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第4章 中小企業のマネジメント・コントロール・システムと組織成員の動機付けに関する実証研究 -熊本県・福岡市内の中小企業を対象として-

今回は第4章です。第2章,第3章と熊本県と福岡市の中小企業を対象としたサーベイ調査(いわゆるアンケート調査)の結果をもとに,共分散構造分析という手法を用いて,マネジメント・コントロール・システムと組織成員の心理的要因(モチベーション),そして企業業績との因果関係を明らかにしようとしたものです。

その分析方法にはいろいろと問題があると自分自身では感じていますが,このあとに続く定性的調査(インタビュー調査)へとつながる重要な章なので,著書の中にも加えました。とても気恥ずかしいのですが,ぜひご一読ください。

1.はじめに

マネジメント・コントロール(Management Control)は,組織成員の動機づけが組織目標に沿うものになるように働きかけ,組織目標と個人目標との整合性が促進されるように機能するものである(Flamholtz et al. 1985)。その構成要素は予算に代表される管理会計システムや,経営理念や社訓,従業員の取るべき行動を示した行動規範や業務手順書など,組織成員が利用することのできるあらゆる仕組みからなっている。こうした多様な要素から成り立つMCS(Management Control System:以下MCSと略記する)は複数のコントロールシステムが単独ではなく,組み合わされたパッケージとして機能すると考えられている(Otley 1980) 。

MCSの構成要素をどのようにして定めるかは非常に難しい問題であるが,本章では便宜的にSimons(1995)の理論をもとに検証を行う。Simons(1995)は,MCSとは経営者が組織行動のパターンを維持または変更するために活用する情報を基礎とする公式的な手順と手続きであると定義し,MCSを構成する4つのコントロールレバーを提示している。これまで先行研究においては,Simons(1995)のフレームワークを用いてMCSが組織においてどのように機能しているのかについてさまざまな実証的な分析が行われている。

本章はこのような先行研究の知見を活かして,中小企業のMCSが組織成員の心理的要因にいかに作用するかについての実証研究を試論的に行うものである。同様の研究は,上場企業と関西圏の非上場企業を対象とした澤邉・澤邉ゼミナール(2008),澤邉・飛田(2009a, 2009b)が行っており,本章はその一連の研究として位置づけることができる。特に澤邉・飛田(2009a)では中小企業においてもMCSが組織成員の心理的要因に作用していることを明らかにしている。この研究成果を受けて,これまで2010年秋に熊本県,2011年夏に福岡市において「中小企業の経営管理・管理会計実践に関する実態調査」と題した調査を実施した(詳細は第2章を参照)。本章はこの調査から得られたデータをもとに,以下の分析を行うものである。まず,中小企業のMCSと組織成員のモチベーションの関係について分析する。次に,調査サンプル企業を従業員数で規模別に分類し,規模によってMCSが組織成員のモチベーションに与える影響に違いが見られるかについて分析する。こうした分析を通じて、中小企業における管理会計実務の一端が明らかになれば幸いである。

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