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電脳パンクス 朝本浩文(1992年インタビュー)

ラム・ジャム・ワールド、ゴーバンズと、テクノ魂を爆裂させる昨今の活躍。THE BOOM大阪万博公園での夏祭りテクノ講座では、宮沢和史と共に、YMOの超有名曲をハードコア・テクノにリミックス。

テクノの神髄は「平常心/機械がいちばんえらい/どこかおかしみを誘うこと」であると唱え、会場中の賞賛と失笑を浴びていた男、朝本浩文。

パンキッシュなものが一番、という分かりやすい価値観。つまりパンクの出現によって得たあの衝撃を、キーボードやサンプラーなど機材の進化にあわせて持ち続けてきたのである。テクノロジーを駆使した初期衝動男。豊富な音楽知識に裏打ちされ、最新機器で武装した90年代のパンクス、これが朝本浩文の正体である。

「僕はテクノが好きだけどテクノが全てじゃないからね。最近(ラム・ジャム)でやってるハウスは、テクノの延長線上」

サンプリングやコラージュなどの手法でエネルギッシュになってきたハウスの方が、無機的なところに良さがあった十年前のテクノよりも好きだと言う。

「あの頃はYMOよりもプラスチックスとかB-52'sの方が好きだった。実を言うとYMOよりも教授のソロの方が好きだった。『千のナイフ』とか『サマーナーヴス』とか。YMOは素晴らしいと思うんだけどね、アカデミックな感じがあまり好きじゃなかった。俺、どちらかというとアンチ・アカデミックな人にひかれたりするんだよね。だから最近のハウスが大好きでさ、テクノの手法なんだけど、下世話なやつらがいっぱいで」

THE BOOM夏祭りでの「YMO」は、1曲につき約5時間でリミックス。とにかくハードコア・テクノがやりたかった、と。その音はイギリスのハードコア・ユニット、オルタネイトを強烈に連想させ……。

「そう(笑)。最近ずっとオルタネイト聴いて感化されてたから。(会場に)オルタネイト知ってる客いなかっただろうな。KLFはパラパラいたけど、あのうさんくさいところが大好きなんだ」

———最近はどんなのを聴いてるんですか?

「レゲエやダブのエッセンスがあって、テクノっちーやつ。こないだ来日したW・オービットとか、エイドリアン・シャーウッド、マッシブ・アタック……下の音が出てる感じが好きなんだ。ビーツ・インターナショナルとかビート・マスターズ(※BETTY BOOのトラックを制作)。テクノの手法でダブをやるという人たちだよね。無機的なリズムボックスの中にレゲエのレコードから誰かのピアニカをサンプリングして使ってる。そういうのが人間がやるレゲエよりずっとかっこいい」

B級っぽさ、いかがわしいポップにこだわる。ラム・ジャム・ワールドのステージでも、Mをカバーし、しかもその中にC&Cミュージック・ファクトリーやクリス・クロスをサンプリングしてしまうセンス。トレヴァー・ホーン(ZTT)、ノーマン・クック(ビーツ・インターナショナル)がやっぱり好きそうだし。

「最近のハウスやってるやつのテクノ観は、音楽の理屈じゃないんだよね。コードなんかめちゃくちゃで、音楽理論からはずれたところでコンピュータとかサンプラーでリズムやグルーヴが補正されてて、どことなく気持ちよくなってる。昔のテクノは音楽理論がしっかりしてたよね。コードとか響きとか。最近のハウスは機械が音楽理論を超えちゃった。理論とは無関係なものを全部ゴチャマゼにして一個のビートに乗せて気持ちいいか悪いかというところだけで決まるというのが面白い。いい意味で機械との攻防がより激しくなってきたね」

———そんな朝本さんのテクノの定義は?

「やっぱり機械的なところだな。機械がえらいみたいな。人間じゃできない要素が入ってる、同じビートがずっと続くっていうことかな。ダブ、レゲエっていうのは同じことを繰り返してるうちにどんどん遊んでいく手法で、それがテクノの手法と合うんだよ。テクノも機械的な同じビートをずーっと繰り返して、音処理も“おどかしもの”というかメカニックなもので。ダブも生をどんどんエフェクトしてメカニックにしていく作業だから、そういう意味で今のハードコア・テクノの感触はダブに取り入れやすくて、かいつまんで聴いてるんだけど」

※そんな一例となりそうなSL2のこの曲は、1992年の「夏祭り」でも、THE BOOM登場前のSEとして使われた。

———ラム・ジャムの今後の方向性はどうなってくんですか?

「人間の野蛮さと機械の野蛮さとどこまで一枚のアルバムで入れられるかというところをトライしたい。一枚目は全部コンピュータでオーソドックスなハウスなんだけど、今度はそれをどこまで崩していけるか。機械が進歩した分、人間の真似も機械ができるんだけど、機械でやると百年かかることが人間がやると一発でできたりするんだよ。ドラムは(正確な機械よりも)リズムが悪い方がすごいとか、ここはヨレた方がかっこいいとか、そういうのがアルバムでできるとうれしい」

———立花ハジメさんも宮沢和史との対談で同じようなことを言ってましたよ。「人間こそ最高のデジタルだ」って。

「そう。デジタルを極めたら人間になっちゃうんだよ。そういう要素をこれからは取り入れていきたい。ハードコアなテクノとかディープなダブは人間のそういう荒さとも相性がいいんでそれを極めたい」

———テクノ、ハウスはこれからどうなっていくと思いますか?

「かっこ悪くならないことを祈りたいね。絶対なって欲しくないのはAメロ、Bメロがあって、ビートだけがハウスっていうのが変に市民権を得て普及しちゃうと、かつてのパンクみたいになっちゃう。もはやパンクはある種ダサイものになっちゃてるじゃない。そうなるのはやだね」


(1992年、「エセコミ・テクノ特集」12号掲載)

※ラム・ジャム・ワールドについては、yuko okuboさんのnote「RAM JAM WORLD」もご参考に。


追記 THE BOOMと朝本浩文

■ 朝本浩文とTHE BOOMの主な共作

「月さえも眠る夜」(1993年、アルバム『FACELESS MAN』収録)

「神様の宝石でできた島」(1994年、MIYA & YAMI)


■ 極東ラジオ(2002年4月)

宮沢和史のラジオ番組「極東ラジオ」に朝本浩文さんとRAM JAM WORLD 濱田杏子さんが出演したときのトークを抜粋。THE BOOMのシングル「この街のどこかに」を朝本さんが久しぶりにプロデュースをしたという話題。

宮沢「プロデュースをしてもらったのは五年ぶりだよね」

朝本「『手紙』のRemix(アルバム『TROPICALISM -0゜』に収録)以来かな」

宮沢「『トリップホップだー』って言ってた(笑)」

朝本「そうそう(笑)」

宮沢「格好良かったよね」

朝本「あれは今聴いてもね、いいと思う」

宮沢「聴けますね。急に電話したんですよね。『レゲエやってくれない?』って」

朝本「たまには会いたいよね(笑)」

濱田「えっ、直で電話したんですか?」

宮沢「昔はちょくちょく電話してたんですよ。朝本さんがTHE BOOMから離れたあとも。でもお互い忙しいし……」

朝本「結局仕事してるからね。一緒に仕事をしてると会うけれど、仕事を離れると会わなくなったりするんだよね」

宮沢「忙しい中、時間を作ってくださって」

朝本「いやいや、俺も会いたい人に仕事を振ることあるけどね。『ギター弾いてくれない?』ってよく頼んだりする(笑)」

宮沢「最初にデモテープを送って……この曲シンプルだよね」

朝本「いや、すごくいいですよ。ぜい肉のない」

宮沢「まずバンドの四人の形があって、あまりtoo muchにしないで、朝本さんのキーボードと、ホーンを入れようって事で……増井君(注:元ミュートビート、増井朗人さん)だろうと思って」

朝本「懐かしい感じで」

宮沢「スカというか、ロックステディというか、レゲエな感じを出すには」

朝本「増井君じゃないとね」


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