痴情の星

 兄がいるんだけどさ、どうも今ツバメやってるらしいのね。要するにヒモ。これが歳上好きで、しかも気が強くて潔癖症なのが大好物みたいでさ。で、ここからが重要なんだけれど、しばらくすると蒸発する癖があって。そんなだから本名名乗らないで、僕の名前使ってるらしいんだわ。だから、よくわからない人に僕のこと訊かれたら、知らないって答えてもらえる?
「うんまあ、手遅れみたいだけど」
「え」
 僕たちの横をゆっくり赤いポルシェが追い越して止まり、和装の女性が降りてきた。そして切れ長の目で僕をにらみつけると、こちらにゆっくりと歩いてくる。武道でもやっているのか、まったく上半身が揺れない。あの着物は大島紬かな。やばい人だこれ。
 僕の前に立ちふさがると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「誠二はん。うちになにか言うことありますやろ」
「人違いです」
 次の瞬間、僕は冗談みたいに空高くまで投げ飛ばされた。

【続く】

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