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『スーツ=軍服!?』(改訂版)第77回 

『スーツ=軍服!?』(改訂版)連載第77回 辻元よしふみ、辻元玲子

※上に掲載した写真のようなツイートがありました。改めて書いておきますが、この記事は2008年3月に彩流社から刊行した『スーツ=軍服⁉ スーツ・ファッションはミリタリー・ファッションの末裔だった‼』の改訂版です。15年も前の本であり、オリジナルの書籍は完全に在庫を売り切った後、事実上の絶版状態ですが、図書館などでは今でもご覧になれます。
この連載自体は、あくまでも無料の電子記事であり、ファンサービスという趣旨です。
当然、参考文献リストや外国語原書リスト、索引等を時間をかけて整備する予定もなく、ご覧になりたい方は図書館で書籍版をご覧ください。また、この連載を根拠に、論文等に引用されることは困ります。あくまで書籍版を基準として下さい。よろしくお願い申し上げます。

ジェームズ・ディーンと反戦運動で普及

第二次大戦が終わるころ、アメリカではたくさんの兵士が戦場から帰ってきて職場や家庭に復帰し、それと同時にTシャツやトランクスも日常用に普及していった。ブルゾン型の上着を着る習慣もやはり、多くの男性が戦争から帰ってきて、広まったのである。
もともと肌着にすぎなかったTシャツを人前でさらしても平気になるのは、一九五〇年代も後半に入ってからである。ジェームズ・ディーンやマーロン・ブランドといった当時の若いアイドル的なスターが、ルールに縛られないアウトロー的な役を演出する際に、Tシャツ姿を披露したものが、一般に受け入れられて行った。六〇年代には反戦運動の若者たちが、スローガンを胸に描いたTシャツを着るようになり、政治的な主張や、ファッション性を重視した色柄などの要素も加わって、今のように日常的に着て歩ける服になったのである。

水着が由来のタンクトップ

なお、袖がないタイプのシャツを「タンクトップ」という。陸上競技などで用いるものは特に「アスリート・シャツ」とも呼ぶ。一見するとTシャツの袖がなくなったもののように感じるが、実はルーツは別のものだ。
なぜタンクトップと呼ぶのかと言えば、この場合のタンクは戦車の意味ではなくて、本来の「水槽、室内プール」の意味である。これは、一九二〇年代に流行した上下ツーピースの水着からきた言葉で、上半身は袖なしのシャツタイプのものだった。それで、プールで着るための上衣、の意味でtank topと称されたのだった。

水着にも歴史あり

タンクトップの話題が出てきたので、ここで水着の歴史についても考えてみたいと思う。
水泳用の水着が考えられるようになったのは十八世紀後半、交通網が発達し、欧州の人々が夏に海に出かけ、海水浴を楽しむことが一般化してからのこと。それまでは下着や裸で泳いでいた。しかし海辺のドレスコードができて、裸での遊泳は禁止された。初期の水着は下着の延長のようなものだったが、十九世紀には上下そろいのスーツになり、男女とも七分丈の上衣とパンツといったものとなった。
そして一九〇七年、「水中のバレリーナ」の異名をとったオーストラリアの女性プロスイマー、アネット・ケラーマンが、今の「スクール水着」のようなワンピーススタイルで、腕や足が露出したものを初めて着用し、物議を醸した。アメリカでは公序良俗に反するとして海岸で逮捕までされている。しかしこうして、今のような水着が登場したのである。
この水着は二〇年代には再び上下に分離し、この上半身部分を「水槽(タンク)用の上衣」の意味でタンクトップと呼んだのだった。これから、水着だけでなく、袖のないシャツや肌着全般をタンクトップと呼ぶようになった。
一方、男性用は上衣が省略され、第二次大戦をはさむ四〇年代にはトランクス・タイプのパンツが一般的になる。ブリーフ・タイプの水着は一九五六年のメルボルン五輪を契機に、競泳用から一般向けに広まった。


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