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GANGA ZUMBA 2006年4月26日 SHIBUYA-AX

開場から開演まで1時間、まわしつづけてたGENTAさんのDJに、まず参りました。ルイ・ヴェガから始まったパーカッシヴなグルーヴ。琉球アンダーグラウンドなどの沖縄ダンスものから、アフロ、ブラジル、ラテンへと、そこには「ジャンル」分けはない。ひたすらパーカッシヴ。最後の方にスピンしたケミカル・ブラザーズの「It began in Africa」にやられた。テクノ・ビートの上にパーカッションが跳ねまくり、そこに「It began in Africa」という声が何度も繰り返される。そう、それ(音楽)はアフリカで始まったのだ。まさにGANGA ZUMBAなDJ! 

GANGA ZUMBAはどこにも従属しない、音楽の解放区だ。「GANGA ZUMBA」というバンド名は新たな旅へのパスポートになる。その旅は、「世界リズム紀行」といった平面的、地理的なものではない、あらゆるものの始源、アフリカからこの惑星に広まった音楽の未来を目指す、時空も越えるグレート・ジャーニー。あらゆる要素をハイブリッドに進化していく「未来世紀アフリカ」(ブラジルではない)な音楽。 

〈でも、アルベルトがやってる、サルサやラテンをルーツに持ってる音楽も強いと思うよ。踊らせちゃうもん。初めて聴く人もうずうずさせてしまう。俺も2008年に向けて、いまのバンドを新たな世界に持っていきたいんだけど、「ダンス」というのは切り離せない〉(エセコミ37号) 

アルベルトとの対談で話していたこの言葉の意味を強く感じました。すべての新曲にその傾向は顕著にありました。初めて聴く人もうずうずさせる、誰も聴いたことのない音楽。Asian Dub FoundationやTrance Global UndergroundやTabla Beat Scienceといった魅惑的なバンド名の中に、「GANGA ZUMBA」という名も加わるべきだ。

でも、前述のバンドにはない、「歌」という、(身体だけでなく)感情を揺さぶるとんでもなく強力な武器もGANGA ZUMBAにはあるので参ってしまう。 参りっぱなし。

DJパート最後の曲(C&C MUSIC FACTORYだと思う)をかけたGENTAさんが姿を消し、その5分後ぐらいにメンバーが姿を現す。ステージには笠戸丸がモデルと思われる船の絵が。新しい衣装。MIYAは「PRINCE in チョコレート工場」といった感じ。口ひげ! 

キーボード、タブラの音色のマルコスのパーカッション、バイオリン…初っぱなから新曲を演奏。バンドのために新たに作られた曲だから、やはりこのバンドのパーソナリティが十二分に発揮されている。間奏ではルイスのトランペット。歌詞は日本語。二曲目は「矮小な惑星」のポル語。三曲目はスザーノのポル語から。「シンコ・オウ・セイス」の日本語版。これはMIYAが歌詞を完全に覚えてないように見えた。僕にとっても「愛を見失うほど」という日本語詞は妙に新鮮(少し照れくさい)。

スカのリズム。会場が手拍子。「この日が来るのを首を長くして待っていました」「ついてこいよ」。このあと「ついてこいよ」という言葉は3回繰り返す。「今日は新曲ラッシュです」。MIYAと高野さんのツインボーカルがものすごくぜいたく。間奏ではルイスがラップ。

「Still Blue」の前には、この曲についてのコメントがあったのだけどよく聞き取れなかった。「問題はおれたち自身の中にある」。「今日から旅に出ます。新しいバンドの名前はGANGA ZUMBA」。「GANGA ZUMBA」という名を観客に連呼させるが、耳馴染みのない言葉になかなかうまくはいかない。「かっこいいでしょ」「誰が何と言おうと、誰が止めようと俺は行きます。このメンバーならどこまでも行ける。実際にヨーロッパ、中米と修羅場をくぐってきて……こうやってみんなの近くで歌うのは演奏するのはいちばん幸せだと噛みしめています」

MIYAが突然メンバーひとりひとりにメッセージを求める。これはまったく予定になかったことのようで、みんな戸惑っていた。ルイスは「これから一緒にやりましょう」と日本語で。土屋さんは「風邪気味、今日はMIYAお勧めのにんにく注射で……」。今福さんについてはMIYAがニックネームが「HOOK」であることが紹介される。今福「宮沢さんが寝ないで僕のニックネームを付けてくれたんでみなさんHOOKと呼んでください」。高野「僕ら、寝ないぐらいの勢いでレコーディング、リハーサルを……新曲がたくさんできています」。バンマスと紹介されたGENTAさん。「よろしくな。まずは俺たちもがんばるけど、おまえらもがんばれよ」。tatsuさんは固辞するもののマイクを持ったMIYAに寄り切られ「どんどん曲ができているんで楽しみにしてください。心機一転〜」。マルコス「こんばんはよろしくみなさん」。そのあとはポルトガル語なのでわからず。フェルナンドは英語で「最初のパフォーマンスにこうしてみなさんと会えてうれしいです」ということを。クラウディアは「この素晴らしいメンバーについていくようにがんんばりますのでよろしく」。MIYAはシンプルに「ボーカルの宮沢です。よろしく」。

クラウディアの三線で「てぃんさぐんぬ花」のイントロから「沖縄に降る雪」。次の曲はMIYAがステージの前に腰掛け、これもクラウディアの三線から「楽園」(「空色の君」改題)。あの曲がレゲエになるのです。しかもトランペット入り。「帰ろうかな」で試したアプローチのGANGA ZUMBA的最新版。続いて「ちむぐり唄者」。アウトロは「カピタン・ヂ・アレイア」の合唱。

高野さんギターイントロ。MIYAが腰をすり寄せる。最高のダンスチューン「マンボレイロ」。今回の新曲群の特徴は、〈でも、アルベルトがやってる、サルサやラテンをルーツに持ってる音楽も強いと思うよ。踊らせちゃうもん。初めて聴く人もうずうずさせてしまう。俺も2008年に向けて、いまのバンドを新たな世界に持っていきたいんだけど、「ダンス」というのは切り離せない〉こんな思いから来てるんだと思う。もうどこの国のリズム、とかではなくこの惑星のさまざまなダンス要素がハイブリッドに進化していく音楽。アフリカで生まれた音楽の未来世紀。

高野さんのかけ声で一瞬鳥肌がたった、これも新曲の「habatake」。最後には、メンバー全員が前に出て、アカペラで客席と大合唱。照明は舞台後ろからのものだけなのでメンバーはシルエットに。合唱が続く中、メンバーは退場。

アンコールはMIYA抜きで「ガンガ・ズンバのテーマ」。リードはGENTAさん。ボガンボスのテーマを越えた! 人力アフロビート(ほぼ声だけでのグルーヴ)。MIYA参加で「アンジョス」〜「イルザオン・ジ・エチカ」で終了。

新たな船出にふさわしいライヴだった。


※追記

MIYAは説明しなかったけど、「GANGA ZUMBA」について調べてみると、ポルトガル人がブラジルに足を踏み入れたのは1500年。ポルトガルが植民地化したブラジルには1530年代に最初の奴隷船がアフリカから到着。その後、1888年の奴隷制度廃止まで約400万〜500万人のアフリカ人がブラジルに連れて来られた。しかし、奴隷制度から逃亡したアフリカ人たちもいた。17世紀、彼らは命がけでポルトガル人支配者たちから逃れ、キロンボ(自由解放区)を創った。歴史上特に有名なのが「パルマーレス」という自由解放区であり、その最初の指導者の名前が「ガンガ・ズンバ(GANGA ZUMBA)」である。

ガンガ・ズンバは1680年に毒殺される。パルマーレスはその息子ズンビが跡を継ぎ、闘いを続けるが、1694年に滅ぼされる。ズンビはその後も最後の6人で闘い続けた。彼が死んだ1695年11月20日は、現在「黒人の記念日」となっている。

参考URL「逃亡奴隷たち」http://www.k2.dion.ne.jp/~dambala/marron.html

「ブラジル史年表」http://www10.plala.or.jp/shosuzki/chronology/brazil/brazil1.htm

「サンパウロ通信」http://www5b.biglobe.ne.jp/~ykchurch/sgc/st_paulo_12.htm

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上述の「サンパウロ通信」によると、〈ガンガ・ズンバ、そして息子ズンビの闘いは、現代ブラジル・カトリックのミサ曲『ミサ・ドス・キロンボス』(ミルトン・ナシメントが作曲)に歌われ、その解放の精神を現代に受け継ごうとする願いと解放を求める民衆の未来への導きを神に祈っている〉そうです。

〈山岳の国パウマーリスを破壊し、ズンビの首を切り落としたポルトガル植民地支配者や討伐軍は歴史の過去となった。しかし現代のカマーラ司教は、開発独裁の暴力に抵抗して殺されたキリストの兄弟姉妹たちを思いつつ、なおズンビを記憶し抑圧からの解放を祈らないではいられなかった。そして今もグローバル資本主義の勝者は世界規模の討伐軍を仕立て上げ、リアルタイムで最も貧しい山国の民衆の頭上に、テロ撲滅と自由と文明の名によって、爆弾の雨を降り注いで無辜の民衆を絶望に追いやり続けている。わたしたちもまた祈り続けなければならない。主よ、あらゆる悪から救い出してくださいと〉(「サンパウロ通信」より抜粋)

というように、ズンバとズンビの闘いは、現代の支配者グローバリズムとの闘いの象徴にもなっているようです。

つまり、アフロ起源の音楽に魅了された(AFROSICK)10人が、音楽を武器に世界支配からの自由解放区を建てていく、というストーリーが「ガンガ・ズンバ(GANGA ZUMBA)」というバンド名から読み解けると。


GANGA ZUMBA

宮沢和史(ヴォーカル)/GENTA(ドラム)/tatsu(ベース)/高野寛(ギター)/今福“HOOK”健司(パーカッション)/マルコス・スザーノ(パーカッション)/フェルナンド・モウラ(キーボード)/ルイス・バジェ(トランペット)/クラウディア大城(コーラス)/土屋玲子(バイオリン、二胡) 


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