「ほれ薬春一番」名香智子

初めての名香智子…!と、思いきや、自分、月刊フラワーズで「水色童子K.K.」を読んだことがあったーーーーー👀

今回のこちらは、おもしろそうなタイトルにつられて読みました。


🌷「ほれ薬春一番」

書誌情報:名香智子「ほれ薬春一番」(2000、双葉文庫名作シリーズ、双葉社、電子版)
収録作品:「ほれ薬春一番」、「ほれ薬ここ一番」、「迷宮案内人」、「女になりたい男の恋」、「クリスマスプレゼント」


おもしろかった!!



「ほれ薬春一番」

奈須尾鷹子(なすびたかこ)という超美人・秀才の技術者が、自身の運営する研究所で媚薬をほいほい開発する話。

あられもない姿のセックスシーンにはびっくりしたけど、色々といさぎよいコメディでした。

「自分は醜いので、人生一度でいいから、男からどうしようもないほど惚れられてみたい」と望むお金持ちの老女のために強力な媚薬(というか条件付き強壮剤)を開発するのですが、サンプルである男子高校生たちと次々にベッドインして、自らの身体で薬の効果を検証するのはさすが…!と思いました。

これじゃまるで獣だわ
ほれ薬というにはもう少しソフトなのがいいわよね

「ほれ薬春一番」電子版(双葉文庫名作シリーズ) p22

力尽きて倒れる相手をよそに、クリップボード片手に冷静に分析する姿もかっこよかったです。


そしてデータをある程度集め終えて満足した直後、ホテルの入り口で偶然、「いままで誰も好きになったことがない」という美しい青年の痴話喧嘩に遭遇します。
しかもその青年にはα版のほれ薬が効かない…!
完璧主義で理想の高い奈須尾女史は、強力な媚薬によってこの青年に初めての恋愛感情を沸き立たせたい!そしてその初恋の情念を老婆に捧げ、任務を遂行させたい…!!と気持ちを燃え上がらせ、研究所で彼を被験者アルバイトとして雇うこととします。。

あの薬が効く男を選べば済むことでしょう

そういうのってイヤなの!
わたしって完璧主義だから

「ほれ薬春一番」電子版(双葉文庫名作シリーズ) p34

かっこいいなあ~

由良青年(誰も好きになったことがないという美青年)の性衝動やトリガーを調べるためのヒアリングのシーンもさくさく進むのがおもしろかったです。トラウマ列挙漫画の「フルーツバスケット」がこのノリで描かれているパターンも読みたい…😭(は?)


依頼主の老婆も底知れない人で、ほれ薬を作れと依頼したくせに実は…というところもよかったです!!!

性格の悪い醜女が一等憧れていること
それは恋慕う男を冷たくふることじゃ

「ほれ薬春一番」電子版(双葉文庫名作シリーズ) p49

はっはっは。
クライアントの本来の目的を瞬時に理解して、舵をすぐさま方向転換させる奈須尾女史はやっぱり素晴らしいです!


この話の表紙の奈須尾鷹子さんの服って、透けてるやつですよね…!!モノクロなのでしっかり見ないと気づかなかった!
大人やで~



「ほれ薬ここ一番」

お次も研究所シリーズなのですが、今回は研究所の助手・野間さんの妹さんが主人公。
野間さんが自宅に持ち帰ったほれ薬を、自分が好きな人と結ばれるために使ってしまう…という話。だから「ここ一番」。

あの薬がいくらするかわかってるの?
億よ!億!!

「ほれ薬春一番」電子版(双葉文庫名作シリーズ) p58

こういう思い切りのいいコマがわたしは好きです。

こんなに所長の鷹子さんが怒っているのだから、野間さんの妹さんも早く薬を返してあげればいいのに…と思いつつも野間さんの妹さんはいかにも野菊タイプの女性というか、素朴で控えめで、頑張り屋さんな女の子なのでついつい応援してしまいます。


実は妹・千鶴には中学から大学(現在)にかけて付き合いがある女友達がいて、かわいらしく華があるその友達・麻衣子は昔から千鶴が好きになった男を次々とものにしていく女なのだそうです。なるほど…
話し上手で人の情報を聞き出すのがうまく、愛嬌があって他人に取り入るのが巧いタイプというやつです。
そんな麻衣子を傍目に「わたしは片思いで満足なの」という言葉を胸に浮かべることのできる千鶴は偉すぎるのですが、衝撃的だったのは

でも でも
そのわたしの片思いの相手を麻衣子が
片っぱしから恋人にするのを見てると
わたし わたし

どうしても性格が
ひねくれちゃうのよ

「ほれ薬春一番」電子版(双葉文庫名作シリーズ) p72

のシーンです。最後の二行で1ページまるまる使っているところをぜひ見ていただきたいです。そして心から「そりゃそうだ!」と同意しました。


千鶴の好きな先輩にほれ薬がうまく効いたのはよかったのですが、ホテルに連れ込まれるところは、この勢いは犯罪では…(薬のせいだけどさ)と心配になってしまいました。あとモザイクにウケました😆

ハッピーエンドでよかったし、先輩の妹(所持金が足りなかった二人を助けに来てくれる)も可愛かったーー



「迷宮案内人」

若い青年刑事と、見合い相手のお嬢さん、ふたりが主人公。
青年は神社で起こった死亡事件(事故?)を上司と調査しつつ、お嬢さんは青年刑事につきまとい捜査に関して鋭い指摘を次々繰り出していく…という2時間サスペンス風の話。


青年刑事の今カノはなぜ彼との結婚を考えていないんだろう??
顔は出てこなかったけど、もしかしてすごい美人で、誰と結婚して落ち着くか決めかねてるのかな(最後見合いの話してたし)。でも当時(90年代)の二十代後半で、同棲までしてるのに。。

お嬢さんの髪型がとてもかわいい。
洋装にも和装にも似合う。


あと事件(事故)、無事解決したように描かれているけど、実は真相は別にあるのでは??と気になっちゃいました。
まあでもふたりの恋物語(?)なのだし、そんなことは置いといて、ふたりの関係が進展するとよいですね。。☺️

しかたないわ
たいてい
気に入ったものはすぐには
手に入らないものでございますものね

持ち主も手放したがらないし

「ほれ薬春一番」電子版(双葉文庫名作シリーズ) p134

この、時間が一瞬ゆっくりになるようなひとコマが好きでした。
お嬢さんはお金持ちの貿易商の家の人なのでジャンル問わずあらゆる品物の目利きであるのですが、想い人のことさえ蒐集理論に基づいて分析しているところがさすがです!



「女になりたい男の恋」

これおもしろかった!!
この1冊通して読んでみて、どの作品も、作品一本通してセリフがしっかり前から後ろへ蒸気機関車のパーツみたいにがっちり繋がっていて、それぞれ仕組みとして機能しているのがすごいなと思います。

「こいつは○○なのよ!」と読者からしたら全然違う方向から新情報が挿し込まれても、それに対するキャラの応答が巧く包括してしまうので、キャラクターの人物像は崩れず、読み終える頃には筋の通った人物像が読者の頭の中にも出来上がります。

↑が具体的にどんな感じなのかは、ぜひ読んで確認してみてほしいです!


四人の男女が「友だちの友だち」繋がりで知り合う話なのですが、ウディ・アレンの映画のように、彼らの会話を中心におもしろいように話が進んでいきます。


小四郎という金髪美形の男の子のキャラクターがとっても良くて、梨花子にはぜひ小四郎と結ばれて結婚してほしいなあ。。

隆邑(たかむら。梨花子の幼馴染の男)なんて梨花子をほっとけないくせに、梨花子の気を引きたくて女遊びするような幼稚なやつじゃないですか。見栄っ張りで中身がないから嫉妬深いしすぐ怒るんですよ。

うーんこれからは大好きな二人を
いつも見ることができる…

「ほれ薬春一番」電子版(双葉文庫名作シリーズ) p178

↑最後に手書き文字で書かれたこの小四郎のセリフがわたしはとても好きです!!!


これまでだったらなんだかんだ梨花子と隆邑が結ばれただろうけど、いい加減女性は小四郎みたいな人と楽しく暮らすために結婚したっていいですよね〜


そして小四郎の

そりゃ友人だから
キスぐらいするよ

「ほれ薬春一番」電子版(双葉文庫名作シリーズ) p151

という、花を背負ったセリフ。

韓国文学「アヒル命名会議」(2020、イ・ラン、斎藤真理子訳、河出書房新社)の本の作中には、『セックス=愛という公式の「セックス」欄に代入できる何かを探してるんです。』(p148)という言葉が出てきます。
この言葉について、著者のイ・ランさんが「ほんとうにセックスがいいものならば、友人とセックスのようなことをしてもいいはず。でも現実にはそうではない…」とトークイベントで語っていたことが、わたしは今も忘れられないでいます。

小四郎が背負っている花はバラなので、この作品が描かれた当初は『同性愛志向があって少し変わった男の子』くらいに受け止められていた存在だったかもしれないけど、

臆せずに、『梨花子のようになりたい』と言い、隆邑に対しても『かっこいいと思うから仲良くなりたい』と言う小四郎は、好意や愛情や性愛に隷属しない存在にみえました。

いついかなる時も自分という存在であり続けながら、相手を精神的にも肉体的にも愛せることはこんなにも自由なことなのだなあ…と感じ入ってしまいました。
ネオ男子はすでにもうここに居たんだなー…
見つけるのが遅くなってしまいました。



「クリスマスプレゼント」

お金持ちのお嬢さん・花穂が父親から貰ったクリスマスプレゼントは、なんと親から知らされていなかった許婚者である、見た目は立派なサラリーマン・三日月さんだった。。。という話。


実はこれはお父さんの仕掛けた冗談なのですが、花穂はこれを機に今彼との関係をもっと深めて父親の決めた結婚に抵抗しよう!と決意します。
しかし一方で花穂が悩んでいたのは、今彼とのキスやセックスなど性愛の相性の悪さだったのでした。。。


この作品もまったく婉曲でないセックス表現があるので苦手な人はびっくりしてしまうかもしれません。
ちなみに「ほれ薬春一番」を1冊読んで驚いたんですが、どの作品もイングリッド・バーグマンのように発育のいい身体をした女性たちが出てくる…


お察しの通りの展開になるのですが、この父娘、風通し良すぎでしょーーーと微笑ましい気持ちになれました。

あと今彼は、結局はお母さんのかわいいかわいい息子だった、というオチな。。😆



おもしろかったな~
美形男性キャラの絵をみていて少し川原泉の描く大人男子たちを思い起こしました。ここからきているのかな~

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