見出し画像

ゴジラではなく「街」を撮り続けた、ぼくとおじさん。

 4月16日、「特撮のDNA-ゴジラ 特撮の科学展-」に行ってきました。

 ほとんどの展示が写真撮影OKという実に太っ腹なイベントで、それらを貼るとネタバレになるのでここでは掲載しませんが、実に貴重なものを見せていただきました。ゴジラのデザインの変遷を追っていく楽しみもそうですが、昭和版のメカゴジラやジェットジャガー、バランがわりと状態良く保存されていて驚きました。皆さんバランの「お尻」って見たことありますか?映画とはまた違った角度から怪獣を眺めるのも、大変乙なものなのです。

 そして何より感動したのが、10代の女の子やお子さんが多かったこと。中にはご両親に連れられて、のパターンもいらっしゃいましたが、むしろお子さんがグイグイ展示に見入っていて、お母さんに誇らしげに怪獣のことを解説しているキッズを見かけて、それだけで涙が出そうになるくらいの感動があります。着ぐるみ特撮の未来は明るいのかもしれない。必死に物販でソフビをおねだり姿も愛らしかったです。

 で、そうした純粋無垢なキッズを横目に、私のような「大きいおともだち」がスマホなり一眼レフを構えながら、文化の遺産をしげしげと眺めているわけです。やはりこのジャンルのファン層のメインは男性、それもいわゆる(私含め)中年以降になるわけですが、漏れ聞こえる声が完全にマニアのそれ。ゴジラの着ぐるみよりも「轟天」の立体物に感動し、護国聖獣の初期案がバラゴン・アンギラス・バランだったウンチクを(たぶんお互い熟知しているはずなのに)話し合う。もうね、最高なんです。福岡市科学館というファミリーが集まる施設が特別展によって「ゴジラが好きな人しかいない空間」に侵食されている。オタク予備軍のキッズと、完成されたマニアが同じものを眺めて別の着眼点に至る、この「熟成」の差。

 まさに老若男女、怪獣や特撮という日本を代表する文化の貴重な展示に、たくさんの人が日曜日に詰め掛けている。何度もこの話をしていますが、2005年以降のいわゆる“冬の時代”を乗り越えてきた世代にとって、こんなに嬉しいことはありません。怪獣特撮そのものが下火になって、パチンコのために制作された新規映像だとか『ALWAYS 続・三丁目の夕日』の冒頭のアレを繰り返し観て飢えを凌いできたあの時代を想えば、ゴジラが日本アカデミー作品賞を獲ったりハリウッドでも新作が製作され続けたりするなんて、夢のような時代。好きであり続けたことをこうして報われるのは、オタクとして一番の幸せに違いない。

 そんな展示のクライマックスには、ミレニアムゴジラVSレインボーモスラという夢の対決のワンシーンを切り取った、ミニチュア特撮のコーナーが待ち構えています。ここでの出来事が最高で、四角の土台の上に作られた破壊されゆく街にゴジラとモスラがいて、子どもたちは怪獣たちに釘付け。なのにぼくと一人のおじさんは、ほとんどローアングルでビルを見上げるように写真を撮り、時には限界まで腕を伸ばして道路を撮っていました。怪獣そっちのけで、精巧に作られたミニチユアを細部まで、撮る、撮る、撮る!大怪獣が上陸すればビルは壊され、道路は割れ、車が吹き飛ばされる。そんな「非日常」を切り取るように、細部までこだわりつくされたミニチュアを撮りまくる私とおじさん、二人の中年男性。こわいですよね。でも二人は真剣で、おそらく本人は幸せだったはずです。だって目の前に「怪獣映画」の現場があるのですから。

 そんなこんなで写真を撮り続けていたら、ぼくとそのおじさんがほぼ同じアングルで、隣り合って瓦礫を撮っていたことに気づいたんですね。で、目が合ったので、おじさんが「イイの撮れましたか」とニッコリ笑顔で、ぼくも思わず、はい、と。流れでお互いが撮った写真を見せあったのですが、自分が撮ったものと全く同じ画角と切り取り方だったんです。数十枚撮ったのに、ゴジラやモスラよりもビルや車や信号機のアップが多くて、「こうなりますよね」と言ったら今度はおじさんが「えぇ」と。それがなんだか可笑しくて、名前も知らない同志と笑いあいながら、ミニチュアコーナーを後にしました。

 出口前の物販コーナーでも再会したので、ありがとうございました、と告げて私は一足先に科学館を出ることにしました。帰宅後に撮った写真をgoogleドライブにアップロードしたのですが、怪獣たちの躍動感ある写真とは一線を画す、破壊された街並みを撮り続けた写真がズラリと並んで、戦場カメラマンの方の写真フォルダってこんな感じなのかな、とボンヤリ思いました。特撮といえば怪獣やヒーローが主役ですが、それらに「壊されるため」に大人たちが精工な街のイミテーションを作り出し、観る者の想像力を掻き立てる。もし自分が住む街に怪獣が現れたら?そんなシミュレーションのためには、ミニチュアは欠かせない存在である。そんな縁の下の力持ちに魅せられた、特撮大好きおじさん二人の、奇妙な出会いのお話でした。

 ちなみに、こちらがおじさんにも褒められた、ぼくのベストショット。ゴジラに踏みつぶされる道路と車を捉えた、映画のワンシーンのようにも見える、イイものが撮れたと自負しております。もうね、このフェティシズムをビンビンに満たしてくれるものがたくさん待ち受けています。マジ感動ですよ。

 「特撮のDNA-ゴジラ 特撮の科学展-」は2023年5月14日(日)まで福岡市科学館にて開催予定。ぜひ足をお運びください。

いただいたサポートは全てエンタメ投資に使わせていただいております。