私の取材の手のうち

役所内を取材で歩いて回っていると、目指す相手(職員)がいないことがままある。
そういう時は、
「その辺の空いている椅子に座って待っててください。そのうち戻ってくるでしょう」
とそこにいる職員に言われることがある。

職員は半分ぐらいは席にいなく、庁内の別のところや外の会議や打ち合わせに行っていることが多い。

とくに大事な仕事、役割の職員ほどそうである。
取材というのは、暇な人には用がない。忙しい人に、忙しい時ほど話を聞く必要がある。
そういう因果な側面がある。

待っている間、退屈かというとそうでもない。
机の上に置きっぱなしになっている書類や文書をなにげなく見るのは、あまり見ないようにしているが、それでも目に入ってくるものは仕方がない。が、たいしたものはない。

大勢の職員の話し声や電話でのやり取りは耳に入ってくる。
それを漠然と聞いていると、彼らの仕事のやり方、優先順位、上下関係などがわかってくる。

ははぁーん、そういうふうに仕事をしているのだな、ということがリアルタイム、ドキュメンタリーでわかる。
細部のことはよくわからないが、組織としての仕事のすすめ方は伝わってくる。

これはその場では役に立たないが、この場で得た体験と、その後の別の問題とを重ね合わせると、見えてくるものがある。

会見や記者クラブで発表されるものだけではわからない情報である。

こういうことをしている記者はどれぐらいいるだろうか?
たぶん、ほとんどいない。
いれば、どこかでバッティングするだろうが、そういうことはない。

**************
ちょっと別の話。
電話である問い合わせをすると、同じ質問を誰かにされていると相手はよどみなくスラスラ答える。とくに数字など。これは役所だけでなく企業でも個人でも、政治家でも。
すると私はこう考える。
➡ははーん、すでに誰かに同じような質問をされているな、と。
だが、こういうことはめったにない。

スキーをするときすでに誰かがそこを滑っていれば跡がついているものだが、誰も通っていなければ降ったままのバージンスノーだ。
私の目の前にはバージンスノーが多い。
バージンスノーに足を踏み入れるとき、興奮と不安がよぎる。
自分は間違っていないだろうか。世間はどう反応するだろうかと。

多くのマスコミ記者たちは、多くの人が踏み荒らした後を安心してノコノコついていく。彼らには不安も興奮もない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?