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痴漢に遭わない日、それが特別だった頃の話。

性犯罪の被害者。

それが私。

もしかしたら、読んでいる貴方もそうなのかもしれない。

そしてもしかしたら、貴方の子供もそうなのかもしれない。

昨夜、コンビニですれ違い様におじさんが触ってきた。


私はお菓子を選んで通路に立っていた。
ドリンクの方から、おじさんがレジに向かうべくお菓子の通路に曲がってきた。
そのおじさんは反対側の端に避ける素振りなんて全く見せず、真っ直ぐ通路の真ん中を歩いてきた。このままだとぶつかる…そう思った瞬間、私とすれ違う瞬間、まるでお菓子を取るかのように、おじさんは手を上にあげて前に出した。

痴漢だった。

人が来るから邪魔にならないよう端に避けようと、身体を動かす準備体勢に入っていたため、咄嗟に避けることができた。
お菓子の棚に張り付いて身体を薄っぺらくして、おじさんに背中を向けた。
無意識で、一瞬の判断だった。

おじさんの手は、
少しだけ私の二の腕を撫でるようにかすって、
通り過ぎた。

おじさんは何事もなかったかのように真っ直ぐ前を見続け、歩みをとめず、触れた手をおろし、反対側の手で持っていた商品をレジに置いて会計を済ませて出て行った。

久しぶりで、心臓がバクバクした。

胸を触られるのは未然に防げたけれど
身体の一部を触られてしまったこと。
胸を触ろうとしてきた人間と出会ってしまい、標的にされたこと。

気持ち悪かった。

「そんなの痴漢じゃない」
「ただぶつかっただけ」
そう言う人もいるかもしれない。

ただ、故意で人にぶつかろうとする人の異常性をまず思い出して欲しい。経験ないなら想像して欲しい。
そして私が避けなかったらあの手はどこにぶつかっていたのか、推測して欲しい。
何故あのタイミングで手を上げたのか、何故すれ違ってからその手を下ろしたのか。
考えたくないけれど考えて欲しい。

面倒でも外出時には必ずブラジャーをつけなければいけない意味が改めて分かった。
あいつらに生乳の感触を与えないためだ。
頭に浮かんだ事はそんな考えだった。

すれ違いざまに触ってくる痴漢は初めてではない。
あいつらはまるでたまたまぶつかったかのように
何かの間違いかのように
こっちを見ずに一瞬だけ触ってくる。
胸でもおしりでも頭でも遭った。

けれどコンビニで遭うのは初めてだった。

未然に防げたにも関わらず動悸が止まらず震えて吐き気がして過呼吸を起こしそうになった自分にも、ショックを受けた。


もっと酷いこと散々されていたのに

久しぶりで、忘れてた?

いや、あの時が麻痺してたんだな

そう自覚できてしまった。

思い出したくなかった。


初めての痴漢は小学3年生。

電車の中で、お兄さんがランドセルを持つ私の手に股間を押し付けていた。

お兄さんがハァハァ苦しそうにしているのを「体調悪いのかな、大丈夫かな」なんて心配していた。
電車から降りる時も、お兄さんのことを心配していた。


あれがどういう意味だったのか知ったのは、高学年になってから。
気づいた瞬間、手を洗いまくった。
それから数年間、潔癖症になって常に手を洗いまくる強迫観念にとらわれていた。
コロナ禍に入る前からアルコールジェルが手放せなくなってしまった。


小3で生理がきた。
身長はいつも後ろの方。
痩せているのに、胸が膨らんできた。

同級生と比べてムチムチしているのが恥ずかしかった。
制服だから、皆同じ服を着ているから、他の子と違うのが余計に気になった。

他の子と比べて発育が早かった私は、思春期を迎える男子生徒の格好の餌だった。
女子生徒は僻んであることないこと噂した。
純粋なふりしてエロい知識をたくさん聞いてきた。
私も分からないとぶりっ子していると言われた。
勉強して答えられるように頑張った。
性の知識が増える事が認められる事だった。

中学生になる頃には、Dカップになっていた。
スポーツブラを卒業してからしっかりしたワイヤー入りの刺繍が可愛いブラジャーを買ってもらっていた。
母親も、発育の良い姉もそういうブラジャーを使っていたから、そういうものだと思っていた。
シンプルで綿のブラジャーの存在を知らなかった。

制服だったことからも、少しでも自分のテンションを上げたいからと可愛い下着が好きだった。

誰かが私も可愛い下着が欲しいと親にねだったのだろうか
体育授業の着替えで私の下着を見た女子生徒が「親に内緒で派手な下着を身につけている」
「毎日勝負下着をつけているビッチ」と噂していることを知って心配した保護者が
「お宅のお子さん派手な下着をつけているらしいわよ」と母親に教えてくれた。

母親は「ちゃんと私が選ばせて買っているものなので大丈夫ですよ。」と言ってくれたらしい。
けれど真実がどうかだなんて誰も興味ない。
噂はどんどん独り歩きして、私はビッチな女だと認識されていた。

小学高学年から発育の良さと男女ともに仲良くしていたことが反感を買い、私にいらがらせをする女生徒がいた。

その女生徒は中学校に進学して高いスクールカーストを手に入れたことで、私への無視をクラスメイト全体へと広めることができてしまった。
虫の死骸をぶちまけられたりと少しだけ嫌がらせもされたが、無反応な割に手間が大変だったのかほんの少しだった。

お弁当は外で一人で食べて、図書室で過ごしていた
(本が好きなのでそれはそれで心地良かった)


今回の話とは関係ないので割愛する。


とりあえずつまり私は
無視もされていて
いじめられてもいて
ビッチだと思われていた。


そんな境遇の女は、さぞ見下し易かったろう。
アイツはエロい目で見ても良い。
エロい目で見てやることで喜ぶはずだ。
そんな認識をする男子生徒が多かった。


クラスメイトのランキングで「ヤりたい女まNo1」だとわざわざご丁寧に教えてくれる人がいた。
最初は楽しく話していたのに自分の性器の写真や射精している動画を送ってくる人もいた。
自慰してるから声を聴け、電話に出ろと電話をかけてきて、電話もメールも着拒したら次の日から教室であることない事言われていた。
他にもメールしたいけど他の人に知られるのは嫌だから内緒にしてとメルアドを渡してくる人もいた。
お互い初体験を済ませたらセフレになろうと手紙を貰った。
放課後、準備室に呼び出されたりもした。
書けない、書きたくないこともあった。

散々だった。

男にエロい目で見てもらえるなんて光栄だろう。
エロい目で見てもらえる身体を持ってるなんて自慢だろう。
構ってもらえるだけ嬉しいだろうと思われていた。

散々だ。

毎日死にたかった。

けれど私には我が家には
学校を休むという発想がなかった
出席日数は内申点に響く
読書が楽しくて毎日学校に行けた



クラス替えで2年、3年と学年が上がっていくにつれて、無視されることは無くなっていった。

新しいクラスでは無視されていたと知らない生徒(特に小学校か同じだった子)と話す機会ができ
無視されていたのを知っている生徒も人とやり取りしている私の姿を見て
「なんだあの人意外と普通じゃん」
「なんで無視されていたんだろう」
なんて思ったのか話しかけてくるようにもなったから。

そんなもんだ。
馬鹿らしい。

無視はされなくなったけれど
エロい目で見られる事は相変わらずだった。

卒業文集のクラスメイトのランキングには
「1番早く結婚しそう」
「たくさん子供を産みそう」の1位だった。
中学校で彼氏なんていなかったのにね。


高校生に上がった。

知っている人は誰もいなかった。

なのに、また、エロいお姉さん認定されてしまった。

雰囲気だかなんだか知らないが
辞めてもらう手段が分からなかった。

慣れてしまっていて
まぁ仕方がないなと受け入れてしまった。

みんなと仲良くできて嬉しい気持ちの方が勝っていた。

中学時代のたいして仲良くなかった人から連絡が来ると
内容は大体避妊の相談だった。
私は初体験すらないのに。

通学路が遠くなった。
何倍にもなった。

満員電車に揺られる時間が長くなった。
急行で、終電まで、長かった。

タイトル回収。


痴漢に遭わない日の方が珍しかった。

エロい目で見られること

エロいことをされることに

慣れてしまっていた。

あぁ、今度はこういう形で受けるのか…なんて思っていた。

当然の境遇だと錯覚していた。


無抵抗が都合よかったのか
無反応が闘争心に火をつけたのか
みんなしつこくて酷かった

毎日毎日毎日毎日痴漢されていた

車両を変えたり時間を変えたり服装を変えたりしてみた

車両を変えても追いかけてきた

時間を変えても探された

私を見つけた時のあの顔

不気味で不気味で

痴漢の顔が見れなくなった

見たくなかった

知りたくない

どんな表情をしているのか知りたくない

どんな顔をしているのか知りたくない

同じ人間だって確認したくない

どんな顔をしているのか知られたくない

必死で顔を伏せた

服装を変えると電車を降りる時周りの人に気づかれないよう身だしなみを整えるのが大変になるだけだった

下着に手が入ってこない日は珍しかった

痴漢に遭わない日は特別だった


少しでも多くの人からエロい女だと思われたくなくて

痴漢されるだなんてバレるのが怖かった

エロいことされている女だと思われたくなかった

エロいことと無関係な女になりたかった

エロいことと無関係な女だと見られたかった


絶対にバレたくなかった


エロいことと結び付けられたくなかった


ひたすらに耐えてひたすらに隠してひたすらに犯人が無事に逃げられることを祈ってしまっていた


ストレスで生理不順がデフォルトとなり
ほぼはぼ生理がこなかった

オモチャを突っ込んでくる人もいた

数人で触ってくることもあった

電話番号を渡されたりホテルに誘われたりもした

首を舐められたり髪の毛食べられたり

書けないこと書きたくないことがあった

もう訳が分からない

なんなの


手に精液をつけられていたらどうしよう

生理の血を服で拭かれたらどうしよう

服がはだけたまま電車を降りられてらどうしよう

見えるところに精液かけられたらどうしよう


そんな心配ばかりしていた

馬鹿だね

辛いな


私の他にも性に詳しい扱いをされているクラスメイトがいた。
お昼休み、意を決して「実は痴漢されてるんだよね…」と話してみた。

「あーよくあるよね。私のお姉ちゃんの友達もスーパーボール突っ込まれたことあるらしいww」

笑って流されて

そうか、よくあることなのか

そっか

スーパーボールはないな

私はましなのかな

そっかそっか


おおごとに受け取る自分がおかしくて
悪いのかと

恥ずかしくなった

余計誰にも言えなくなった。


ある日、目の前のお兄さんが
後ろでモゾモゾしている手を
おしりのポケットにある自分の財布を盗もうとしている奴だという勘違いから
痴漢の手を捕まえてくれた。

お兄さんは、泥棒じゃなくて痴漢だとすぐに気づいてくれて
「今この子触ってましたよね」
「降りたら警察いきましょう」
大きい声でそう言ってくれた。

終電について、犯人が走って逃げようとした。

周りの人達が、取り押さえてくれた。

私のことを隠してくれるお姉さんもいた。

駅員さんを呼んできてくれる人もいた。


初めて
痴漢が嫌だって
言っても良い機会を貰えた。

初めて
痴漢されて辛かったねって
言って貰える機会をもらえた。


その日は期末試験で社会のテストがある日だった。

学校に連絡してもらって
後日テストを受けられることになった。

学校を休んでまで
痴漢を警察に連行して良いという許可を貰えたこと。

「痴漢を許さなくて良いんだよ」と言って貰えた気がして

嬉しくて

初めて涙を流すことが出来た。


けれど、親がものすごくショックを受けている様子を見て


あぁ
二度とバレちゃいけないなと

思ってしまった。


その後も痴漢されて当たり前な日常は続いたけれど

痴漢を嫌がっても良いという権利を知ってしまった私には

麻痺してした心が
動いてしまい

とても辛い日常だと
感じ方が変わってしまった。


その頃から、
パニック障害で長く電車に乗れなくなった。


元々感情が高ぶると過呼吸を起こしやすく、
とても辛いので、感情を殺す癖がついていた。

その癖が、解かれてしまった。

辛かった。


学校まで行けずに休む日や遅刻して行く日が増えた。
やっとたどり着いても過呼吸でヘロヘロで保健室で寝てから授業に出ることが多かった。

新任だったクラスの担任は「休みとか何かある人はメールして」と黒板にメールアドレスを書いて、生徒に登録させるような人だった。

痴漢の一件で電車が苦手になったことを知っていたので、すんなりと遅刻のメールを受け取ってくれた。

親にだけはバレたくなかったので、
とても有難かった。


胸を潰そうと試行錯誤した。

ダイエットでお腹に巻く発汗ベルトをサン宝石で購入し、胸に巻いていた。

大好きな可愛い下着は付けなくなった。

幸いなことに高校は制服ではなく私服だったので、下着でオシャレできなくても気にせず済んだ。

ストレスで1ヶ月で6キロ痩せた時があった。

胸が小さくなった。

嬉しかった。



大学に進学した。

知っている人は誰もいなかった。

相変わらず遠くて電車通学の時間が長かったが
好きな事が勉強できる大学だった。

当駅始発の電車に座って行くことが出来て、痴漢がグッと減った。


20歳を過ぎてから、心療内科に行くこともできた。

パニックになりそうになったら
薬を飲めば過呼吸を起こさずに済んだ。


ベンチが沢山置いてある大学だった。
薬を飲んで横になる事が多かった。
みんな気にしないでくれた。
生きやすかった。


胸が小さくなっても
エロいキャラは変わらなかった。

壇蜜に似ているとよく言われた。

あぁ、今まで体型のせいだと思っていたけれど違うのか。

顔の造形やら所作やら雰囲気やら
そういうもののせいなのか。

なんだ、せっかく、、、

今度は貧乳キャラとしていじられる事があった。

どんな体型でも
どうせいじられるのか。
そうか。

じゃあもう、辞めてもらう方法はないんだ。

私が態度で示すしかないんだ。

やっとそう理解した。


長かったなぁ


大学院に進学してから

痴漢なんて一度も遭ったことがない。
虐められたことなんて一度もない。

そんな人とも出会った。

驚愕した。

痴漢に遭うだなんて女性として見てもらってる証拠で羨ましい。
一度で良いから痴漢されてみたい。


目の前でそんな事を言ってくる女性もいた。


驚愕した。


まだまだ知らないことが沢山ある


まだまだ伝わってないことが沢山ある


まだまだ隠したいことも
隠していることも沢山あるけれど


少しずつで良いから
声を上げていかなければ


態度で示すしかないんだから。


そう思って、今回この記事を書きました。


社会人になってから
それなりに平和に暮らせていた。

けれど、昨日たまたまコンビニでおじさんに触られたことで
消化しきれていない傷に気づいてしまった。

消化できる日なんて
昇華できる日なんて
来るとは思えないけれど

早く忘れたいけれど

救済されたくて

される方法が分からなくて

実験として、
過去のことを思いのままに書いてみました。



たくさん端折ったし、まだ怖くて、文字にする事すら怖くて、思い出したくなくて、書けなかったことも沢山あるけれど。


どうか

少しでも

世界をもっと綺麗にしたいと思ってくれる人が増えますように


世界をもっと綺麗にしてくれる人が増えますように



そして、勘違いからの成行きだったからとはいえ
痴漢を捕まえてくれたお兄さん


本当の本当にありがとうございました。



まだまだアルコールジェルも薬も手放せず

たとえ相手が恋人でも
たとえ相手が好きな人でも
何度肌を重ねても

怖くて緊張して思い出したくなくて
私で興奮している表情を見るのが怖くて

性行為に至る際は目をつぶって心を遠くにすることでしか行為に至れませんが

素敵な行為であるはずの
性行為が怖い私ですが


そんな私ですが

普通じゃなくても

あなたのような人間になれるよう

目指して生きます。


乱文乱筆長文失礼しました。
おわり。

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