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ギター

過去の出来事というものは、土の下に眠っている。だからこそ地面を掘り起こし、遺跡というものを発見する。遺跡からは多くの歴史的産物が発見される。土器や埴輪や装飾品などが分かりやすいところだろう。

ただ、今回の遺跡からは歴史的産物とは言いがたいものが発掘された。そう、ギターである。黒いハードケースに入れられた状態であったため、ギターそのものはほとんど劣化していなかった。よく巷で見かけるウッド色のアコースティックギター。この発見はニュースでも取り上げられ、様々な憶測が飛び交った。

「そのギターは私のものです。」そう名乗り出てきたのは、20代の女性であった。発掘を指揮した教授とその助手は会議室で彼女の話を聴くことにした。

「ある日いつものように河原でギターの練習をしていました。河原でギターを弾いていると天気が悪くなりカミナリが鳴り始めました。すぐ真上で大きな音がしたので、上を見上げると黄色い光線が私に降りてくるのが見えたんです。その瞬間意識をなくしていました。目が覚めると、私はワラで編まれた敷物の上で寝ていました。近くには囲炉裏があり、何人かの人が話をしています。私に気づくと近づいて話しかけてきますが、全く何を言ってるのかわかりません。日本語のように聞こえなくもないですが、全く理解できませんでした。それでも彼らは親切にしてくれました。食べ物をくれて、寝床も用意してくれました。私も彼らに親近感を持つようになり、彼らの生活を手伝うようになりました」

女性は一口水を飲んだ。教授たちは質問するのを堪え、彼女の話の続きを待った。

「ある日の朝、外で大きな爆発音がしました。体の真ん中に響くような音でした。外に出てみると、近くの大きな山から黒い煙が立ち上っていました。また大きな爆発音がしました。黒い煙がさらに立ち上ります。逃げなければ!本能的にそう思いました。私たちは高台まで一目散に逃げました。ギターを忘れてきたのは後から気づきました。逃げている間に彼らとはぐれ、私ひとりになった時、天気が悪くなってきました。雨が降ってきて、カミナリも鳴り始めます。頭上でカミナリが鳴り、見上げた瞬間黄色い光線が降りてくるのが見えました。次に目覚めたとき、自分の家のベッドの上にいました」

今度は教授が水を飲んだ。そして息を大きく吐いて口を開いた。

「今回発見されたギターがあなたのものである証拠はありますか?」

彼女は少し考えてから口を開く。

「ある夜に近くの川で大きな魚が釣れました。自然の恵に感謝するため、その夜はお祝いが開かれ、みんなで歌ったり踊ったりしました。もちろん私はギターを弾きました。オリジナルの曲です。弾き終わると、彼らは手を叩いてくれました。そして私のギターのストラップピンの近くに、黒い石で二重丸を刻んでくれました。二重丸の意味はわりません」

「ただ、私のギターには白い二重丸が刻まれています」

発見されたギターを調べる。すると本当に二重丸が刻まれていた。このギターは彼女のもとに返されることになった。

「最後に、あなたが彼らのために弾いたオリジナルの曲を聴かせてもらえませんか?」

彼女は快く聴かせてくれた。いつかと同じ音色が吹き抜けていった。

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