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【cinema】明日、戦争の後で

2017年47本目。EUフィルムデーズ5本目。ルクセンブルク映画🇱🇺

人生で初めてルクセンブルクの映画を観ました。ルクセンブルクでは、オランダ語かフランス語を話すとなぜか勝手に思い込んでいたんですが(あ、それはベルギーだ)、ルクセンブルク語なんだね。全く聞きなれない言葉が飛び交って、混乱しました。

まず、この映画のテーマにとても興味があって。第二次大戦中、ナチス支配下にあった同国は、周辺国同様、レジスタンス運動が盛んで、多くの人が闘ってきたこと、そして、戦後、ナチに加担した人々は相当な差別や偏見の目に晒されたことを改めて思い知りました。

1945年。徴兵を逃れてフランスでレジスタンス運動に参加したジュールスは母国に帰る。生活を立て直そうと努力するが、母国は4年にわたる戦争で荒廃していた。ジュールスの婚約者レオニーが、働いていたドイツ人の農家で、その一家と共に殺害され、補助警官として雇われていたジュールスは、警察の捜査に参加する。真相を究明しようとする彼の前に立ちふさがったのは、ドイツ軍による占領期間中の陰の部分を闇に葬り去ろうとする当局であった。激戦で知られる「バルジの戦い」の陰で実際に起きた出来事を基にした歴史スリラー。(公式サイトにキャスト名追記)

前回見たオランダ映画「善意の行方」に引き続き、「知ること」の大切さを実感できる内容。

第二次大戦がベースになっていると、ナチスドイツを取り巻く内容が圧倒的で、ヒトラー関連かホロコースト関連かになってきてしまうのだけど、ドイツやフランスという大国の狭間で翻弄された小国、そしてその国の人々が戦後どのように苦しみ、それらを乗り越えようとしてきたかが描かれています。それは、どんな汚い手であっても。

これは映画で見たのではないですが、昔NHKでやっていた「映像の世紀」で、大戦中、ドイツ軍兵士と付き合っていたオランダ人女性たち(ベルギーだったかも)が、戦後見せしめに男たちに髪を刈られ、町中を引き回され、泣き叫ぶシーンがあり、それが未だに脳裡から離れないのですが、それ以降、幾度となくそういうシーンを映画でも見てきました。

この映画でも主人公ジュールスの婚約者だったレオニーは、ドイツ人一家の家政婦として雇われていて、戦後も彼女はその仕事を続けます。そして、何者かに一家共々惨殺されてしまう。周りの人々からしたら「自業自得」なのだと。ペーター一家の人柄とかそういうのは関係なく、ドイツ=悪、なんですよね。それは一部の偏った主義の人だけではなく、市井の人々みんながそう思っていたんだと思います。

ジュールスは自身はレジスタンスとして活動していた際に、ドイツ軍から拷問を受けて、秘密を吐いてしまうんですが、それが彼の中では、ものすごい罪悪感として残っていて、祖国で英雄視されることにも違和感を感じながら、生きているんです。そんな彼が恋人がドイツ人の下で働いていると知ったら嫌悪感を抱くだろうなって感じなんですが、彼はそういう点でニュートラルというか、そんな彼女も含めて愛しているんです。だから、なおさら彼女の死が受け入れられず、調べていくと、行きずりの犯行ではなく、警察当局も黒幕の一部であり、自分に近しい人物も加担していたことがわかってしまうという悲しい結末。

この映画が、犯人探しが主となるスリラーとなっている以外にも骨太なストーリーである所以は、父と息子ジュールスの複雑な関係、また、男たちを取り巻く女性たちが慎ましくも、力強い存在として描かれている点にあると思います。父は息子にこうあってほしいという願いが強すぎるあまりに息子はそれを受け止めることができない。態度や言葉で示すには戦争という大きなものが横たわっていて、時は遅すぎたということ。また、レオニー然り、彼女の死後現れた従姉妹のマチルデ然り、ジュールスの妹然り、男には女の存在はなくてはならないということ。

邦題はある種の爽やかさも残るような「明日、戦争の後で」。全然そんな内容ではなく、むしろ過去の所業について考えさせられる重い内容でしたが、救いはジュールスがそんな祖国に留まらない選択をしたことか。

うまくまとめられず、長くなりましたが、忘れたくはなくて。一般公開は難しいけれど、私は知るために見るべき映画だったと思います。

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