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ノンシャランと生きてみる。

ある賭けに出た。平日の仕事帰りに、頑張れば映画を2本観れるのではないか。さすがに今までやったことないよな。心の中では随分と葛藤があった。作品選びも慎重だ。どうしよう。観るのか?観ないのか?観るなら、何を観るのか?映画館に辿り着くまでの間も自問自答しながら、選んだ1本目がこちら…。

ジャコメッティ 最後の肖像

1964年、パリ。ジャコメッティはアメリカ人青年のジェームズ・ロードに肖像画のモデルを依頼する。ロードはジャコメッティの頼みを喜んで引き受けるが、すぐに終わると思われた肖像画の制作作業は、ジャコメッティの苦悩により、終わりが見えなくなっていた。その中で、ロードはジャコメッティのさまざまな意外な顔を知ることとなる。(映画.comより転記)

アルベルト・ジャコメッティ。彼のことや作品のことを知ったのは、多分大学生の頃だったと思うけれど、あのヒョロ長い彫刻人物像が印象的だというくらいで、とりたてて興味や関心があるわけでもなかった。

で、今回は彼が1枚の肖像画を描くのに苦悩する姿を物語にしているんだけど、彼を取り巻く人々がなかなか面白い。同じアトリエに住まう弟のディエゴ、妻のアネットに愛人のキャロリーヌ、そして肖像画のモデルのロード。彼は自分が描かれている間、パリ界隈の人間模様を観察し、時に厄介事に巻き込まれたりもする。でもなんだか困ってるのに、楽しそうで。

何より、ジャコメッティ自身が、苦悩してるのに、どこかいい加減で、テキトーで、フランス語の「ノンシャラン」という言葉がものすごくしっくりくるのだ。

作品に対する意識はまさに神経質なのに、お金や女性に対しては、豪快そのもの。妻に辛く当たったかと思えば、次に会えば、二人とも仲睦まじくやっていたり、でも愛人であり娼婦のキャロリーヌは手放せなくて。

コロコロ変わる彼の態度に翻弄されるロードだけど、一方でその状況を楽しんでもいる。早く恋人のいるニューヨークに帰りたい、けども作品は完結させてほしい。ジャコメッティ自身はそんな気持ちをわかっているのか、解ろうともしていないのか、何度も何度もグレーで塗りつぶしては「完璧」を求める。完璧なんて言葉があるんだろうかと思うほどに。

パリの街はそんな二人の姿を包み込み、寒々しい景色(墓地を散歩するシーンとか)も広がるのに、何だかとってもさわやかな風が吹いているように感じたんです。加えて、妻のアネットが嬉しそうに見せてくれる黄色のドレス。趣味がいいかどうかは差し置いて、ジャコメッティのアトリエが暗く、色がない中で、この色合いを持ってきたか!と。

また、時折映し出される彼の制作途中の数々のトルソーたち。アトリエでの全てのやりとりを諦めの目で見守っているかのように感じたりもします。

それと気になったのは、娼婦と言われる愛人キャロリーヌの持つ不思議な雰囲気。今まで娼婦といったら、毒々しい化粧だったり、少し悪趣味な服装だったりが際立つイメージでしたが、ここで描かれる彼女はいたって普通の、いやむしろ小洒落た感じの服装、薄化粧のノーマルスタイルなパリジェンヌなんです。ジャコメッティはそんな彼女から多分にインスピレーションを受けて、作品を作っている。妻ではなく。

あんなに悩みに悩んで描いてきた彼が、スルッと完結させる(そこにはロードの思いきりがあるんだけど)あの感じがまた軽妙洒脱で、ああノンシャランだわ、と。

なんだか途中まで、オロオロしながら見守っていたのに、あれ?え?ええんかい?って感じなんです。だけど、みんながみーんなノンシャラン。ジャコメッティ役のジェフリー・ラッシュのハマり具合ときたら、もう!

あと海外ドラマ好きの方は、弟ディエゴ役が名探偵モンクとあらば、見るしかないでしょう〜。

1本目にこれをチョイスして正解でございました。

2018年8本目。大阪ステーションシティシネマにて。

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