好きな選手の前でテンパらないようにするには(野球ファンの人生相談に住職が答えます:再掲)

今回のお悩み「好きな選手の前でテンパらないようにするには?」
あがり症なので野球選手からサインを貰う時、緊張しすぎて手汗が止まりません! 今年も春季キャンプに行くのですが、好きな選手の前でテンパらないようにするにはどうしたらいいでしょうか?
(30代・女性)



あらゆる物質は、見る人の目次第で、いかようにも変容する


 うーん、わかります。わかりますよ。

仏教の代表的な経典、般若心経の中に次の一節があります。「五蘊皆空(ごうんかいくう)」。「五蘊」はこの世を形作っているありとあらゆる要素。そのひとつが「色(しき)」です。色とは物質のことです。五蘊は皆、空(くう)である。物質が空である、つまり実態がない、とは、あらゆる物質は、見る人の目次第で、いかようにも変容する、万人に共有されうる決定的な定義など存在しない、ということです。同じ般若心経に出てくる「色即是空(しきそくぜくう)」も全く同じ意味です。



あなたが愛してやまない選手、他の人から見ると……
 例を挙げてみます。今、あなたの目の前に、硬式のボールと一緒に、見覚えのあるかたちをした、80センチくらいの木材が置いてあるとしましょう。「これは何ですか?」と私が問えば、あなたは「バットだよ!」と答えますよね。では、それは本当にバットなのでしょうか。脳内で、様々な職種の人に聞いてみましょう。

植物学者「アオダモです」
料理人「すりこぎだ」
警察官「凶器だな」
暴走族「武器じゃね?」
小学生「木だよね」
高齢者「杖じゃな」

 あちこち無理がありますが、要するに、物質というものは、見る人によっていろいろなものに見えるのです。そして、その見方はその人にとって、正しい。これを踏まえて、あなたの好きなA選手が、その正体を知らない人からは、どんな風に見えるかを考えてみましょう。多少意地悪な目線で列挙してみると効果的です。

「チャラ男」
「筋肉バカ」
「女子アナフリーク」
「六本木大好き」

 さらに見方を変えて、彼の姿をズームアップ、接写してみましょうか。何が見えますか?

「耳毛」
「毛穴」
「無精ひげ」
「でかいほくろ」

 さらに目視できないところまで想像すると
「細胞の集まり」
 
 いかがでしょうか。つまりA選手は、あなたにとっては「あこがれのスター」であっても、どこかの誰かにとっては、「耳毛や毛穴や無精ひげやでかいほくろ、究極的には細胞の集まり」なのですよ。あなたは「耳毛」に会うのに興奮している。そう思ったら、テンパるだけばかばかしいと、思えてきませんか?

 もうひとつ、「諸行無常(しょぎょうむじょう)」という言葉も覚えておきましょう。万物は常に流転し、変化する。現在、解説者席にデーンと腰を下ろし、薄くなった頭と肥大した腹を撫でながら結果論の解説を繰り返しているBさん。30年前はジャニーズ顔負けのスーパースターで、行く先々で女性ファンからキャーキャー言われていたのですよ。現在のBさん、それはもしかすると、A選手の未来の姿、と、言えなくもないですよね。いつまでもかっこいい選手なんて、そうそう居ないのですよ。次の機会にはそんなことを思いながら、A選手に接してみてはいかがでしょうか。もちろん、選手へのリスペクトの念を忘れずに。フランクに接し過ぎぬよう。

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