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【cinema】残像

2017年55本目。ポーランド映画。

「灰とダイヤモンド」などの抵抗3部作で知られるポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督の遺作で、社会主義政権による圧政に不屈の精神で立ち向かった実在の前衛画家ブワディスワフ・ストゥシェミンスキの生涯を描いた伝記ドラマ。第2次世界大戦後、ソビエト連邦の影響下にあるポーランド。全体主義による圧政が敷かれる中、画家のストゥシェミンスキはカンディンスキーやシャガールらと交流を持ちながら、創作活動と美術教育に情熱を注いでいた。しかし、芸術を政治に利用しようとする政府に反発したために迫害され、名声も尊厳も踏みにじられていく。それでも彼は芸術に対する希望を失わず、自らの信念を貫き通そうとするが……。主演は「パン・タデウシュ物語」のボグスワフ・リンダ。(映画.comより転記)

アンジェイ・ワイダ。私の敬愛する映画監督のうちの一人で、彼は昨年10月9日に90歳で亡くなりました。彼の作品で初めて観たのは「パン・タデウシュ物語」で、実は今ではストーリーもほとんど覚えていないのだけど、とにかく彼の作品は祖国ポーランドの歴史のうねりを的確に捉えて、寄り添いながら、且つ力強く描くものが多いと感じます。そこに無駄なものは一切なくて、たとえ尺が長くなったとしても一つとして余計なものはないと思わせてくれるのです。「灰とダイヤモンド」は映画を見る前に原作も読みました。モノクロだからこその力強さと脆さみたいなものが合わさって、大学生だった頃の自分にはグサリと突き刺さった感覚を今でも覚えています。

さて、この「残像」について。この映画の主人公は、ウワディスワフ・ストゥシェミンスキという画家で、スターリン支配下にあるソ連の影響を受けたポーランドでその活動をどんどん狭められ、迫害されていく彼が亡くなるまでの4年間を描いています。

彼には芸術家としての尊厳と確固たる信念があった。その一言に尽きます。それは、観る者にもう折れてもいいのでは、と思わせるほどに強く頑なで、時として身勝手にも思えるくらいで、でも彼にはそれ無しで生きていくことは出来なかったんだと。どんなに彼のことを理解しようとした人たち(学生たち)がいても、守るべき家族(娘)がいても、彼は決して折れることはなかった。

残像はものを見た時に目の中に残る色だ。人は認識したものしか見ていない」とは、ストゥシェミンスキが劇中で学生に語る言葉です。映画の中で、ソ連国旗が掲げられ、街が赤く染まるシーンがあります。とても印象的です。窓辺に掲げられた赤旗を切り裂くストゥシェミンスキ。彼は、その「赤色」に人々が染まることの危機感を持っていて、パッと目を惹くものの見栄えの良さに騙されるな、迎合するなということを常に言いたかったんだろうなと思います。

難しく難しく書いてしまいそうになるんですが、ワイダの作品は得てしてそういうものが多くて、でもなぜか惹きこまれてしまう。とあるレビューで書かれていたのは、この独裁体制下、ワイダ自身は迫害された側でなかった。だからこそ、彼は罪滅ぼしの意味で、また、右傾化が進む現在のポーランドに対して問題提起をしているのでは、ということです。なるほど、と。そんなことまで考えてもみなかった。このレビューを書いたのは、フランス人のクロード・ルブランというジャーナリストで、やはり同じ欧州人からすると、見方も少し異なるんだなぁと感じました。

元記事はこちら。

面白味には欠ける作品です。派手さもないし、無骨さだけが残るものかも。でも、ワイダのように、こんなにも自分の政治的思想を明確にして、映画を作る監督もそういないのではないかなと思います。私自身どこまでそれを理解できているかさえ定かでないけれど、それでも映画を好きになった一つのきっかけをくれた監督であることは間違いありません。

6年前に、彼が映画を学んだ地ウッチを訪れました。彼がそこで映画を学んだ、撮ったということが感じられただけで胸が一杯になり、幸せな気持ちになったことは今でも忘れられません。もう彼の新しい作品を見ることはできないけれど、まだ見ることができていない作品を少しずつ見ていくことが、私に出来ることなのかなぁと思いつつ、彼の遺作に込められた想いを大切にしたいと感じました。また、ストゥシェミンスキのような人々が、あの時代生きていたということも忘れずにいたいと思います。国は違えど、そういう人々が我が国日本にもたくさんいたと思うのです。決して他人事ととして捉えたくはなく。

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