月子

本を読む。テレビをみる。パソコンの前に座る。時々活動的になる。

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  • ショートストーリー

  • 四六時中私事

最近の記事

空談②

 ひとりになった部屋は案外広いと思ったが、断捨離したから広く感じるのかも。  もう、百華もいない。  いつも家に来る時は面倒だと思っていて、でも私からは何も話さなくていいから楽だと思っている。  聿は今の時期は忙しいらしい。  聿だけが愛される人間に育ったその分を、私は愛される事なく過ごすのが当たり前と思っていた。  その罪悪感で聿は自由を失う。  可哀想という言葉だけが頭に浮かぶが、心は伴っていないと感じる。  逸は何をしているのか私は知らない。  大切な人がいると聞い

    • 11話

       なんで皆んなここにいるのだろう?  そう思うけれど、言葉にはしない。  百華はたまたまだって言っていたし。  久しぶりに逸の背中が見えた時は嬉しかったし。  聿は逸と普通に話をしていたし。  『どうして』なんて考えても仕方ない事だ。  ふたりを家に入れたはいいが、すぐに話をするのは避けたくて、『お腹すいたから…』と私は料理を始めた。  ご飯はそんなに炊いてなかったから慌てて、人参とかごぼうとかちくわとかきのことか醤油で煮てかさまし混ぜご飯にして、茶碗蒸し作って、お豆腐とわ

      • 10話

         目が覚めた。  スマホを見ると、11時ちょっと過ぎた辺りだった。  さすがにお腹が空いて、起きたみたいだ。  メッセージを確認しながら、冷蔵庫を開ける。  聿からは『お前からの説明も聞く』と、逸からは『とりあえず帰る』『しばらく夜の散歩は無し』とあった。  逸はしばらく私の所には来ないと言うメッセージだ。  覗いた冷蔵庫には、飲み物と私の好きな物が補充されていて、聿の優しさを感じた。  だから逸の事を誤解したままは、申し訳ない気持ちになる。  冷蔵庫の真ん中に、見慣れた箱を

        • 空談①

           僕は賢い子どもだった。  たくさんの本を読んで、言葉を覚え知識を増やした。  年齢よりもませた子どもだった気がする。  母は、僕を賢い子だと頭を撫でる。  父は『もっと好きな事して我儘を言ってもいいよ』と言って頭を撫でる。  僕は好きな事してる。  だから父の気遣いに納得できないでいた。  そんな僕に『零と混ぜて中和したらいいかもね』なんて笑う。  零も途中まで賢い子だと、母から頭を撫でてもらっていた。  いつからか、少し我儘になっていった気がする。  それでも父は、優し

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        • 四六時中私事
          10本

        記事

          9話

           怖い顔した聿を逸が何とかなだめてくれて、安心した私は又眠りについた。  次に目が覚めた時にはもう聿は居なくて、逸の気まずそうな顔が私の側にあった。  きっと聿に責められたと思うと、申し訳ない気持ちになる。  「ごめんね」  そう言って顔を隠す様に、逸の胸にしがみつく。  「大丈夫」  いつもみたいに、私の頭を撫でてくれる。  逸は私の撫でて欲しいところがわかる。  「もっと色々なところ撫でて」  私の言葉に逸の動きが止まる。  不思議に思って、逸を見る。  「お礼をするっ

          8話

           熱を出した。  心も身体も疲れて、食事も喉を通らない。  とはいえ、服を脱いで下着のまま何となく上掛けを羽織ったような状態で寝てしまった私の自業自得でしかない。  這いずって冷蔵庫まで行くも、食材はあるが飲み物は全く無かった。  普段冷たい物を口にしないので、茶葉とか、お湯を注ぐだけのインスタント的な物しかなく、いつも使っているウォーターボトルを持ってベッドへ戻った。  とりあえず喉が潤えはいいと、口へ注ぐ。  目を閉じて深く眠る。  眠りから覚めれば、少しづつ水を口に注ぐ

          7話

           私の苦手な事。  止めどなく話しかけてくる人たちの空間に置かれる事。  父の3回忌法要は、聿と叔父が取り仕切っている。  母は、ボーっとしている。  親戚は父の話をしたり…互いの苦労話しや自身の子どもの自慢話を声高に語る。  どれも私には無い話しなので、返事に困る。  必死に相槌だけを繰り返す私に、相変わらず鈍臭いと言われてしまった。  それ以降は、おじやおば達に振り回されて過ごした。  母は、ボーっとしている。  いとこ達は仕事の話しをしたり、それぞれの現状の愚痴を吐い

          6話

           「まぁた風呂場で寝てる」  浴槽の縁にもたれて目を閉じている私は、目を閉じたまま『寝てない』と答える。  そろそろ上がりたいと思っているのに、逸がいたら上がれない。  別に恥ずかしいとかでなく、後ろめたい?が正解かもしれない。  でも、逸がその手にタオルを構えているという事は、上がって来いという事だから。  大人しく逸に従う。  私の身体をタオルで包む時、やっぱり嫌な顔をした。  「だって…別れたばっかりだし」  だからって別れる直前にしてなきゃ残るはずもないと正論言われて

          5話

           冷えた体がようやく温まってくる。  小さなお鍋でお湯を沸かして、はちみつ紅茶を入れてくれる。  逸(すぐる)は不器用なぶん、できるまで集中する人。  お茶を淹れるのも、聿から長時間指導を受けたみたいだ。  そんな逸は、私みたいなのにつけ込まれる優しい人。  中学生だった時、保健室通いが通常の私は、皆んなから好かれていなかった。  私を『認知しない』『どうでもいい』『見下している』のどれかだった。  その『見下している』枠に、逸の妹がいた。  兄の友人として、いつも近くにい

          4話

           夜の散歩はいつからだろう。  小さい頃、眠れない私たちを母が外に連れ出す。  夜の公園は少し怖かったけれど、そこへ行くまでの景色は好きだった。  繋ぐ手が、強く握られた時に気がついた。  本当に眠れないのは、母の方だと。  今も夜の散歩は好きだ。  ひとりで歩くとトテトテと音がついてくる。  新しいアンクルプーツは軽い。  雲間の月は明る過ぎず、安心する。  夜の散歩は、いつもひとりの私が、寂しく無い。  夜が長く、昼間儚く見えた花も、月明かりで怪しさを増す。  澄んだ空

          3話

           兄の聿(いつ)が半月ぶりに訪ねて来た。  私と違って会社勤めをしている聿は、忙しい。  大学から一人暮らしをしていたが、私が家を出る事となり、入違いに家に戻った。  祖父らが住んでいた古い家を建て直し、それを聿が譲り受けたからだ。  聿が結婚してからでも、と思っていた父が亡くなった事で早まったのだ。  その当時付き合っていた彼女は、聿の自由さを好んでいたらしく、家に戻る事で母を、私を負担に感じる様になった。  ならばせめて私だけでもと、反対を押し切って一人暮らしを始めた。

          まるまる

           3年ぶりに風邪をひいた。  暖かい部屋に、ベッドの横でモクモク湯気が立つ。  喉がカラカラで水が欲しい。  そう思っていると、冷たい水が私の目の前に差し出される。  優しい声が聞こえて、すべすべの手がおでこに触れる。  ちょっと恥ずかしい。  今の私は唇はかさかさで、ボサボサの髪。  手は荒れていて、あのすべすべの手を握り返す事もできない。  小さい頃は親が共働きで、誰にもこんなふうに看病してもらった事がない。  ずっとずっと求めていたものがここにある。  うとうとその優

          まるまる

          いとおしい

           「いたっ」  今朝もまた、ボクの隣で耐えている。  冬の日は、手を繋ぐだけで邪魔が入る。  ボクは全然痛く無いけれど、まこちゃんは痛いよね。  すごく大きなバチっていう音と火花。  だからお母さんに聞いて、洋服に気をつけて、水をたくさん飲んだ。  でも何故か、どんな状態でもボクは痛く無くて、まこちゃんは痛い。  痛みに耐えてるまこちゃんの頭をなでると、またバチって小さく音がした。  ボクは「ごめんね」と呟く。  「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と笑いながら耐えていた。  「

          いとおしい

          物悲しい

           朝は寒い。  布団が肌から離れるからか、ほんの少しだけ窓が開いているからか。  慌ててプルオーバーパーカーを着て、テレビを付ける。  少し落ち着いた身体を起こしてキッチンへ。  鍋でお湯を沸かす。  私は料理をしない。  料理上手な母が買ってくれた、マルチ鍋はお湯を沸かす為だけに使われている。  誕生日に貰った、おしゃれなコーヒーメーカーに残っているコーヒーをシンクに流す。  「私コーヒー嫌いなのに」  カフェオレボウルにコーンスープパウダーを入れてお湯を注ぐ。  そして、

          物悲しい

          目を伏せる

           そして私はひとりになり、うつむいたまま動けずにいる。  声をかけるのに、何度あの人の後ろ姿を追いかけただろう。  友だちの多いあの人には、いつも誰かがガードしているようだった。  男友だちだったり、友だちのフリした女たちだったり。  だけれど、時々目が合う。  ひとりになれない、もどかしさを感じているだろうあの人を救ってあげたい。  何日もかけて観察する。  朝は中学から一緒だと言う親友もどきといる事が多い。  昼は同じ学部の友人と自称する人たちと、うるさい女たちが取り囲

          目を伏せる

          2話

           ひとりになったついでに、断捨離した。  開けてない箱のひとつに、結婚式の引き出物のペアワイングラスが出てきた。  それは、友人新婦のおばあさんの強い希望の豪華な結婚式での物だった。  ガーデンパーティーや、レストラン貸切の簡易的な結婚式にしか参加した事がなかったので、帰りの荷物の多さにびっくりした思い出がある。  ワイングラスは、シンプルだけど繊細なカットが綺麗で、大きさも邪魔にならない程度だったので、箱から出して棚の仲間入りをした。  今日はこれで赤ワインを飲もうと決め