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今さらになって観たんだ、『おっさんずラブ』を。

 放送当時は仕事が忙しく、連続ドラマを観る体力が無かったので、世間の盛り上がりに乗り遅れてしまったOL(=おっさんずラブ)ブーム。このnoteの地でも公式が感想を募集していて、ハッシュタグ #おっさんずラブ で検索すると悪魔の数字666件の投稿がヒットした(※2019/2/3確認)。なので当テキストが667件目となる、かなり罰当たりな投稿になると思います。すみません。

 もうあらすじは説明不要でしょう。吉田鋼太郎と林遣都が田中圭を巡って争うという、シンプルかつ強いプロットが本作の目玉だ。林くん演じる牧は25歳の設定なので「おっさん」に括られてしまうと同世代としてはマジか…と思ってしまうが、それもご愛嬌。ぼくも晴れておっさんの仲間入りだ。

いきなり自分語りに付き合ってほしい。

 最終回まで観ても、私自身は「はるたん」こと春田創一というキャラクターがあまり好きになれなかった。実家暮らしの一人っ子で生活能力に乏しく、自堕落でゾイドが大好きな33歳のはるたん、年齢とルックスを除けば自分と瓜二つだったからです。洗濯機の扱い方がわからない、というところまで壊滅的ではないにせよ、経済的にも精神的にも自立できていない春田というキャラクター像は、自分自身のイタいところを見つめ直しているようで、とても居心地が悪かった。職場でも大声でわめく田中圭さんの演技テンションも、好ましく思えなかった。

 そんな春田は上司である黒澤から告白され、ルームシェアしていた後輩の牧からも想いを告げられる。はじめは戸惑いつつも牧との同居生活の中で芽生えた感情に気付き、交際がスタート。しかし、元から同性愛者ではなかった春田から選択肢を奪っているのではないか…と思い詰めた牧から一方的に別れの言葉を告げられ、その後黒澤と一年間同棲という驚愕の展開に。

 こと春田というキャラクターは、とにかく流されやすい。反面、優しくお人好しであることが魅力なのだけれど、この優柔不断さゆえに本当に相手を想っているのかと、鑑賞中不安にかられてしまった。牧の両親にご挨拶に行く際も(牧の助言があてはまらなかったとはいえ)父親への理解を得る上で無策だし、相手の意向を無視して勝手に職場でカミングアウトしてしまう。悪気は無いにせよ身勝手な性格が災いし、一歩間違えれば謂れの無い差別や批判の的になっていた可能性もあったはずだし、牧はそれを危惧して一度は身を引いたのだ。春田から他者への気遣いや思いやりが感じられず、二人の男性が想いを寄せられるほどに素敵な人物には、私には感じられなかった。

それでも恋は一直線なんだ

 そんな私のいらん世話はよそに、黒澤も牧も、春田への想いは止められなかった。その恋心の描き方がときに強引に、ときに微笑ましくユーモラスだったからこそ、視聴者もこのドラマに恋をしたんだと、ようやく悟りました。

 可愛らしいお弁当を自作する黒澤も、怠け者の春田に呆れつつも母親に代わって家事全般をこなす牧も、全ては春田のために「してあげたい」と思うからなんですよね。相手がどんな人間だろうと、好きになったんだからしょうがない。相手の喜ぶ顔が見たいからと、精一杯の愛をこめる二人の男が、しだいに可愛く見えてくる。優れたラブコメに性別は関係ないんだなと、悟ることになりました。

 とくに筆者の乙女回路を刺激したのは、牧のいじらしさ。強引なキスから始まり、男性同士のノリで付かず離れずの距離を保ちながら、トドメと言わんばかりに「背伸びして春田のおでこにキス」ですよ…。なんというラブコメしぐさ。それを嫌味なくやってみせて、あまつさえいじらしささえ感じさせる林遣都、恐ろしすぎる。林くん、プロフィールが公表されてないため身長は不明だが、田中圭氏とはそこまで身長差は無いように見える。にもかかわらずあのキス、あざとすぎる…!!かわいい…!!というわけで、筆者はあっという間に「牧春」に堕ちてしまった。

もう少し自分語りをする

 以前、自分に彼女がいないことを話すと「ゲイなの?」と揶揄され、居心地の悪さを感じたことがあった。同性愛者に間違われて大げさに否定してしまった自分と、同性愛者であることを笑い者にしようとする相手の態度が、根っこは同じ差別意識に基づいたものだと気付いてしまったから。いくらLGBTという言葉が浸透してきたとはいえ、そうした人たちへの風当たりは依然厳しいものなのだろう。

 その点、『おっさんずラブ』は現実の生き辛さとは切り離された、優しい世界が舞台となっている。同性愛をカミングアウトしたところで、「天空不動産東京第二営業所」のメンバーはそれを非難せず、応援する姿勢を見せる。まるでそれが当たり前と言わんばかりに、二人の愛を祝福する。少女マンガを同性モノに置き換えたある種のファンタジーだからこそ描けたこの世界の在り方が、現実世界の本来あるべき姿なのだろうと、少し切ない気持ちにさせられる。

 『おっさんずラブ』は、男性同士だからこそ「ピュア」な恋愛だと断じる気にはなれない。それは異性同士の恋愛と比べてより尊いものだとか、神聖なものだとは思わない。むしろ、好きなら性別は問わないという気持ちがお互いに芽生え、それがごく自然なものとして報われる世界こそ、一番美しいものに感じられる。その理想の一片を見せてくれた『おっさんずラブ』は、短いながらも深く胸に刺さる一作になりました。大好きです、牧たんが。


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