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観るアドレナリンこと『プロメア』をおまえの心に直接注入しろ。

 先日、映画『プロメア』の試写会に招待いただき、一足先に本編を鑑賞することができた。これがもう、「最高」と言う他なかった。監督:今石洋之×脚本:中島かずきという黄金コンビから連想するもの全てが2時間の映画にぎっしりと詰まっていて、狂った作画と喉潰す勢いの主演三人の演技、澤野弘之による劇伴があわさって最強のアニメになっていた。ここではネタバレを避けながら、映画『プロメア』を推していく文章になる。対象は生きとし生ける全人類だ。とくに、心と身体がアツくなって叫びだしたくなるような体験に飢えている人、毎日が燻っていると感じている人にこそ、心のセラピーとして劇場に向かってほしい。

映画『プロメア』とは

 映画『プロメア』とは、人類史上最高傑作(当社調べ)と名高いTVアニメ『天元突破グレンラガン』『キルラキル』を生み出した、監督:今石洋之×脚本:中島かずきコンビが贈る最新作。アニメーション制作は『キルラキル』のTRIGGERが務め、製作には『モンスターストライク』のXFLAGが名を連ねる。この黄金布陣の元、製作スタッフにはアニメ界の重鎮や大物が多数集結した、構想期間6年にも及ぶ一大プロジェクトとなっている。和製アニメに詳しくない人に例えて説明するなら、フィル・ロード&クリス・ミラーの元に全世界の優れたアニメーターが集い完成した『スパイダーバース』という大傑作があったが、その日本版のようなものだ。優秀な頭脳と技術を持った職人がよってたかってブラッシュアップを重ねたものが、たった1,800円で観られてしまうあたり、コストパフォーマンスが良すぎる。

 物語はこうだ。炎を操る新人類「バーニッシュ」が突然変異によって発生し、全世界の半分が消失する「世界大炎上」という大災害が起こる。それから30年、バーニッシュの過激派は自らを「マッドバーニッシュ」と名乗り、炎上活動を続けていた。それに対抗すべく、対バーニッシュ用の高機動救命消防隊「バーニングレスキュー」が発足される。その新人隊員であるガロは、マッドバーニッシュのリーダーであるリオの逮捕に成功するのだが、一瞬の隙を突いてリオは囚われていた仲間と共に脱走を果たす。リオを追うガロは、バーニッシュにまつわる真実と、地球の命運にも関わる危機に直面するのだが―という話だ。

 全てを燃やすバーニッシュと、アツい火消し魂を持つバーニングレスキュー。TRIGGERの作風を象徴する「燃える」という言葉の両側で対立する二者の闘いは、興奮度300%のエンターテイメントとして出力され、観る者のニューロンを焦がしていく。数奇な運命に囚われた男と使命に燃える男、二人の出会いはやがて世界を飲み込む大きな炎へと昇華していく。言うまでも無く、男と男のアツい友情モノが嫌いな人類などいないため、映画『プロメア』は万人に薦められる劇場アニメということが証明された。観ろ。

映画『プロメア』はおまえの血をたぎらせる

 しつこいほどに今回はここを推していくのだが、映画『プロメア』はどうしようもなく今石洋之×中島かずきのフィルムである。つまりどういうことかと言えば、濃すぎる情報量の映像とアツすぎる演技の濁流に飲み込まれ、ただただ圧倒されるしかない。そういう映像体験は、映画を観るという行為の中でもこの上ない多幸感に満ちている。

 今石洋之作品といえば、ダイナミックな映像表現と、アメコミやカートゥーンへのリスペクトに満ちた作風が印象的で、その実力は冒頭のアクションシーンから過剰なまでに発揮されている。マッドバーニッシュによって炎上する街を舞台に、縦横無尽なカメラワークで所狭しと躍動する消火用の重機ギア。紫とも赤とも取れる奇妙な色合いの炎に包まれたビル街を舞台に、初っ端から濃厚なバトルアクションで観客の心をわしづかみにしていく。

 そして中島かずきといえば、常に我々の想像のナナメ上をいくぶっ飛んだ発想と、しかしして実は「王道」を往くエンタメの書き手である。本作でも「無人在来線爆弾」に匹敵するパワーワードが30秒に一回の割合で炸裂するロボットアクションや無茶苦茶すぎる設定が唐突に明かされたりするのだが、どんなに荒唐無稽に思えたそれも俯瞰してみれば筋は通っており、この破綻寸前のギリギリを攻めるラーメン二郎感覚こそ中島かずき脚本の真骨頂である。その危なっかしい魅力は、一度虜になると抜け出せない、もう中島脚本じゃないと満足できない身体にさせられてしまう。

 この二人が揃ったら一体どんなアニメが出来上がるかは、『グランラガン』『キルラキル』ファンの方ならおわかりだろう。TRIGGERアニメの1話と最終回を煮詰めて二時間に凝縮した濃厚スープに、中島脚本という強烈な具がこれでもかと乗って、そこに澤野劇伴だとかすしおパワーとかの調味料が足されているのに、しかし丼からははみ出さない驚異的なバランスで成り立っている。クライマックスにクライマックスを重ねる、TRIGGER流足し算の美学の前におれたちの語彙力は崩壊し、理解が追いつくか否かのせめぎ合いが始まる。サービス満天食堂TRIGGERの真骨頂にして、2時間の劇薬エンタテイメントは、必ずやあなたの心のエンジンに火を灯すだろう。

キャラクターに命を吹き込む、アツい男たち

 本作のボイスキャストにはTRIGGERアニメ常連の声優陣が揃い、ファンも納得のクオリティだ。しかし驚くべきは、主演三人の魂のこもった演技そのもの。本職の声優と謙遜ない、あるいはそれを超える熱量で、おれたちの鼓膜にダイレクトなパンチを放ってくる。

 近頃、洋画の吹替えキャストについては賛否両論が巻き起こることが多く、プロの声優陣を当てない配給会社に怒りを覚えることも増えてきた。それは映画を愛する者ならではの切実な心境であり、不信感を抱くことも避けられない場合もある。では、『プロメア』もそういったタイアップにまみれた企業忖度アニメだとしてスルーするのか?それは愚かな間違いである。

 松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人。彼らはそれぞれ、中島かずきが座付き作家を務める「劇団☆新感線」への出演経験のある俳優陣だ。中島脚本を理解し、それを表現することに長けた人材こそ、本作『プロメア』に相応しいという判断で選ばれたであろうこのキャストは、本編を観た今だからこそ断言するが「この三人以外は有り得ない」ほどに上手くハマっていた。舞台ならではのオーバーなアクトや後方まで届くようなキレの声色などは、TRIGGERの濃厚な世界観と相性がいい。

 歌舞伎調の台詞が特徴のガロを松山ケンイチが声を枯らす勢いで演じ、クールなリオを早乙女太一が艶っぽく演じる。一見水と油に思えるこのコンビの化学反応こそがたまらないのだ。また、落ち着いた抑揚に定評のある堺雅人の起用も、しだいに豹変していくキャラクターの狂気としっかりマッチしていて、クライマックスは堺雅人劇場。彼ら三名が汗をかき、魂を削るような声をあてたシーンは、どれも最高に滾る瞬間ばかりだ。この熱量にあてられて、こちらの体感温度もぐんぐん上昇していく。根競べのような演技合戦が楽しめるのも、本作の醍醐味だ。

ここまで薦められたら普通観るでしょ???

 といった具合で、映画『プロメア』は心火を燃やして観るべき最高のエンターテイメントだ。実際、私も『キルラキル』が大好きすぎる余り、期待と不安が入り交ざるような心境で試写会場に向かったのだが、そこを後にするころは熱狂と笑いと感動で脳内と顔面はぐしゃぐしゃになっていた。この比類なき面白さを伝えたいのに、言葉が見つからない。こればかりは実際に味わって、脳に焼き付けなければ理解など到底不可能なシロモノだからだ。

 「万人に薦められる」と銘打ってはみたものの、TRIGGERアニメはその強烈な作家性ゆえに適合値のブレが激しく、観る人によって0点か100点かどちらかの極端さに振り切れることの多い作風である。しかし、いや、だからこそ『プロメア』を観て欲しい。性癖に刺されば100点はおろかオールタイムベストを塗り替える可能性を秘めた特別な作品を、わざわざ見逃すようなマネはしてほしくない。お願いだから映画『プロメア』を観てくれ。もし気にってくれたら、思い残すことが無くなるくらい語り合おう。キルラキル号泣おじさんからのお願いは以上です。


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