『ボクの穴、彼の穴。』 観劇記

原作は10年ぐらい前に読んでました。以下は東京芸術劇場プレイハウスで上演された『ボクの穴、彼の穴。』2020年9月20日公演の感想です。ネタばれありますのでご注意を。

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舞台は砂漠の戦場。タイトルにある「穴」とは塹壕のこと。ボクと彼(敵)だけしかいない、ふたり芝居。ボクが潜む穴からは彼の姿が見えない。彼が潜む穴からはボクの姿が見えない。渡されていた「戦争マニュアル」で見えない敵を想像し、恐れ、憎む。

砂漠の穴に潜む、見えない敵は「戦争マニュアル」に書いてある通り、本当にモンスターなのか。この話は普遍的であり、あらゆる戦争にもいまの時代にも繋がるものがあります。下記のインタビューでSNSが突然言及されるのも本作を観ると肯ける。

演劇はほとんど観たことがなくそんな僕が感想を書くのもおこがましいけど、思っていても言ったり書いたりしないと伝わらない。なので『ボクの穴、彼の穴。』 の感想をボトルに入れて向こうの穴に投げてみます。


今作の舞台である戦争も、宮沢氷魚が新聞のインタビューで言っていた人種差別やSNSでの誹謗中傷なども、相手への無知や偏見から生まれる。「戦争マニュアル」に書いてあるように、「見えない敵」は本当に「モンスター」なのかといえば、そんなはずはない。モンスターだと思い込んでいた敵にも、ボクと同じように兄弟がいて家族がいる。飲み水に毒を流し込んでなんかいない(これが何の比喩かは明瞭だ)。でもそう思い込ませられる。上着に勲章をたくさん付けた賢い人たちに。彼らが「戦争マニュアル」を作った。目を覆い、マニュアルに従わせる。彼を敵だと思い込ませ、恐れさせ、憎ませる。

大鶴佐助が彼の穴を出ようというときのセリフ、「ぼくはこれから絶対誰にも言えないことをします。人を、殺します」は悲痛だ。誰も殺すために、殺されるために生まれたわけじゃないのに。恐怖や憎しみは「戦争マニュアル」によって植え付けられる。その最悪の結末を避けるため、ボクも彼も劇中で同じ方法を取る。伝えること。銃声ではなく。拡声器も無線もSNSがなくてもボトルにメッセージを入れて投げる。戦いはもうやめようと。

『ボクの穴、彼の穴。』はこんな戦争寓話の絵本をお芝居にした。偏見や憎悪がSNSに乗っかり増幅されていく現代に上演される意義のある作品になっている。2020年に合わせてアップデートされ、宮沢氷魚、大鶴佐助がふたりの登場人物をしっかりとここに存在する人間にした。「ボク」や「彼」ではない。「宮沢氷魚」と「大鶴佐助」という名前を持った生身の人間。コンビニも恋しいし、母親のミネストローネが飲みたい26歳に。


以下は今年6月に宮沢氷魚がインスタグラムに投稿したメッセージ。アメリカでのBLMの動きとリンクしたものと思われます。『ボクの穴、彼の穴。』を観たあとにはさらに響く。共通したテーマであり、願いであり、ひとりひとり誰もがボトルに詰め込んで投げ合うべきメッセージです。


追記 Hahakigi / はるかさんの連続ツイートを読むと、頭の中で舞台が蘇ります。


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