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『劇場版 ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル』

湊家が暮らす「綾香市」に怪獣が出なくなってから、一年の月日が流れていた。ウルトラマンに変身することもない平和な日々を送る中で、カツミだけは将来の進路を決めかねていた。 
そんな時カツミは高校時代の友人で、ゲームクリエイターを目指していた戸井を訪ねるも、戸井は就職したゲーム会社をすでに辞め、自宅に引きこもる生活を送っていた。カツミは、戸井の様子にショックを受ける。
そんな戸井の仄暗い心に目を付けたのは、謎のウルトラマン・トレギア。トレギアは戸井が考案した怪獣を現実に召喚し、戸井に町を襲わせる。さらにトレギアはカツミに接触し、地球から遠く離れた別の惑星へと飛ばしてしまった。残されたイサミと、別世界から飛ばされた朝倉リク=ウルトラマンジードが戸井の怪獣を迎え撃つのだが、歯が立たない。絶体絶命の今、家族の絆が今一度問われる。

 2018年放送の『ウルトラマンR/B(ルーブ)』は2人の兄弟を主人公に据えた、ダブル主人公が話題となった作品。お互いが未熟ゆえに闘いの中で成長し、コンビネーションで敵怪獣に立ち向かっていく。そんな兄弟の絆の物語はどんどん視野を広げ、友情や家族といった大きな視点に移行し、湊家という一つの家族の絆が宇宙を救う。そうした爽やかなホームコメディの一面を強調したウルトラ作品だった。

 TVシリーズのその後を描く本作では、家族の絆という大テーマを、「湊カツミ」の物語から改めて描き直す。弟のイサミは宇宙工学の研究のため留学、妹のアサヒは看護師を目指しそれぞれの道を進もうとする中で、カツミだけが自分の夢を追いきれない。家業を支えるために野球選手の道を諦めた過去を持つカツミは、一歩を踏み出す勇気が持てなかった。

 そう思うと本作、意外にも対象年齢は例年より少し高い。自分より小さかった弟や妹の成長に気づき、喜びと同時に寂しさや妬ましさが去来するような感覚は、長男/長女なら一度は感じたことがあるはず。あるいは、夢に一直線であんなに眩しく見えていた友人が、社会の現実に敗れ今は落ちぶれているというのも、苦い設定だ。まるで自分だけ取り残されたかのような気持ちに悩むカツミは等身大の主人公であり、その焦燥は挫折を経験したことのある、子連れの親世代の共感を誘うかもしれない。生真面目でお兄ちゃん気質なカツミは、いざ自分のことになると途端に弱くなる。その弱さと向き合う物語が、本作のメインストーリーとなる。

 そんなカツミの弱さと対照的な精神面の強さを持つのが、前作『ウルトラマンジード』の主人公である朝倉リク。自らも悪のウルトラマンベリアルの息子という壮絶な出自を持ちながら、その運命と向き合い戦い抜いた過去の持ち主。アサヒと「家族」について語り合う場面は、互いの出自を思えばこそ感動的であり、湊家と食卓を囲みその温かみを知ったからこそ、挫けそうになった湊家の後輩ウルトラマンを奮い立たせることができる。前作の主人公だから、というお約束を超えて、リクの客演は『ジード』『ルーブ』双方のテーマを補強する意味を持ち合わせている。見事なクロスオーバーだ。

 ロッソ&ブル、ジードも多彩なフォームチェンジで怪獣と闘い、異なる属性の連係技で敵を倒すアイデアも面白い。ブルとジードの歩調が合った闘いも、カツミの疎外感を強調するという役割を果たすなど、アクションが物語を補強する巧みな構成も良かった。

 クライマックスでは、円谷プロの十八番である「CGと実写の融合」の、その先を提示する挑戦的な名場面。湊家の絆が生んだ新たな戦士ウルトラマングルーブはなんとフルCGで、宿敵トレギアとの空中戦とてもスピーディ。怪獣スネークダークネス対ジードの特撮映像とシームレスに入れ替わりながら展開するそれは、これまでのウルトラマン映画には無かったフレッシュな味わいで楽しませてくれる。当然、好みは分かれるしハリウッド大作と比べるとやはり見劣りはするが、着ぐるみ特撮では出来なかった表現にトライするその精神は、フルCGのゴジラが大ヒットした現代で新たな手法を模索しようとする作り手の熱気が感じられる。

 ラストは『R/B』らしく、爽やかで前向きな結末が印象的だ。夢を持つことは時に痛みを伴うが、前に進む原動力になる。そして離れていても、家族の絆は途切れることはない。来年の今頃は新しいウルトラマンの映画が公開され、カツミとイサミもきっと地球の危機を救うために駆けつけてくれるだろう。成長した彼らに再会できる日が、今からとても楽しみだ。


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