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決別の物語。『スターウォーズ 最後のジェダイ』

 私とスターウォーズ、とは言ったものの、劇場公開版と特別版の違いなんてCGの有無しか把握しておりませんし、ハンとグリードどっちが先に撃ったかについてはとくに自論はございません。要は「新作があれば観まぁす!」程度の意識の低さ。一応公開日に駆けつける程度の情熱は持ちはすれど、所詮はSW弱者の戯言なんで、どうかお手柔らかに、右から左へ受け流してくださると幸いでございますよ。

※本作、並びに前作『フォースの覚醒』のネタバレを含みます。ご注意ください。

遠い昔、はるか彼方の銀河系で…。

レイア・オーガナ将軍が率いるレジスタンスの基地に、ファースト・オーダーの艦隊が奇襲を仕掛けてきた。エースパイロットのポー・ダメロンはX-ウィングに搭乗し敵艦隊の爆撃任務に挑むも、レイアの命令を無視した行動により全ての爆撃機と多数の仲間の命を失ってしまう。

とある孤島で隠居生活をしていた伝説のジェダイ・マスターのルーク・スカイウォーカーを探し当てたレイは、ルークにレジスタンスに戻るよう懇願するも、ルークはそれを拒絶した。ルークは一人残された最後のジェダイとして、自らの死を持ってジェダイの根絶を果たすつもりであったが、R2-D2の説得により、レイに修行をつけることを決心する。しかし、レイに宿る強大なフォースを感じたルークは、それが闇の力に発展し得ることを恐れるようになる。そしてレイの意識はカイロ・レンと同調するようになってしまう。

【レイの物語】

 前作『フォースの覚醒』は、初期三部作(ルークの物語、エピソード4~6)のファンへの目配せをしつつも、新たな神話の主人公を担うレイ、フィン、ポーの三人、そしてダークサイドの主格となるカイロ・レンを魅力的に描き、新世代の物語の幕開けであることを宣言した一作でした。キュートさとたくましさを兼ね備えたレイ、脱走を介して超特急で友情を深めるポーとフィン、ベイダーを受け継ぐ(笑)カイロ・レン。役者同士のアンサンブルが成し遂げるキャラクターの関係性の描写の豊さが、前作の持ち味の一つでもあったように思い起こせます。

 続く本作では、レイのフォースを巡る物語が全体の縦筋になります。強大な力を秘めており、光と闇、どちらに転ぶかで銀河の命運が左右される。かつてのアナキン・スカイウォーカーを彷彿とさせる設定であり、実際に闇に堕ちたカイロ・レンとは鏡像関係に位置する役どころです。レイ自身も、自らに宿る大きな力に恐怖し、それを制御する術を探しています。そしてそれは、彼女自身が自らの出自を知ることとも深く関係しています。

 砂漠の星ジャクーで、両親の帰りを待ちわびながら太陽を見つめていたレイ。両親のことを知らない彼女は、自分自身が何者かを上手く規定できない不安を抱えていました。本作では、レイがハン・ソロに父親像を求めていたことを、カイロ・レンに見抜かれてしまいます。「レイはスカイウォーカーの血筋を引く者」という考察がファンの間で話題になりましたが、レイ自身もその予感(あるいは期待)を持って、ルークに会いに行ったのかもしれません。

 しかし本作にて、その願いは否定されます。レイの両親は名もなき男女で、彼女を捨てた後、すでに死んでいることが明かされます。その事実が彼女の心の闇となり、カイロ・レンはそんな彼女と手を取り、銀河を共に支配しようと呼びかけます。

 ですが、これはジョージ・ルーカスが描く『スターウォーズ』とのある種の決別にも近い、本三部作の重要なテーマとも見て取れます。過去のスターウォーズサーガは、スカイウォーカーの血筋を巡る物語であり、その強大なフォースという才能は血統と直結していました。強大なフォースを持つ青年が闇に堕ち、その息子が仲間と協力して父を討つ。神話的構造を土台としつつ、父親を乗り越えることでハッピーエンド、という物語がこれまでのシリーズを貫いていました。

 対して本作では、レイの出自が特別なものであることを否定し、才能が生まれに左右されないことを宣言しました。これは、名もなき英雄の犠牲を描いた2016年公開のスピンオフ『ローグ・ワン』とも通じるメッセージでもあります。継承により英雄が産まれるのではなく、行動によって英雄となる。穿った見方をするのなら、生まれた瞬間から貧富の格差を受け入れざるを得なかった現代の子どもたちに送る、前向きでポジティブなメッセージとも受け取れます。残るEP9にて、レイはいったいどのような行いで、銀河に平和をもたらすのか。彼女自身と、そしてディズニー体制になった新・スターウォーズの真価が試されます。

【ルークの物語】

 ジョージ・ルーカスの『スターウォーズ』との決別、というお題目は、旧三部作のキャラクターとの別れも意味しています。前作ではハン・ソロが物語から退場し、2016年にはレイア姫を演じるキャリー・フィッシャーが亡くなりました。キャラクターは永遠ですが演者はそうもいかず、商業的にも物語的にも、新しいキャラクターにスターウォーズを受け継いでいかなくてはなりません。

 そこでフォーカスが当てられたもう一人の主人公が、ルーク・スカイウォーカーでした。父を乗り越え銀河を救った英雄にして、ジェダイ最後の一人。しかしある事件をきっかけにルークは若きジェダイの育成を辞め、孤島に隠れ住むようになります。父・アナキンの末路を知るが故に光の力が闇に堕ちることを恐れ、自らもカイロ・レンという闇を産みだしてしまったことを深く後悔したがゆえに、ルークはジェダイそのものを滅ぼそうと決断します。

 そんなルークをいかにして奮い立たせるかの描写が、いわゆるファンへの“接待”なわけですが、特大級のサプライズが待ち受けていました。ルークが冒険に旅立つきっかけになったホログラムのレイア姫、そしてマスター・ヨーダ…。受け継ぐべきは教えではなく、行動であること、そしてレイがダークサイドに堕ちる前に行動せよと、かつての師が囁き、ルークは最後の闘いに臨みます。

 前述した通り、愛すべきキャラクターとの別れは避けられません。今作においては、いかにルーク・スカイウォーカーに引導を渡すかが主題にあり、その最期に華を持たせ新世代への引き継ぎを行うことが作り手の狙いだったように思えます。その点において、過去作への多大なリスペクトが観客のエモーションを爆発させるあの“太陽”のシーンを盛り込んだ作り手の選択は大正解と言えるでしょう。映像の美しさ、マーク・ハミルの表情、音楽の力が折り重なったクライマックスは、号泣必死の出来栄え。想い入れの差こそあれ、シリーズ全作を通過した者ならば、誰だって胸に迫る瞬間だったはずです。

【最後に】

 かくして、ジェダイの歴史は永遠のものとなりました。ディズニー体制に代わり始まった新三部作もあと一作。光と闇を巡る闘いもついに終止符が―と思いきや、何やらまた別のサーガが進行中とのニュースが飛び交っており、銀河に平和が訪れるのはまだ先の模様。新作があれば観まぁす!程度の意識で、今後も追っていきます。

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