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第5章 中小製造業に見る管理適合的な記録とは:「管理中心主義」からの検討

いよいよ本章から事例研究に入ります。今回の著書では独立した章で8社の調査結果をもとに述べていますが、ここに挙げた2社を加えると全部で10社の中小企業の事例となります。業種は製造業を中心に絞り込んでますが、企業規模は多様。これまでのアンケート調査でも明らかなように、従業員数30名程度から次第に公式的な管理システムが整備されていく様子が明らかになっていますが、実は研究において最も苦労して、最後の最後に手をつけたのは第5章と第6章で取り上げるいわゆる小規模事業者の事例でした。

多くの人が「中小企業で管理会計なんて」と考える中、公式的な管理システムの存在を持って管理会計の存在を同定するとなかなか難しい研究対象ですが、ここ数年で管理会計研究が進んできたこともあって小規模事業者での管理会計実務も研究対象になってきているし、「どんぶり勘定」であったとしても十分に「会計」が行われていることがわかります(表紙の画像もだからどんぶり(笑))。ただ、研究を進めていく中で、私はこれまであまり対象にされてこなかった中小企業の会計実践にこそ、会計の本質的な機能が観察できなぁと感じた次第。1つ1つの事例研究をもとに何が明らかになっていったのかを読んで頂ければ幸いです。

1.はじめに

かつて岩田(1953)は「会計管理は,会計の基本的な機能なのである」(岩田1953,13)と指摘するとともに,岩田(1955)は簿記を「決算中心主義の簿記」と「管理中心主義の簿記」に区分した。さらに,簿記は,半年後,1年後の利益計算のためにやっているのではなく,「毎日々々の日常的な管理の機能を果すためにやっておる。ただ,本来はやっているのだが,それが本当に認識されておらない」(岩田1955,11)のだと指摘し,簿記研究を,利益計算を行う決算中心主義だけに閉じ込めるのではなく,日々の事業活動を管理する管理中心主義についても深く検討する必要性を説いた。

そこで本章では,岩田(1955)の言う「管理中心主義の簿記」とする考え方に立脚して管理適合的 な記録とはいかなるものかについて考えたい。つまり,岩田(1955)のいう「管理中心主義の簿記」とする考え方が,その説明だけはかならずしも明確ではないので、実例をもとに「管理中心主義の簿記」が実際にどのように表れているのかを検討したい。以下では,沼田(1968)が示した帳簿組織に関する論考と,中小製造業を事例に情報が生成されるシステムがどのように作られ,利用されているのかを観察することで,経営管理のために用いられる情報システムがいかにデザインされているのかを示す。

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