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コレ、どうやって撮ったんです…?『悪女/AKUJO』

殺し屋として育てられたスクヒは、育ての親であるジュンサンに想いを寄せるようになり、二人は結ばれた。しかし、ジュンサンが敵対組織に殺されたことで、スクヒは復讐を実行する。その後、政府の秘密組織に拘束された彼女は、顔も身分も変えられ政府直属の暗殺者としての人生を歩み始める。愛する娘を守るために生きることを決意したスクヒは、新居の隣人であるヒョンスと再婚することを決めるのだが、結婚式の日に言い渡された任務の標的に、彼女は驚愕する。

革新的アクションの実現

 殺し屋として生きてきた女性の数奇な運命と哀しき復讐劇を描く本作の見どころは、そのぶっ飛んだアクションの凄まじさにあります。冒頭、キャラクターの名前や動機の説明はおろか、主人公の顔さえ見せぬまま始まる、一人称視点のアクションシーン。主人公の視界がそのままスクリーンに広がり、銃を持つ手元と次々に出来上がっていく死体の山々で、何やらのっぴきならない状況が進行していることが示される。全編一人称視点で展開された実験的アクション映画『ハードコア』と同じ手法で描かれたこの冒頭だけで、観客は度肝を抜かれます。その上、本作は過去作の焼き直しに甘んじず、この冒頭では一人称と三人称視点が切り替わる疑似ワンカット映像を実現。視界の主が鏡に打ち付けられることで初めて顔が映るカメラワークの巧みさは、革新的と言っていいでしょう。

 そんな血みどろ殺戮シーンから始まる『悪女/AKUJO』の主役・スクヒを演じるのは、『渇き』『高地戦』のキム・オクビン。元々テコンドーの黒帯保持者でもある彼女は、本作のために3ヶ月の猛特訓を重ね、ワイヤーを消す程度の最小限のCG活用&ノースタントで構築される本作の熾烈なアクションを見事に演じきりました。多種多様な武器を用いたハイスピードなアクションや、ウェディングドレスを着ての長距離射撃などの痺れるようなシチュエーションが実現したのも、彼女のトレーニングによる経験と、持ち合わせたセンスの賜物でしょうか。

 中でも白眉なのが、中盤のバイクチェイス。暗殺を成功させ逃亡するスクヒと、彼女を追うヤクザとの闘いは、何とバイクを疾走させながら日本刀で斬り合う、というもの。アニメやゲームでしか観たことのない映像を、ついに生身の人間で可能にしてしまった、本当にトチ狂った前代未聞のアクションは、ぜひ大画面で体感していただく他ありません。

美しき女の哀しき人生

 一度任務となれば殺戮マシーンと化すスクヒですが、人間らしい感情を失うことはなく、それゆえに苦悩します。返り血をどれだけ浴びても美しいキム・オクビンですが、平常時とてめちゃくちゃ美人さんなので、映像は常に華やかです。

 しかし、その人生は悲劇の連続でした。父親を殺され孤独の身となった幼少期のスクヒは、犯罪組織のボスであるジュンサンによって、組織お抱えの殺し屋として育てられます。そんな血なまぐさい日々を送りながらも、親代わりであるジュンサンに恋心を抱き、やがて結ばれる二人。ですが、ジュンサンの死を知った彼女は復讐を誓い、冒頭の激しい大殺戮の幕開けとなります。

 その直後、警察に囚われた彼女は意識を失い、さらに顔を変えられ謎の施設に収容されていました。不意を突いて守衛を倒し脱出を図るものの、ドアを開ければ調理場、バレエ場、演劇の舞台と様変わりしていき、まるで迷宮に迷い込んだような悪夢的シチュエーションが続きます。そこは何と政府による暗殺者養成施設で、スクヒの他にも多くの女性が謎の研修を受けていました。

 その施設内でも頭角を現していた彼女ですが、ジュンサンの子を身ごもっていたことが発覚。出産を終えた彼女は、十年の任務を終えることで自由を得る確約の元、ついに施設を脱するのでした。

 与えられた新しい身分と新居に移るスクヒと娘のウネ。その新居の隣に同じ日に引っ越してきたヒョンスは、何かと彼女にアプローチを仕掛ける謎の男。妻と死別したという彼のアタックを迷惑に感じていたスクヒですが、そのひたむきさに折れたのか逢瀬を重ね、ウネも懐いたためか彼との再婚を決意します。

※以下、ややネタバレを含みます。

 しかし、観客には事前に明かされている通り、ヒョンスは暗殺者養成施設の人間でもあります。彼自身もスクヒに惹かれているとはいえ、彼の任務はスクヒの監視にあり、スクヒは政府の犬として自由を制限されているのです。心休まる日のないスクヒですが、ヒョンスとの結婚式の日に指示された、要人の狙撃暗殺任務。その標的は思いもよらぬ人物で、そこからスクヒの人生はまたしても暴力と殺戮の日々と化してしまいます。

 果たして、哀しき復讐の果てにあるものとは―?ここまでがおおまかなあらすじで、意外にもアクション全振りの印象とは裏腹に、人間ドラマの密度が濃いのが本作。同時に、それこそが本作の弱点であるとも言えます。アクションの斬新さに比べると、中盤のヒョンスとのドラマがあまりに平凡かつ新鮮味が無い故に、個人的には興味の持続が削がれてしまいました。思わず口が開いてしまうようなアクションがもっと観たい!と思うほどに、どうしても退屈に思えてしまうヒョンスとのドラマパート。悲劇性の演出のためにも必要な工程であることはわかるのですが…。

まとめ

 未だかつてない過激なアクションと、壮絶な復讐劇。間に挟まれる、どこかで観たようなメロドラマについては言いたいことがないわけではないものの、映画館で観て損はない作品なのは言うまでもありません。特に『ハードコア』『アトミック・ブロンド』に熱狂した方に、韓国からの新たな刺客として観逃し厳禁の一作としてオススメします。

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