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物づくりの精神で、土砂災害に強い森づくりを追究!

今回は、農学部地域生態システム学科の白木克繁先生にインタビューしました。雨水の行方の探究や土砂災害被害の軽減といった壮大なスケールのテーマに、お手製の装置を用いて挑む白木先生。その根底には、人工林の荒廃や自然災害で亡くなる方の多さへの、課題意識がありました。

<白木先生のプロフィール>
お名前:白木 克繫(しらき かつしげ)先生
所属学科:地域生態システム学科
研究分野:森林保全学
趣味:休日は少年野球のコーチをしています。

身近ななぞなぞから、災害に強い森づくりのヒントを


―白木先生の研究について教えてください。 

「山に降った雨水はどんなルートをたどるのか」といった水循環の解明などを手掛かりに土砂災害を予測し、土砂災害による被害を減らすことを大きな目標として日々研究を行っています。白木先生(注:一人称)の研究は結構シンプルで、意外と生活に密接しているものだね。
 
―具体的にはどのような研究をなさっているのでしょうか?
 
例えば、森に雨が降ると、雨水の一部は地面に到達する前に無くなってしまいます。
 
そのメカニズムを詳しく調べるために、木の幹を伝って流れる雨水に着目し、大学構内の木と子供用プールを用いて測定や解析をしています。

言ってみれば、身近にある「なぞなぞ」を解いているような感覚かな。

―消えた雨水の行方を探るべく、子ども用プールを使って謎を解くんですね!
 
そうなんです。そしてこの研究は、「手入れをされずに荒廃している現代日本の人工林を、どうやって管理すると良い森林になるのか」を知ることに直結します。
 
土砂災害に強い森をつくりたい、というのも私の研究目標の1つです。
 
―消えた雨水の行方を探ることが、土砂災害に強い森をつくることにつながるんですね。
 
おおざっぱに言うと、雨水は地下水や川となり海へと流れ、蒸発して雲を作り、また雨水となります。これが水循環です。
この水循環が、災害にも関係します。土砂崩れが分かりやすい例ですね。泥だんごを作るとき水をつけすぎるとドロドロして崩れてしまいますが、山の斜面でも同様に豪雨があると地面がゆるんでずり落ちやすくなり、これが土砂崩れにつながります。
 
このような水循環のお話は、白木先生が担当している「水文学(すいもんがく)」の授業でも扱っています。

目の前の学生に、気持ちよく逃げて、生き延びてほしい


ー水文学の授業では、どんなことにモチベーションを感じますか?
 
今教えている目の前の学生に、自然災害に対する心構えを直接伝えられることかな。防災教育ですね。

ー自然災害に対する心構えとして、どんなことが大切ですか?
 
知識を、「知識として知っていること」に留めず、「自分の身に起こること」として考えられるようになってもらいたいです。
 
例えば「山の斜面が崩れて平らな土地ができる」と理科や地理で習っているはずなんだけど、実際に災害が起きるまで、「現実で土砂災害が起こるはずがない」と思い込みながら生きてしまう。
 
ーたしかに……
 
防災教育のゴールは、気持ちよく逃げて、生き延びてもらうこと。研究者として、逃げれば助かるのに、逃げずに自然災害で亡くなる人を少しでも減らしたいと思っています。

ものづくりの楽しさ!


―先ほどの子供用プールを使った装置をはじめ、いろいろな測器を自作しているんですね。


ものづくりが好きなんだよね。
うちの父親が義足などを作る義肢装具士だったのよ。小さいころからトンカチの音とか、ものづくりが身近にあった。だから機械とか測器を作ることが好きです。
 
具体的に装置を作るだけじゃなくて、いろんなものを組み合わせて新しい理論を導き出すというのも、ものづくりみたいな、作り上げていく楽しさがあるかな。
 
あとは、研究でプログラミングもやります。一つ一つコードを積み上げていってバグを取るということも、道具をつくって仕上げの調整をして使えるようにしていく工程と似ている。ものづくりに近い楽しみがあります。

フラットに見ること


―研究者として大切にされていることはありますか?
 
観察する目かな。
フレッシュな気持ちで、毎回フラットに現場を見るということ、そして疑問に思ったことを忘れないこと。
自分の研究は、現場に行って調査するので、観察して得られる気づきが大事かなと思います。

白木先生が「この必死さを忘れないように」と、デスクの横に貼っているお子さんの写真

―これから研究を志す学生、高校生に大切にしてほしいことはありますか?
 
いろいろ経験することかな。例えば、海外旅行とか。
 
さっき「フラットに見る」という言葉を使ったけど、みんな意外といびつで、でも自分がいびつだとはなかなか気づかないんじゃないかと思います。
 
―いびつ、ですか。
 
自分のなかの常識っていうのは、日本に生まれて、この教育制度だったから常識って思っているだけだと思うんです。他の国に行ったら他の国の常識があって、それは日本とは微妙に違くて。その微妙に違うということが意外と重要だったり。
 
―自分で気が付いていない思い込み、たくさんありそうです。
 
「フラット」というのは意外と難しくて、既に自分は染まっているんだな、とわかるだけでも大事かな。
ピュアな心を持つためにも、色んなものを見てもらったらいいかと思います。

それから、「これが楽しいぞ」と思えるものを見つける嗅覚。「これだったら、この分野だったら自分は頑張れるぞ」というのが見つけられるといいのかな。
 
―自分が楽しいこと、頑張れること。指針にしたいです。
 
やっぱり自分が何をやりたいのかわかると、職を決めるにも研究をするにも、強みになるんじゃないかなと思います。
 
思い込みとかを捨てて色んなことを見て、経験してみて、この分野のこういうことなら一生懸命できるぞ、という何かを見つけられたら、それだけでもラッキーじゃないかなと思います。ぜひ見つけてください。


文章:わらび
インタビュー日時: 2020年 10月 5日
インタビュアー:あだち
記事再編集日時:2023年 10月 9日
 
※インタビューは感染症に配慮して行っております。


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