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もっふもふのライアン・レイノルズと駆け抜ける『名探偵ピカチュウ』

子供のころポケモンが大好きだった青年ティムは、ポケモンに関する事件の捜査から戻らないままだった父親のハリーが、事故で亡くなったと同僚のヨシダ警部から知らされる。遺品整理のため父の部屋を訪れたティムはそこで、人間の言葉を話すピカチュウと出会う。ハリーの相棒だったと語るピカチュウは記憶喪失ではあるものの、ハリーが生きていると確信。二人はハリーを追う内にポケモンを凶暴化させる謎の薬品の存在に辿り着き…。

 オタクの夢を叶えてくれることに定評のあるレジェンダリー・ピクチャーズが、またもや日本へのリスペクトを捧げたスゴイ作品を作り上げた。ポケモン初の実写化にして、題材は3DS専用ソフトとして発売された『名探偵ピカチュウ』。原作では大川透による渋い声で話すピカチュウが話題になったが、本作でボイスキャストを務めるのはライアン・レイノルズ(吹替え版は西島秀俊)。このキャスティングは確信犯と言っていいだろう。間違いなく、『デッドプール』起用である。

 本作の舞台は、ポケモンと人間が共存して暮らすライムシティ。ポケモンは野生化しておらず、人々は彼らをモンスターボールで携行するのではなく、共に日常生活を歩んでいる。ポケモンがいる世界が初めてリアルなビジョンで描かれるわけだが、これが存外楽しい。街にはゼニガメの消防団やバーの歌姫を務めるプリンがいて、森にはフシギダネがたくさん生息するコミュニティがある。ポケモンファンにとって夢のような世界が眼前に繰り広げられ、つい没頭してしまいたくなる。

 登場するポケモンたちも単にアニメのテイストを再現するのではなく、生き物としてリアルに感じられる質感や動きが徹底されていて、人間とポケモンが共存する世界を観客に信じ込ませている。ピカチュウやコダックの毛並みは触ってもいないのに手触りを想像してしまうし、ポケモンというよりは「ただの魚」感がとてつもないコイキング、爬虫類を思わせるリザードンの肌模様など、確かにそこで生きていると思わせてくれるディティールがたくさん盛り込まれている。カワイイとキモイの中間のバランスを上手く突いた描き方がとにかく秀逸だ。

 物語は、元ポケモン少年だった青年ティムと、ティムの父とパートナーだったピカチュウがコンビを組み、父の死の真相を探るというもの。コーヒーを嗜み軽妙な口調で話すピカチュウは、やはりライアン・レイノルズの顔が上映中常に脳裏にチラつく。妙に二枚目を気取るも実はさびしがり屋な一面があり、しょぼくれた顔がなんとも言えぬ可愛らしさ。口を開けば下ネタやパロディを禁じられたデッドプールが話しているようで、その容姿とのギャップで劇場は何度も爆笑に包まれていた。キャスティングの時点で勝利が約束されているようなものだ。ズルすぎる。

 やがて真相に近づくにつれ、ピカチュウとティムの絆は深まり、とある壮大な陰謀が明らかになっていく。怪獣映画風のスペクタクルや潜入劇といった要素でハラハラさせつつ、クライマックスではピカチュウ対ミュウツーのポケモンバトルが繰り広げられ、おなじみのわざを放ち闘う展開が楽しめる。「名探偵」を銘打っておきながら推理する場面に乏しいのは残念だが、話運びの速度を緩めないため見どころが常に絶えない。ポケモンの能力を活かした驚きの展開もあり、エンタメ映画として手堅く、万人に安心して薦められる完成度に落ち着いている。登場するポケモンの種類は多いものの、必要なリテラシーは初期の『赤・青』世代のみで事足りる。今でこそ『スマブラ』シリーズで有名なポケモンがメイン格を担っていることもあり、どの世代でも任天堂のゲームを触っていれば問題なく楽しめるだろう。

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