検索によって得られた椅子の構成要素を類型化し、一つの統合形を導き出すという手法を世界9カ国の主要言語で行い、最終的に「世界がイメージする椅子」ができあがっているそうです。
機能性などは加味されていないのだと思うのですが、これ座れるのかな?という仕上がりになっているのが非常に面白いなと思いました。

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藤村さんがシティマネジメントに関わる中で見えてきた社会の課題を解決し、活性化するための「ちのかたち」、「マルシェ」についての展示です。

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これからの「ちのかたち」を予見する「離散空間」についての展示です。
弱い素材を繋ぎ合わせた紙の構造体により、自然に奥へと促され、壁のモニターと自然に向き合う導線になっていて、商業施設に用いられるこういった空間が、公共空間にも応用できないかという提案でもあるそうです。

#18  Deep Learning Chair

Google画像検索で得られた「椅子」の画像データを、AIにより再設計し形にしたものだそう。
具体的には、60分割した立方体の集合を分析し、深層学習によって形態を再構築したとのことですが、これが椅子の正解の形、ということではなく、「現在の到達点」として捉えて、この「もやっとした感じ」を持って帰ってほしいと仰っていました。

#15 G Chair が人間が出したビッグデータからの答えで、#18 Deep Learning Chair がAIが出した答え、と対して展示されているのが非常に興味深かったです。

まとめ

人間がどうやって設計しているかを研究しながら設計されてきた」という藤村さんですが、人間が設計する際に「何を目指しているのか、どうやってコラボレーションしているか」を常に研究しておかないと、人間もデザイナーも役割を失うのでは、と最後に仰っていたのが印象的でした。

また藤村さんの設計プロセスとして、

ジャンプしない
枝分かれしない
後戻りしない

「わかっていること」から解いていき、守るべきルールを見出す

というのがあるそうです。また展示会パンフレットには、

インプットされた「1つの新しい知識」について、「1つの新しいかたち」を与えることを徹底的に反復すると、統合のプロセスはよりよく可視化されていく
知識と形態の関係を可視化すると協働がしやすくなり、創発が起きやすくなる
成果が時間とともに急速に拡大しやすくなり、単なる線型的な変化が、非線形的な変化へと転じる

と書かれていて、プロダクトデザインのプロセスに共通するところが大いにあるなと思いました。
また様々な分野で、協働や創発を活性化させるための取り組みがなされているんだなあと改めて感じました。

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今回のミッドタウンデザイン部の朝活も非常に有意義で勉強になりました。
いつも素敵な会をありがとうございます!