見出し画像

勘違いで人が死ぬ!怒りの除雪車×リーアム・ニーソン『スノー・ロワイヤル』

雪に囲まれた田舎町キーホーで除雪作業員を営むネルズ・コックスマンは、模範市民賞を受賞するほど真面目な人物。そんな彼の一人息子が、麻薬の過剰摂取によって突然死する。息子に限って薬物なんて―。真相を探る内に、息子が地元の麻薬王バイキングの一味によって殺されたと知り、ネルズは孤独な復讐を始める。一方、手下が次々殺されていくことに気づいたバイキングは、これを別組織による妨害工作と断定し、敵対組織を襲撃。平和な町を舞台に起こる凄惨な復讐劇に、警察が介入したことで思わぬ展開を迎える。

 2014年のノルウェー映画『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』を、同作の監督であるハンス・ペテル・モランドがセルフリメイク。雪に覆われた極寒の田舎町を舞台に、白銀の景色を血の色に染める最高の復讐劇が再びスクリーンに帰ってきた。

 原作となる『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』については、この記事を参照するといい。今回のリメイク版では原作を素直にトレースしており、同じショットの切り取りやカメラアングル、印象的な「†死亡告知†」が引用され、同じ映画を観ている錯覚に陥るほどだ。だが、本作にあって原作には無い強烈すぎるスパイス…リーアム・ニーソンという劇薬をキメたことで、怒りの除雪車の馬力は数段階上がってオーバーヒート寸前だ。今回は、その魅力をお伝えしていきたい。

リーアム・ニーソンはすきか?

 リーアム・ニーソンはすきか?もちろん大好きだろう。だが最初に言っておくべきことがあるとすれば、本作のリーアム・ニーソンは『シンドラーのリスト』『スター・ウォーズ』の方ではなく、『96時間』『ラン・オール・ナイト』の方である、ということだ。アカデミー主演男優賞受賞という輝かしい経歴があり、名優としての位置を確立してもなお、アクションスターとして第二のキャリアを積み立てていく、思わず「兄貴」と慕いラドンのように頭を垂れたくもなる、最高の漢だ。

 とはいっても、リーアム兄貴の魅力は「完全無欠ではない」という点にある。ドウェイン・ジョンソンのような人間離れした筋肉も、ジェイソン・ステイサムやマックス・チャンのような目にも止まらぬ格闘術を有しているわけでもない。あくまで人間臭く、一見どこにでもいるような優しい目をしたおじいちゃん。だが、その目の奥には確かに狂気を宿している。そういった塩梅のキャラクターを演じさせたら、右に並ぶ者はいない。静かに狂い、徹底した暴力で相手を打ちのめす。これぞリーアムが打ち立てたアクションスター像だ。

 今回演じるネルズ・コックスマンは、田舎町で長年除雪作業員として働いてきた真面目な男。決して元特殊部隊員とか、元マフィアお抱えの殺し屋のように、これまでのリーアム映画にありがちな派手な経歴はなく、真面目に働いてきた良き人であり、良き父である。そんな彼に訪れた突然の悲劇。愛する息子を失い、怒りに燃えるネルズが選んだのは復讐。愛する妻も家を出てしまい、何も失う物がないネルズは、着々と麻薬組織の人間を殺していく。

 もともとアクション映画はそういう傾向にあるのだが、今作もまたリーアム・ニーソンのアイドル映画として、抜群の魅力を放っている。スピーチがヘタな照れ屋ニーソン、「仕事一徹の真面目な男」がウソのようなエグい打撃音のパンチを繰り出すニーソン、人を殺し慣れてないのか上手く仕留めきれず追い首絞めするニーソン、ほのぼの誘拐、子どもに除雪車のカタログ読み聞かせなどなど、リーアム萌えするシーンが満載。序盤の悲壮感を吹き飛ばすような軽快さや面白さに溢れているのも、本作を薦めたくなるポイントである。

人が死ぬアンジャッシュ

 物騒な例えで恐縮だが、本作のあらすじを一言で表すならこうだ。本作における人が死ぬ理由のほとんどが「勘違い」であり、それが解消されぬまま墓標がまた一つ!また一つ!増えていく!!驚愕のサイコスリラーと銘打たれてもおかしくないほどに、何もかもがおかしい。

 そもそもの発端であるネルズの息子の殺害も、実は麻薬組織の人違いによるもの。それに怒ったネルズは息子の同僚の情報を元にまず一人、また一人と麻薬組織の人間を消していく。それを知った麻薬組織は地元の先住民である「ホワイトブル」の仕業と勘違いし、その襲撃に怒ったホワイトブルも反撃を開始。その構図をマフィアの縄張り争いと勘違いした警察もテンション高めに乱入し、事態は四つ巴のカオス状態へ。やがて発端が何であったかさえわからぬまま、麻薬組織同士が対立し、警察がそれを追い、その裏でネルズの復讐が淡々と(しかしテンポ良く)進行していく。誰が生き残るかわからない、まさにバトルロイヤルの邦題に相応しいクライマックスに雪崩れ込んでいく様は、これ以上ないほどにブラックかつ滑稽で、劇場は何度も爆笑に包まれる。この近年まれに見る摩訶不思議さこそ、本作にしかない強烈な面白さを引き出している。

人が死んで笑ってもよい

 不謹慎であったり、バチ当たりな描写や言動も、フィクションを楽しむ上で欠かせないものだ。とくに本作は、人が死ぬシーンこそ一番楽しく、我慢できずに何度も噴き出してしまうだろう。

 まず何と言っても、ネルズの淡々とした「除雪」描写。この場合の雪はもちろん人を指すのだが、ネルズさんの基本方針はこうだ。

①殺す
②金網に巻いて氷海に捨てる
③お魚さんが肉を食べてくれるから見つからない

 犯罪小説仕込みの知識で立てたこの計画が功を奏し、捜査の目がネルズに行くことはなく、完全犯罪がいとも簡単に繰り返されていく。特筆すべきはこの描写のテンポで、①から②へはカットの切り替えだけでいつの間にか移行しており、二回目以降は手慣れた手つきで死体を金網で巻き寿司にして、ひょいっと投げ捨てる。後半からは①を省略して②から始まることもあり、基本的に命は安い(傑作の第一条件である)。そして本作では人が死ぬ度に「†死亡告知†」がなされるのだが、人死にの陰惨さを打ち消す最高のスパイスとして機能している。思わず目を背けたくなるようなゴア描写もないため、安心して観られることは保証したい。

 また、ネルズさんの殺人の手法もバラエティ豊かで観客を飽きさせない。上述の連続パンチや追い首絞めの他、添い寝銃殺や除雪車煽り運転など、多種多様な方法で息子の仇を追い詰めていく。よく考えて欲しい、普通自動車よりも遥かに大きい除雪車が猛スピードで後ろから接近してきたら(しかもリーアム・ニーソンが乗っている)、どう思う?こわすぎる。失禁してハラキリ案件だ。

 そんなサービス満点のネルズ流ヒトコロスイッチだが、白眉は何と言ってもクライマックスの大乱闘。除雪車を殺人マシーンか何かと勘違いしたネルズさんは、あっと驚く方法で麻薬組織のボスを圧倒!これまでたくさんの映画を観てきたが、原作の『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』、そして本作『スノー・ロワイヤル』でしか観たことのない驚天動地の必殺技は、必ずや爆笑と感動で心を満たしてくれる。原作を観てネタバレに会うよりは、急いで本作を観た方がいい。大スクリーンで観る”アレ”の興奮は格別だからだ。

結論:本作はコメディだ

 先ほどから「笑える」「爆笑」というワードが飛び交うように、本作はブラックなユーモアに溢れたコメディだ。おそらく作り手も確信犯で、だからこそあんなふざけた描写が出来るわけだから、心置きなく劇場で笑っていい。我慢することはない。

 念のため強調しておくのなら、作中の登場人物たちはいたって真剣だ。二つの麻薬組織も互いに敵対組織の報復だと信じきっているし、警察はマフィアの縄張り争いと決めつけ勝手にテンション爆アゲ↑↑な始末。だからこそ生じるシリアスな笑いこそ、本作の真骨頂だ。人は愚かだし、麻薬や人殺しは褒められた行為でないのはもちろんだが、そこから生じる奇妙な対立構図や前代未聞の除雪描写に、拍手喝采で応えたくなるのが本作。季節感を間違えた公開時期には疑問を覚えるが、これを観逃しては損をする。リーアム・ニーソン萌え、フレッシュな殺人描写に飢えている人なら今年ベスト級の快作は、ぜひ劇場で観ていただきたい。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

いただいたサポートは全てエンタメ投資に使わせていただいております。