帽子屋さんの話



「わたしは、お金があったら帽子屋さんになりたいの」
末娘が、職場の入所者のおばあちゃまから聴いたお話。
「帽子って無くっても困ることはないけれど、有れば気持ちが豊かになるでしょう。だから、わたしは帽子屋さんになりたいの」
言葉も所作も穏やかで上品なおばあちゃまなのだという。
きっと心に余裕のある豊かな人生を送って来られたのだろうな。素敵な年の取り方だなと、末娘は感心して話してくれた。

「もしも私が若かったら」ではなく、「もしもお金があったら」と語るおばあちゃまの夢は、過去を惜しむ憂いではなく、現在進行形の楽しい夢だ。施設を終の住処とするおばあちゃまの豊かな空想は、20代の若い末娘に美しい老いの形として映ったのだろう。

忙しい職務の合間にこんな楽しい老人の内緒話を聞き出して、しっかり心に刻んで帰って、楽しげに母に語ることのできる娘よ。
母にはあなたのその素直な若さがまぶしい。

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