バルーンバットのガスを利用した圧縮詠唱補助実験

(有料にしてみましたがあとがき以外全部読めます)

寄稿 詠唱魔法学会誌4月号詠唱速度変化手法特集
ゲール地方魔術師協業組合所属 マニール著

1章.緒言
モンスターとの戦闘時や医術院での救急治療など一刻を争う場面において、古くは滑舌訓練や呪文短縮に始まる魔法詠唱の高速化は、詠唱式魔法を使用する現場魔術師の最重要課題の1つである。
先行研究(*1)では特殊発声法によって発生させた高音によって魔法を発動させることに成功しているが、ある程度の高音が出せる声帯を持っていなければ圧縮詠唱による魔法発動が難しいことが報告されている。
本研究では、ゲール地方に生息するバルーンバットの浮袋内部のガスを吸い込むと一時的に声が高くなることを利用した圧縮詠唱発声法の実験を行った。次章から実験の条件・結果・考察について記述する。


2章 実験条件
 今回の実験では魔法歌術におけるハーピー女性・ヒューマン女性・ドワーフ男性・オーガ男性による4音階(ソプラ、アルコル、テール、ハス)の各種族の魔法歌術師にガスを吸引していない状態とガスを吸引した状態で100回ずつ特殊発声法を用いた火風水土4属性の初歩魔法詠唱を試みてもらった。各魔法はろうそくへの点火、イルム綿糸の切断、2つのコップ間の水の移動、重量1ノームの石50セン浮遊によってそれぞれ成功とみなした。
以下に実験に使用した物品を示す。
・バルーンバットの浮袋
・ろうそく
・イルム綿糸
・コップ2つ
・石(重量1ノーム)


3章 実験結果
 次の表1にガス吸引前後の特殊発声法による4人それぞれの各魔法の成功回数を、図1に成功回数の比較図を示す。

表1 ガス吸引前後の特殊発声法による4属性初歩魔法の成功回数

画像2

図1

図1  ガス吸引前後の特殊発声法による4属性初歩魔法の成功回数比較


4章 考察
実験の結果、バルーンバットの浮袋のガスはヒューマン女性の特殊発声の補助として特に有用であることが確認できたがそのほかの種族においては効果が微小または効果が確認できないこと、効果は補助にとどまり安定発動させるには限界があることがわかった。
 この理由については特殊発声法に適した音域が存在することが考えられる。先行研究でも特殊発声法の成功率が、一定の音域での発声に集中していることが報告されている。また、希少ではあるが風切り竜の血液から蒸留されるガスは、吸引によりバルーンバットのガスよりも高音を発生させることが可能であることが報告されている(*2)。これらのことから、特殊発声法による魔法発動音域の特定とそれに合わせた各種族向けのガス調合を行うことによって特殊発声法成功率の上昇を最適化できるのではないかと思われる。
またこの結果は仮に吸引した場合声が低くなるガスが存在した場合、金属操作などの低音での特殊発声が必要な詠唱魔法の補助ができる可能性も示唆している。

謝辞
実験協力を快諾してくださったヒルメ王立魔法歌術団の皆さん、実験材料の調達に多大な協力をいただいたゲール地方エルフハンターズギルドの皆さん、初めての論文寄稿において指導と助言をいただいた魔術工房火蜥蜴堂のメラニー卿、実験データを惜しみなく公開していただいたセイファウィッチユニオンのミル女史、それぞれにこの場を借りて深謝させていただきます。

参考文献
*1 加速魔法影響下の詠唱を模倣した圧縮詠唱発声法 セイファウィッチユニオン ミル・ブラヴァ
*2 特殊なガス吸引による発声音質の変化~比較と実験~ 牙王連山飛行生物研究所 モル・モン・デロン

このファンタジー論文は2018年の逆噴射小説大賞に応募した冒頭に加筆修正を加えたものです。固有名称は架空のもので現実のものと一致していても偶然です。


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