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『スーツ=軍服⁉』(改訂版)第105回

『スーツ=軍服⁉』(改訂版)連載105回 辻元よしふみ、辻元玲子
 
※本連載は、2008年刊行の書籍の改訂版です。無料公開中につき、出典や参考文献、索引などのサービスは一切、致しませんのでご了承ください。

三角帽、そして二角帽に変化

さて、巨大なハットはいかにも洒脱で見栄えは良かったが、その後、マスケット銃の使用が急速に広まると、大きなつばがいかにも邪魔になってくる。特に前装式の当時の銃では、弾丸を込め、火薬を押し込んで搠杖という付属の棒で押し込まなければならない。またやたらに大きな帽子は風にあおられると飛んでしまう。
そこで、帽子のつばの角をコンパクトに折りたたみ、三つの角を作った三角帽という様式が生まれた。十七世紀末のフランスでのことである。なにか三角帽というと、とんがり帽子のことかと思うがそうではない。小銃の扱いが理由で生まれたものなので、初めは軍人専用だったが、徐々に軍帽としてばかりか、十八世紀に入るとヨーロッパ中で、貴族の狩猟用、一般の労働用にも広く普及した。
しかし、これでも邪魔だ、ということが出てきた。銃の精度が上がって、小銃をしっかり頬にあてて照準する必要が出てきたのである。そこで、三角帽の三つの角のうち、額の部分の角が後退して小さくなっていった。十八世紀半ば、フリードリヒ大王の時代のプロイセンの軍帽はすでに相当に前の角が消えてしまっている。同時代のフランス王国の軍帽もしかりであった。
そして、フランス革命からナポレオンの時代には、完全に角が二つだけの二角帽となるのである。よくナポレオンの肖像画というと被っている、あの大きな半円形の帽子のことだ。あるいはオムレツみたいな形、ともいえる。
一七八〇年代末に登場したこの帽子は、フランス革命後に、新時代の帽子としてもてはやされ、これまでの三角帽を駆逐してしまった。折りたたむと、ペッタンコになり、携帯に便利なのも実用的だった。二角帽は見栄えがよく、将官や上級将校に威厳を与えた。
十九世紀に入る頃から、二角帽は二つの角を横にして被るのでなく、顔の前後に角があるように縦に被るように変わった。従来の被り方だと、どうしても正面面積が大きくなり、風に飛ばされやすいからである。英国陸軍はナポレオン戦争のさなかに、縦に被るのを正式と定めた。以後、二角帽は基本的に縦被りが普通となり、ナポレオンのように横被りするのは古式となった。
縦に被る二角帽を、コックドハットと呼ぶようになった。文字通り、鶏のトサカにちなんだあだ名で、「トサカ帽」という意味である。
一方、ナポレオン本人は、流行がどうなろうが、終生、革命期以来の横被りを貫いた。

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