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#6. スプレー式食器洗剤のマーケティングを考える(P&G編)

前回のnoteからの続きで、今回はP&G JOYの泡スプレーのマーケティングを考えたいと思います。

花王キュキュットのマーケティング戦略を振り返ると、方針は市場拡大。スポンジ洗いでは落としにくかった汚れを、スプレー式を使うと簡単に落とせることを訴求し、台所にもう1本洗剤おいてもらう、というものです。

https://lohaco.jp/product/3329770/

で、これに対してP&Gの戦略方針は手洗い式からスプレー式へのスイッチ。今回のnoteでは、どうやってそれを達成するかを考えたいと思います。

0. スプレー式の何がすごいのか


前回から何回もふれていますが、スプレー式の洗剤はとても画期的な商品だと思います。人が食器を洗うという行為は古くからあると思いますが、”食器に直接触れずにきれいにする”という行為がこれが初めてではないでしょうか。

それは多くの人が悩まされてきた手荒れからの解放につながり、時間的な短縮も大きなメリットでしょう。食洗器の普及している国ではインパクトは小さいかもしれませんが、そうでない国ではこれからの食器洗いのスタンダードになっていく可能性があると考えます。

特にP&Gは日本でのマーケティングスタディを海外へ展開することによって、大きなアドバンテージを得ることもできます。そこで、

「スプレー式がメインの洗剤となり、手洗い式タイプは補助になる」

という将来的なビジョンを描いたマーケティングが必要になると考えます。これは現在の花王の戦略とは真逆ですが、そこに戦略の価値があると思います。花王はこの戦略をすぐには採用できないので。

このビジョンはちょっと大げさかもしれませんが、画期的な商品なのでビジョンも大きく持っておきたいですね。

1. P&Gのスプレー式は花王と何が違うのか


とはいえ、花王はすでにスプレー式の洗剤を出しているし、そんなに違いがあるの?と思いました。なので、具体的なマーケティング施策を考える前に、P&Gの泡スプレーは花王の商品とどう違うか、どこに優位性があるかを考えてみたいと思います。

商品は3月下旬発売の予定ですが、先行で発売されているAmazonにキュキュットと比較したレビューがあったので引用します。
(気になった点を太字にしてます)

私にはこちらのジョイの方が使用時の快適さを感じました。具体的に言うと、泡が広がる。そのお陰でワンプッシュで広い面に泡が広がる。そして、今までのように細いスプレーにも対応しているツーウェイタイプ。正に痒いところに手が届く商品でした。
デメリットを探すならば、キュキュットに比べ、液が緩く感じる。ただ、液が緩いからと言っても汚れ落ちはバッチリです。感覚としては、キュキュット以上に洗い上がりがバッチリです。キュッと音がなるほどヌメリなく洗いあがります。お値段の差もあまりないので、ツーウェイボトルの方が私はメリットを感じます。
先駆者である他社の類似商品を愛用していましたが、コンセプト通りスポンジが届きにくい汚れに狙い撃ちする作りのため全体に使うには何回も噴射する必要があり、洗剤の消費も早く、却って手が疲れてしまうので要改善だなと思っていたのですが一般流通前にこちらが発売されたのでお試しに購入した所、解決しました。
うーん、広い泡を出せるのは便利だと思うけど、手に液が触れた時のヌメリがすっごい気になるんだよなぁ。ノズルを変える時にいつもヌルヌルする。
もともと肌が弱いからかもだけど手が荒れちゃった。
子どものマグを洗う時、ジョイだと強すぎてちょっと心配です。
比較してキュキュットの方がスプレー自体のポテンシャル(威力)も高いし、香りもいいし、全体的に気持ちよく洗えます。


プレスリリースにもありましたが、広い泡と細い泡を使い分けることができる業界初の二種類のスプレーヘッドが高い評価を得ており、広範囲にスプレーできるのがJOYとの違いとして感じられているようです。

自分もJOYのスプレータイプを使い始めたのですが、確かにマグカップくらいのものにはピンポイントでシュッとできるのですが、大きめの皿になると何回か吹きかけねばならず、もっと広く吹きかければなと思いました。

細い泡でJOYと同じようにスポンジの届きにくい汚れを狙うこともできるし、広い泡で広範囲の油汚れも一吹きでスプレーできる。P&Gのほうが汎用性が高く、これ1本で大抵のものは洗えそうというのは強みになりそうです。冒頭にあげた、

「スプレー式がメインの洗剤となり、手洗い式タイプは補助になる」

というビジョンにおいても、この汎用性は既存の手洗い式洗剤からの代替を促す高い商品力になりそうです。スプレー式を「普段の食器洗いに使うもの」というイメージをつければ、先行している花王を逆転する可能性は大きくなると考えます。

ではこの優位点をどう伝えていくか?商品を売っていくか?を考えます。

2. P&Gのスプレー式洗剤の売り方を考える


プレスリリースによると

発売当初の共働き世帯率は約40%でしたが今や約 70%となり、(中略)食事に関する家事の中で「食器洗い」は最も時短ができておらず、8割の方がストレスを感じ、買い物や調理などの工程に比べ大きな負担になっていることが分かりました。

とあります。「食器洗いにストレスを感じている共働き家庭」を想定しているようですが、いったんユーザーは置いておいて、JOYの泡スプレーがどのようなシーンで効果を発揮しそうか考えてみます。

前述したとおり、JOY泡スプレーの良いところは、

広範囲に泡が広がり、手を汚さずに油汚れを落とせる

です。この特徴が活きそうなシーンを考えると、例えば

①作り置き料理

ここ数年増えている作り置き調理。料理の時短ですが、大きめのタッパーを使うのと、コーナーのよごれが気になる。モノによっては意外と油汚れも。こんな時にシュッとスプレーして簡単に洗いが済めば、洗いも時短できて嬉しい。

https://snapdish.co/d/GTu0aa

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②ワンプレート料理

よくインスタで見かける、ワンプレートタイプの料理。見た目がおしゃれというのもあると思いますが、洗い物が少なくて済むというのもメリット。もともとワンプレートで楽なうえ、スプレーだけで洗い物がすむならもっといいかも。

https://snapdish.co/d/HSyuqa

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③ホームパーティー後の食器、調理用品

家族みんなで作って食べる餃子。餃子を作るのも焼くのも楽しいけど、餃子のタネをつくったボウルや焼いたフライパンは油ギトギト。これなんかもシュシュっとスプレーしておいて、後は軽くこすって汚れ落とすだけ、になったら便利。

https://www.tokyogyoza.net/archives/42215604.html

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という感じで、活躍しそうなシーン多そうですね。これを書いているだけで欲しくなってきたかも。

普通に”時短”といわれても、ちょっとピンとこなかったのですが具体的なシーンがあると興味がそそられます。

この「具体的なシーンを見せて」というには、まさに花王がキュキュットの泡スプレーでやっていたことです。インスタグラムに、ユーザーが利用シーンをアップして、それを見た人が使ってみてまたインスタにアップする、という良い循環ができていました。

https://www.instagram.com/

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こうした利用シーンがインスタ上に具体的にアップされているのであれば、P&Gもそれを活用して(のっかって)、スプレー式洗剤の利用シーンを訴求していくという手法は有効だと思います。

広範囲にもピンポイントでもツーウェイで使えるJOYなので、
・キュキュットのできることはJOYにもできる
・キュキュットの苦手なこともJOYはできる
という見え方になると、後発でも優位なポジションに立てそうです。

また、”作り置き料理”や”手作り餃子”のような、JOYの泡スプレーが活きるシーンを特定できれば、クックパッドのようなレシピサイトで検索した人に、JOYの広告を表示するというようなこともできると思います。

というようなことを通して"時短"や"ストレスゼロ"という言葉への納得感や共感性を高めていくのが、大きな戦略ストーリーになるかなと考えます。

3. さいごに。感想


「時短」や「ストレスゼロ」というと、マイナスからゼロという印象がしてネガティブな印象を引きずっている感じがするのですが、

・JOYがあるから餃子パーティーを気軽にやってみたくなった
・ハンバーグを焼いたあとのフライパン汚れが嫌だったけど、JOYがあるから子どものためにハンバーグを作るのも少し気が楽になった

のような、食器洗いという枠にとどまらず、料理が少し楽しくなる、という方向に将来的には向かえばよいなと思いました。

"P&G ジョイ ミラクルクリーン 泡スプレー"の店頭発売は3月下旬なので、どのようなマーケティング活動が行われるか注目しつつ、実際に2ウェイの効果を確認したいと思います。


■学び
・市場のポジションから相手ができないことを考える
・商品の特徴から競合商品ができないこと、自社商品が有利な軸を考える
・ユーザーにとって、どのようなシーンだと商品が最も魅力的に見えるか考える
・それをどのように伝えると、買ってみたくなるか考える

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以下、本文とは直接関係ありませんが、思考の足跡としてメモを残します。

補足1:食器用洗剤の市場規模、シェアについて


直近の食器用洗剤市場についての市場データが見つからなかったので、Web上で集められたデータから推測しました。

スプレー式の洗剤が出る前の食器用洗剤の市場(2015年)を約540億円と想定しほぼ横ばいでの推移と仮定。キュキュットの泡スプレーは2018年の6月に累計販売本数2000万本を突破し、同年12月には3000万本に到達。半年間で1000万本の販売となり、大きく見積もって1年間に2000万本は売れると考えます。

泡スプレーの単価は約300円、詰め替えはもう少し安いですが1本300円と想定します。よって1年間の販売金額は、

300円 × 2000万本 = 60億円

となります。泡スプレーが花王の戦略通り、市場を拡大していると考えると食器用洗剤市場は

540億円 + 60億円 = 600億円

となり、そのうちのスプレー式の売り上げシェアは

60億円 ÷ 600億円 = 10%

になります。これはかなり多く見積もってますが、まだ10%。手洗い式洗剤からの代替ポテンシャルはかなりあるのではないかと思います。

補足2:手洗い式からスプレー式への代替速度について

手洗い式からスプレー式へどのくらいの速さで変化が起こりそうかざっくり考えてみます。仮に既存の手洗い式洗剤を使っている人が100人いて、毎回の購入時に2人がスプレー式洗剤に代替するとします。

100 : 0 → 98 : 2 → 96 : 4 → 94 : 6 .... と代替していき、25回繰り返した時点で手洗い式とスプレー式の割合がちょうど半数になります。購入頻度を月1回と仮定すると年に12回の買い替えタイミングが発生し、約2年後にはスプレー式が半数に達します。

もちろん上記の数字はかなり適当においてますが(ストック分も考慮していない)、購入頻度は変わらない/変えにくいと思うので、マーケティング施策でアプローチできるのは、どれだけの人が代替するかの部分。

ここはメディアへの投入量とも比例してくると思いますが、P&Gに刺激されて花王も大規模なコマーシャルを展開することになったら、数年のうちにスプレー式が洗剤市場の多数を占めるようになるかもしれません。


楽しんで読んでもらえたらうれしいです