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すべてを失う前に。

映画を見て、苦しくて、悔しくて、恐怖に打ち震えて、涙したことはありますか?

私は今回が初めての経験でした。

この93分間を冷静に、動揺することなく、見れる人がいたら教えてほしい。

タイムリーすぎて、狙ったのってくらい、日本でもニュースでとりあげられているドメスティックバイオレンスがテーマのフランス映画「ジュリアン」のことです。

何年か前のmyfrenchfilmfestivalとフランス映画祭で、本作の下地となる「すべてを失う前に」という短編を見て、私はその威力をまざまざと感じたのですが、「ジュリアン」は、よりパワーアップしていて(ああ、拙すぎる言葉)、もう憤りで涙が溢れ出る状態でした。

冒頭は、判事の前にて、妻ミリアム、夫アントワーヌが、互いの弁護士を交えて、11才のジュリアンの親権をどうするか、という陳述のシーンから始まります。

あまり内容を語るとアレなんですが、そう、法は無情にも彼が全く望んでいない共同親権を与え、ジュリアンは隔週末に父の元へ行かなければならなくなるのです。

もうココや、ココ!法って何や…!!誰を守るためのものなんや!マジで何を見て、そう判断しとるんや!

と言いたくなること間違いなし。

映画見て、声に出すことなんて、普段滅多にしないんですけど、私、もう途中で、何よ、コレ…と怒りを言葉にしてしまってましたもん…(小声でですよ…)。

命の危険に晒されなければ、法は守ってくれないのですか。

何もかも失って、はじめて、法は守ってくれるのですか。

映画を見ながら、おい、アントワーヌを少しでも擁護したヤツ!アンタら、全員「加害者」やぞ!と言いたくなった。すみません、言葉が汚くて。そんな風にでも言い切らないと、やってられなくて。

「恫喝する」とか、生きている間で何回あるんだろうって思うのだけど、アントワーヌは、巧妙に、その姿を妻や息子にしか見せずに、彼らを追いつめていく。「家族愛」なるものを笠に着て。

DV加害者は、配偶者や子どもをこんなにも愛していて、自分は生まれ変わった、もう絶対に暴力は振るわないと誓うから、自分から引き離すことは酷だとよくのたまうが、結局は自分がかわいいだけで、独りよがりでしかないのだなと思う。

恫喝の後に見せる「弱い」(フリをした)姿を見て、彼には自分しかいない、となるのがDVの負の連鎖で、それでもこの映画では、妻ミリアムや子どもたちは、明らかに一貫して拒絶を貫くのに、法や制度、社会が加害者を助けているようにも感じる。だから、DV被害者は、死にかけなければ守ってもらえないのかと感じたのだ。

ラストに行き着くまでのシーンは壮絶だ。もう見てください。しかし、過去に少しでもこのような経験をされた方は、見られる際は、ご注意下さい…。

ジュリアン役の子の演技も素晴らしくて、彼の感じる恐怖は、見る者にダイレクトに伝わってきて、本当に身震いしてしまった。そんじょそこらのホラー映画より余程か怖いです。

私がジュリアンなら、あの一瞬見せる「冷静さ」の欠片すらなく、取り乱すだけだったと。幼いながらも必死で父を躱そうとする姿が本当に痛々しかった。きっと千葉の女の子もこんなだったんだろうなって…。

全てを失う前に。本当に、全てを失う前に、何かもっとできるはず。

傍観者にならないために。

向かいのおばあさんのように行動できるように。

いや、そんなところにまで、彼らを追いつめる前に、私たちができること…。これはDVの問題に限らず、だ。

どうか、あの親子が平穏な日々を取り戻せますように。同じような目に遭われている方が救われる世界になりますように。

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