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声が枯れるまで、称え続けよ!『#バーフバリ絶叫AN』レポin新宿ピカデリー(4.7)

 ついに我々日本のマヒシュマティ王国民の熱狂は興行収入1億の結果を招き、大ヒット御礼の新予告編を引きずり出すことに成功。その祭りの様子がネットを通じて本国インドの王国民、さらには公式に認知されてしまう珍事が日常茶飯事となってしまい、冷めやらぬことのないムーブメントが世界に周知のものとなった。その狂信を一身に受け、なおも光り輝く娯楽映画の頂点こそが『バーフバリ』である。絶叫上映、爆音上映といった観客参加・体感型の上映の後押しを受け、日本全土に広がりを見せつつあるこのバーフバリブーム。

 ついにその勢いを抑えきれないことを悟った配給会社ツインは、聖地こと新宿ピカデリーにさらなる信者の集い(またの名を絶叫上映)の開催を宣言。しかもそれは、『伝説誕生』『王の凱旋』2作連続の絶叫上映を深夜に実施、すなわち「バーフバリ絶叫オールナイト」という、狂気しか感じられない催しであった。前編138分、後編141分の計4.7時間の一大叙述詩を、わずか一夜にして体感する。連続上映はキネカ大森での連続マサラなどの実例もあり初めての試みではないものの、深夜に行うとなれば話は違う。観客には長時間王を称え続ける精神と、体力が求められる。映画鑑賞という枠組みを超えて、もはやアスリートにも似た持久力勝負。日常を犠牲にしてでも王を称えたい。その心が無ければ、生き延びることは出来ない。

 元々深夜営業を行っていない新宿ピカデリーも、この奇祭に対し当初は2つのスクリーンを解放。さらに販売状況によってはさらなるスクリーンの明け渡しを行う厳戒態勢を見せた。これで空席などあれば王の名誉に傷が付く。異様な緊張感の中、深夜0時に始まった第1回チケット争奪戦では、接続待ち人数が4桁に迫る勢いで販売サイトに王国民が集結。数分後には「完売」のアナウンスが流れ、チケットを得た者の歓喜と、得られなかった者の慟哭の声が同時に木霊した。

 即座に決まったスクリーン拡大。しかし結果は同じく、全ての王国民を収容できるだけの余裕は残されていない。幾度となく繰り返されてきたスクリーンの拡大と王国民の長い闘い。それはさながら、作中の戴冠式でアマレンドラ・バーフバリの王位即位を願う、マヒシュマティ王国民の熱量を彷彿とさせる。そしてその想いは、劇場のキャパシティを超える勢いであったことは特筆すべきである。

 結果、最終的には6スクリーンが解放され、計1,261人が王に謁見する権利を得た。例え箱は異なれど、同じ映画を、同じ時間に観るために、都内で1,000人を超える人間が同じ映画館に集結する。これを事件と言わずして何と呼ぶ。市町村に該当する基準は満たしてはいないが、1,000人を超えれば立派な集落である。さながら、新宿マヒシュマティ王国の決起集会。ご存じ謁見の間ことスクリーン1こそジオン公国の赤い彗星に奪取されたものの、この結果は驚異的と言っていいだろう。

 かく言う私は、その争奪戦に全て敗れ眠れぬ夜を過ごし、しかし慈悲深き王国民の施しを受け、スクリーン3での謁見が叶った、一人の王国民である。そんな王国民が目にした、一夜の闘いの記録を、今からしたためようと思う。『バーフバリ』という映画が実現したムーブメントの、その臨界点の一つを後世に遺すための記録の中に、本文も並べられることを期待して、拙くも書き進めていきたい。あの日一夜を共にした者にとって、思い出になれれば幸いである。

歓喜の前説編

 4/7夜、最速でも22時20分開場となる本オールナイトだが、21時の時点で現場は王国民の集会所と化していた。「コミキャス」を用いた「バーフバリおみくじ」を求めて、マヒシュマティ国民が1階ロビーに集結。仮に全参加者が訪れたとしても1,000人規模、その上イベント未参加でも駆けつけた民も多く、数えきれないほどの人々が列をつくり、その傍らは写真撮影スペースと化していた。キャラクターに扮するのはもちろんのこと、ヤシの木や猪、牛といった人外へのコスプレが多種見られるのも、今となっては『バーフバリ』の風流である。そうした人だかりの中で一際輝くのが、ファンが作成した自家製の「うちわ」だ。アイドルのコンサートなどでよく見られるものを想像していただくとイメージできるだろうが、いわゆる“推し”が一目でわかるアイテムとして、ファンの間では交流のきっかけ作りになる重要なアイテムである。うちわを向ける相手がスクリーンの中、であることなどお構いなしで、マヒシュマティ国民はついに次元を超える方法を探し当てたようだ。

 開場前から異様な熱気に包まれた本オールナイト、ついに開始の時刻を迎えたスクリーン3では、ご存じV8Jスタッフと有志の王国民による前説が始まった。まず何より大きな話題となったのは、イベント前日に発表された、日本での『王の凱旋』完全版公開決定の報で、場内は歓喜の声援に包まれた。そして、サプライズとして発表されたのが、幻冬舎より発売となるコミカライズと、S・S・ラージャマウリ監督、S・ヤーララガッタプロデューサーの来日舞台挨拶の情報解禁。誰もが予期しなかったであろう漫画化、そして誰もが夢見た「来日」の結願に、本編開始前にも係わらず特大の声援が鳴り響いた。足しげく劇場に通い、関連商品を買い、その熱量を拡散し続けたファンにとって、これほどの至福はないであろう。そして、次なるチケット争奪戦への予感を潜ませつつ、歓喜の6時間バーフバリマラソンが始まった。

『伝説誕生』

 先ほどの前説ですでに高まった王国民による、配給元であるツインへの感謝の声援を皮切りに、奇しくも日本公開からちょうど1年を迎えたばかりの『伝説誕生』の上映が始まった。最初に“爆発”を迎えたのは、幼少期のシヴドゥが映ったその時のこと。それまでは戸惑いを感じさせるほどの雰囲気だったものの、誰かが発した「かわいいーっ!」の一言が伝播し、女性陣の黄色い声援が一つ、また一つ大きな波をスクリーンに放っていく。やはり民の関心をさらっていくのは我らが王バーフバリであり、育ての母サンガを想い無邪気な笑顔を見せるシヴドゥに、その場にいた者全員が慈愛の視線を注いでいた。

 それからは、『バーフバリ』全体に通じる大きな特徴であるところの、奇想天外かつ大仰な演出やアイデアに笑いも込みのツッコミが入りつつ、シヴドゥとアヴァンティカのロマンスには何度も祝福の声が挙がった。絶叫初参加の民も少なくはなかったとはいえ、王国民の大多数は絶叫経験者。過去の手さぐり感は鳴りを潜め、もはや声援の定番は大方完成されたような印象を受けた。

 一方で大きな変化が見られたのが、サブキャラクターへの応援である。武器商人アスラム・カーン、カーラケーヤに情報を売った裏切り者サケート、そしてバドラ王子。バーフバリやシヴァガミといった主要登場人物とは異なる階層のキャラクターのファンが登場し、ごくわずかな民が惜しみない声援を送る事態が発生していた。家庭用ソフト発売やロングラン上映に伴う鑑賞回数の増加から、より深く作品の世界観に入り込んだゆえに、推しの対象がより奥深くへと推移していく。手練れの王国民ならではの深掘りがなされていたことを示す出来事である。

 とはいえ、今回最も驚くべきであったのは、声援を超えた「悲鳴」の発生である。マヘンドラの物語を語り終え、時代がアマレンドラに移った時、彼が国民にウインクを放つその瞬間にひときわ鳴り響く甲高い悲鳴。よもや冗談抜きで、失神者が出たのではないかと錯覚するほどの、見事な悲鳴だった。王の中の王アマレンドラの人気はやはり不滅であり、『王の凱旋』含め悲鳴が起きたのは全て彼のシーンである。前述のうちわも含め、バーフバリ絶叫は日に日にアイドルのコンサート化の傾向が強くなってきており、ついに観客の発狂が確認されたことに戦慄しつつ、しかし王の威光の前では納得せざるを得ない、印象的な一幕であった。

 こうして、深夜での開催、という都合を感じさせぬほど温まりきった状態で『伝説誕生』はエンドロールに突入。初見時誰もが動揺したであろう“無音エンドロール”に対しても、民が自主的にバーフバリコールすることで無音を補い、互いが互いを励まし合いながら上映は終了。大きな拍手と共に、熱狂の第一部が幕を閉じた。

『王の凱旋』

 『伝説誕生』終映後は20分の休憩兼撮影タイムがあり、コスプレ着用の方が最前列に集い民の注目を集めていた。互いの健闘を称えたり、お土産のお菓子を配るなど、場内の雰囲気は和やかでとても調和が取れていた。あっという間の20分が経ち、前説の方の掛け声をきっかけにバーフバリコールを唱え、第二部『王の凱旋』が開幕した。

 さて、『バーフバリ』はご存じの通り2部で一作品と呼べるほどの壮大な叙述詩であり、一本の作品である以上、前後篇でそれぞれ優劣はつけるべきではないのかもしれない。しかし、絶叫の度合いで語るのであれば、『王の凱旋』は『伝説誕生』のさらに2倍、3倍の熱量を感じさせる、凄まじい映画体験である。何せ序盤から作品のテンションがとにかく高く、荒唐無稽の度合いも前代未聞。そんな作品に食らいつくには、こちらもリミッターを外す必要がある。王国民の間では国歌と化した「Saahore Baahubali」の大熱唱に始まり、クンタラの一連のシーンでは10秒ごとに観客の「foo~!!」とタンバリンが絶え間なく鳴り響き、ペンライトの色も様々に変化してゆく。一見忙しないように見えて、手練れの王国民による淀みないオペレーションの数々を目にすると、その鮮やかさに感動さえ覚える。特に、クマラ・ヴァルマの射る矢の色に合わせて一斉にペンライトの色が青に変わった時など、一体感を味わえる瞬間に出会えることが後方席ならではの醍醐味であると痛感した次第だ。

 声援の対象と質に大きな変化が見られた『伝説誕生』とは異なり、本作では特筆すべき変化は見られなかったように思える。数多の絶叫上映を経て大枠が確立されてきたのか、声援・歌唱・打楽器の要素が作品世界と調和し、安定感さえ覚えるほどの心地よさ。ツッコミの内容も定着化し、そのどれもが作品愛に溢れるものばかりで埋め尽くされているのも印象的である。

 とはいえすでに深夜3時を周り、疲労困憊の者もいるであろう狂気のオールナイト。しかし王国民は手を休めることなく、ひたすらスピーディな展開に食らいついていき、王の偉業を称え続ける。作品からの強すぎる“圧”と、観客の“熱量”の真っ向勝負。互いに途切れることなく拮抗し続け、なだれ込むように最終決戦に突入。ここにきて観客の中に紛れ込んだ「バラー派」が突如復活の狼煙を上げ、劇中に合せてか声援の対象もマヘンドラ⇔バラーと目まぐるしく変化してゆく様が面白く、悪役であるバラーラデーヴァにも等しく応援の声が挙がるのも、人気の裏返しであろう。

 それでも歴史はマヘンドラ・バーフバリの勝利に傾き、25年に渡る怨嗟の炎を、観客も赤いペンライトで表現した。そして王の座に帰り着いたマヘンドラに惜しみない賞賛を、命の河を流れゆくバラー像の頭部に「次は勝てる」「漫画版なら勝てる」と謎のエールを送りながら、ついに絶叫オールナイトが終わりを告げた。劇場に灯りが付くか付かないかのタイミングで、一体どこにそんな余力があったのかと疑うほどに大きな拍手が鳴り、タンバリンの鈴の大合唱、最後のバーフバリコールを以て、スクリーン3における全公演の終了がアナウンスされた。

 その時響いた「ありがとう~!!」の声は、企画運営を担当されたV8Jスタッフの皆さま、配給元の株式会社ツイン、そして謁見の間を提供した新宿ピカデリーに当てられたものであっただろう。この時、時計は4時50分を指し、かつてない達成感に打ち震えつつ、互いの健闘を称えあい、新宿ピカデリーを後にした。こうして、映画史に残る伝説の一夜が完結したのである。

最後に

 今この文章を書いているのは、オールナイトを終え一睡もせず、突然襲ってきた疲労と喉の痛みに耐えながら、記憶が新鮮な内に吐き出したいという想いだけで書き連ねたそのままのものである。スクリーンが複数に分かれるという都合上、イベントの全てを網羅できているとは言えるものでもなく、筆者の主観による記述も多く含まれることをご了承いただきたい。

 『バーフバリ』を愛する1,000人を超えるファンが一堂に会し、誰もが己の体力と闘いながら王を称え続けた5時間強。我が国におけるバーフバリブームの特異性を代表する一大イベントであり、本国インドにも負けじと大々的に報じられるべき一大事件であることを、最後に強調しておきたい。ノーカット完全版の公開に製作陣の来日など、ファンの応援が後押ししたであろう願いの結願を、同じ場に居合わせた王国民と共に祝えたことを、本当に嬉しく思う。

 繰り返しになりますが、この度の上映に係わられた企画運営・配給・劇場の皆さま、そして当日参加された全ての王国民に、お礼申し上げます。こんなに楽しく、終わりを寂しく思うイベントには、中々出会えません。願わくば、もっとずっとバーフバリの名を唱え続けられるよう、願うばかりでございます。




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