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#5. スプレー式食器洗剤のマーケティングを考える(花王編)

前回のnoteでは、Yahoo Comment Listening と題して、P&GのJOYブランドリニューアルの記事につくコメントを考察し、

スプレー式洗剤は、手洗い式洗剤の「手荒れと洗浄力のトレードオフ」
を解決する画期的なブレークスルーでは?

と締めました。今回と次回のnoteではこのスプレー式洗剤の花王とP&Gの戦略について考えたいと思います。

1. 花王とP&Gの戦略の違い


もし、スプレー式洗剤を開発した会社がシェア下位や新規に参入する企業であれば、スプレー式の利点を大きく訴求し、シェア上位企業からのブランドスイッチを狙うでしょう。
「もう手荒れに悩まなくていい、食器洗いの革命!」なんていって。

しかし、スプレー式を最初に開発したのはシェアトップの花王。花王にとって「スプレー式で手荒れしない」は、結局キュキュットの手洗い洗剤からキュキュットの泡スプレーへのスイッチが多くなるので、ある意味売り上げを相殺してしまうことになります。

とすれば、花王が行うのはスプレー式で食器用洗剤市場を広げること。理想をいえば、既存の手洗い式の洗剤+スプレー式洗剤の2本をキッチンにおいてもらいたい。よって、花王のスプレー式洗剤のマーケ方針は、市場開拓。

「スポンジでは洗いにくかった部分の汚れをスプレーで簡単に落とす」

を訴求し、市場を拡大することになります。商品投入時は市場の5~10%の拡大を期待していたようです。

一方でシェアで後塵を拝するP&Gは、多少自社商品とカニバったとしてもシェアトップの牙城を崩したい。よって、マーケ方針はブランドスイッチ。

「スポンジ洗いよりも簡単に汚れを落とせる」

で、手洗い洗剤(=花王がシェアトップ)からのスイッチを図る、になります。よって、戦略の構図としては

市場を広げる花王 VS 花王のシェアを狙うP&G

となり、トップシェア企業の戦略と2位以下企業の戦略としてはどちらも定石ですが、それが同時に起こっているのが面白い状況に見えます。

先にスプレー式を出している花王は、仮にP&Gが「スプレー式で時短」をキーワードにシェアを伸ばしてきても、その流れに乗っかりながらさらに価格競争を仕掛ければ、ダメージを最低限に食い止めれます。仮に「スプレー式で時短」がそこまでひろがらなければ、それはそれで現在の戦略を進めればよいのです。

一方でP&Gは(花王が大声では言わないだろう)「スプレー式で時短(=手洗い式洗剤からのスイッチ)」をなんとか自社ブランドの価値として強固なものにしたい。商品としては後出しだとしても「大きな声で言ったもん勝ち」を目指したい。

戦略の打ち手としては花王のほうが有利な手を持っているように見えるので、P&Gがこれからどう攻めてくるか、非常に興味深いです。また、このままでは一番割を食うのはライオンのマジカになりそうですから、こちらの出方も気になります。

ということで、以下では

・花王がどのようにスプレー式洗剤を展開してきたか
・もし自分がP&Gの立場にいたらどうやって花王にチャレンジするか

を考えてみたいと思います。 
※P&Gについては、次のnote
#6. スプレー式食器洗剤のマーケティングを考える(P&G編) で考察

2. キュキュットCLEAR泡スプレーのこれまで


キュキュットの泡スプレータイプは2016年の10月に発売され、2018年9月にリニューアルが実施されています。価格は税抜きで300円ほど。通常のタイプは200円しないので高いと感じますが、ここは戦略的な価格設定でしょう。

開発経緯についてはこちらに詳しく、9年かかったそうです。

商品については、HPに詳しく書かれています。

スポンジが届かない汚れを、 すみずみまで清潔に!
奥・ミゾ・スキマの汚れも スプレーして流すだけ!

とあるように、スポンジ洗いでは落としにくい汚れの洗浄をメインに訴求しています。他にもティーポットのそそぎ口やストローマグ、離乳食グッズにと確かにスポンジでは洗いにくい点で、かゆいところに手が届く商品ですね。乳幼児をもつ親にとっては、洗いにくいストローの中まできちんと洗浄できるのはとても便利だと思います。

発売当初のプロモーションは、

『洗剤は従来テレビCMなどのマス広告を通じた認知が一般的だっ
 たが、CLEAR泡スプレーは、吹き付けるだけで汚れが落ちる劇
 的な効果に驚いた消費者が、実際に商品を食器洗いに使用した動画
 をソーシャルメディアにアップ。それが広く拡散して大ヒットにつ
 ながった点も新しい』2018/02/09 日経MJ
https://archives.mag2.com/0000111700/20180219235000000.html

とソーシャルメディアを使った口コミがメインだったようです。

料理系のインスタグラマーやハッシュタグでの投稿呼びかけなど、ターゲットのいる場所でしっかり使い方を訴求。

特にインスタを使うことで、具体的な利用シーンがわかるので、初めてのスプレータイプでも安心して使うことができます。なにより、使った人の実感のこもったコメントをみると使いたくなりますね。例えばこんなコメントが写真と一緒にのせてありました。

2人揃ってマイボトル派(^^)
私は緑茶、相方さんはコーヒーを。

飲み口が外れて洗いやすいのはいいけど、普通のスポンジ洗いじゃ2枚目の隙間がなかなか洗えません‼️
そこでキュキュット泡スプレー(о´∀`о)
しばらく放置して流すだけ♪
愛用してます♪

確かに、ボトルのあの部分って洗いにくいですよねーと思うと使ってみたくなります。

その後、2018年9月にリニューアルし、直近のCMではフライパンなどの油汚れがひどくて手で直接触りたくないものへの使用へと、ちゃくちゃくと利用シーンを広げています。

発売直後から計画していた売り上げを大きく上回り、去年までで累計3000万本の売り上げでヒット商品となっています。しかし、食器用洗剤市場全体でみるとシェアトップ10に入っていません

もちろん価格が高いということもありますが、まだまだ多くの人には知られていない=市場としては拡大の余地ありだと思います。P&Gがスプレー式を投入、認知拡大をはかることでスプレー式洗剤市場が活気づけば花王にとっても嬉しいわけです。

ここまでのマーケティング施策はお見事!ですね。web上で調べただけなので全体の一部だと思いますが、マーケティングのお手本となるような一連の施策だと思います。

コルク代表の佐渡島さんの著「ぼくらの仮説が世界をつくる」の中に、

ぼくが仕事をするときに抱いているイメージが「ドミノを倒す」ということです。ある1枚のドミノを倒すと、次にどのドミノが倒れるのか、それをいつも意識しているのです。

という一節があるのですが、まさにドミノが次々と連鎖していくような印象を受けました。最初から大きなマーケットを狙わず、ニーズが特にありそうな層に絞り施策を展開し、一定の支持を得る。そして少しづつユーザーを広げていく。

個人的にはスプレー式はそれほど開発が難しくないんじゃないかと思っていましたが(失礼!)、開発に9年かかったということは技術的に相当困難であり、P&Gの投入が2年ほど遅れているということを考えると、花王の日本初のイノベーションなのではないかと思います。

花王が一番嫌がるのは、他社が既存の洗剤並みの価格で発売することだと思いますが、模倣の困難性から考えるとこの線はなさそうですね。当然特許などで技術保護はしていると思いますし。

後発となるP&Gといえど、さすがにそこまでの価格競争を仕掛けてくるとは思えませんが、では花王とこれからどう戦うか?はとても気になります。

3. あなたがJOYの立場ならどうする?


では、自分がP&GのJOYの泡スプレーを売るとしたらどうするか?

もし自分だったら、花王の施策を横目に見つついったん忘れます。市場全体で見ればスプレー式洗剤の使用率はまだまだ低いと思うので、どうやったら多くのユーザーに使ってもらえるか、を考えさらにキュキュットでは手を出しにくい領域はどこかを考えます。

その一つの図式が冒頭に書いた、

市場を広げる花王 VS 花王のシェアを狙うP&G

になります。HPに表示されているコピーを比較すると、

(P&G)
ジョイ ミラクル・クリーン 泡スプレー
もうこすらないでいい!これが食器洗いの新常識!
スプレーするだけで汚れを流し落とします。

(花王)
スポンジが届かない汚れを、 すみずみまで清潔に!
奥・ミゾ・スキマの汚れも スプレーして流すだけ!

となり、P&Gは明らかに手洗い洗剤の代替を狙っていることが伺えます。が、市場が大きすぎるが故、どこを狙うと最初のドミノが倒れるか?を慎重に考える必要がありそうです。

「時短」をキーワードに挙げていることから、「手荒れに困っている人」というよりも「家事や仕事が忙しく食器洗いがわずらわしいと思っている人」をメインのユーザーとしてとらえているようです。ではこの人たちにどのようにアプローチすればよいのか?は次回のnoteで考えたいと思います。

※プレスリリースでは泡スプレータイプの発売は3月下旬とありましたが、Amazonではすでに販売されています(先行発売?)。すでにレビューがいくつかついており、おおむね高評価を得ています。


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