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ゴリラとゴリラが世界を救う『ランペイジ 巨獣大乱闘』

 かつての冬の時代はどこへやら、映画界は今や怪獣ブームだ。『パシフィック・リム』を筆頭に復興し始めた怪獣映画の盛り上がりは止まるところを知らず、2020年にはついにゴジラ対コングの夢のマッチが再び実現。国内でも『シン・ゴジラ』が大ヒットし、アニメ版三部作も上映中。そんな中、どのユニバースにも属さない新たな作品が登場。『髑髏島の巨神』で味を占めたワーナーにより『巨獣大乱闘』と名付けられた本作は、これぞ大作娯楽映画!と言わんばかりに圧の強いスペクタクル映画だった。

とある遺伝子操作実験が行われていた宇宙ステーションが何者かによって破壊され、その遺伝子サンプルが地球に落下した。そのサンプルに影響を受けたオオカミとワニが巨大化し、サンプル回収のため派遣された軍を壊滅させてしまう。
霊長類学者のデイビスは、保護施設で友情を育んでいたアルビノのゴリラ、ジョージが巨大化していることに気づき、治療のため奔走するが、動物を引き寄せる低周波によってジョージは暴走。かくして、3体の巨獣がシカゴの街に集結しようとしていた―。

ロック様が止まらない

 巨大化した動物が暴れ出し、シカゴの摩天楼で大暴れする。サイズがモノを言うこの作品において、決して巨獣たちに負けない圧を振りまくのは、みんな大好きロック様ことドウェイン・ジョンソンその人である。

 今やロック様の俳優としての人気は凄まじいものがある。『ワイルド・スピード』のホブス捜査官という当たり役を得てスター俳優に登りつめると、本作の監督であるブラッド・ペイトンと組んだ『カリフォルニア・ダウン』にて大地震に襲われたカリフォルニアの空を駆ける救助隊員を熱演しヒーロー像を確立。『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』ではコミカルな演技も堂々こなし、全世界で特大ヒット。集客が見込める大スターとして引っ張りだこの存在となっているようだ。

 このロック様、何よりもズルいと思わされるのが、あのたくましいボディが醸し出す、有無を言わせぬ説得力である。本作の主人公デイビスは「元特殊部隊隊員の霊長類学者」なるトンデモない経歴の持ち主なのだが、一度ロック様がそう言えば我々はただ頷くことしかできない。巨大なゴリラと手話で会話し、並の成人男性なら持ち上げることも出来ないような銃火器をわが物顔でぶっ放す。そんな二面性を持つキャラクターを違和感なく演じられることが、ロック様の類稀なる才能なのだ。

 そして本作はロック様のパブリックイメージに自覚的であり、物語上の困難は全て「ロック様だから」で解決させてしまうパワープレイが幾度となく披露される。銃を持った兵士や手錠程度ではもうこの男は止められない。全てを筋肉で解決させ、異論を挟まないこのテイストは、80年代のシュワちゃん主演作のノリをどこか彷彿とさせる。細かいことはいいんだよ!という押し付けの強いご都合脚本だが、この題材にかぎっては大変心地よい。

 怪獣映画である以前に、まずはロック様のスター映画であること。漢気と色気とユニークさを兼ね備えたこの男の存在感は、巨獣に囲まれたところで決して損なわれるようなものでもない。むしろ巨大なゴリラと並び立つことでより強固になっていく、頼れる兄貴感。現代のアクションスター最大手の魅力をハッキリと打ち出した時点で、この作品の勝利は決まったようなものだ。本作に登場する巨獣は3体ではなく、正しくは4体とすべきである。

破壊と闘争のカタルシス

 よい怪獣映画とは何か。奇しくも同時期公開のアニゴジが「怪獣」の哲学を語っているところ申し訳ないのだが、やっぱり巨大な怪獣が暴れまわり、熾烈な戦いを繰り広げる画を観たいなぁと、映画館に向かうものである。

 その点本作は贅沢仕様で、巨獣による街の破壊と、巨獣対巨獣の2フェーズに分かれており、怪獣映画の醍醐味を余すことなく体感できるようになっている。事件の発端となった遺伝子サンプルはそれを浴びた生物を凶暴にさせる特性があるため、優しい性格のジョージも白いキング・コングと化して戦車を投げ飛ばす大暴れっぷりを披露。巨大化したワニのリジー、ムササビの能力を得たオオカミのラルフも加わり、三者三様それぞれの特性を生かし街を大混乱に陥れる映像のパワフルさに、つい心が躍ってしまう。

 その間、デイビスは凶暴化した巨獣に対する解毒剤を求め奮闘し、ロック様理論で並み居る困難をクリアし、ついに一つだけ残された解毒剤を入手。ジョージを正気に戻すことで、最強のダブルゴリラコンビが復活するのだ。人間(限りなくゴリラに近いが)と霊長類の、種族を超えた友情が観客の胸を打つと共に、後半戦はジョージ&デイビス対ラルフ対リジーの大乱闘に発展。飛び道具一切無し、殴る噛みつくといった荒々しい獣同士のバトルは迫力満点で、互いのピンチを守るように闘うジョージとデイビスの姿に何か目覚めそうになるなど、見どころしかない後半クライマックス。これを大スクリーンで体感してこそ怪獣映画。家庭用ソフトや動画配信で済ませてしまうのは、あまりに勿体ない。

 大暴れを意味する『RAMPAGE』と銘打ったからにはこうでなくては!と言わんばかりの大スペクタクル映像に、娯楽映画かくあるべきの極意を垣間見た2時間。ポスターや予告編から得るイメージを一切裏切らない誠実さこそ、本作が好ましく何度も見返したくなる要因なのだろう。怪獣映画の未来は明るい。ぜひこのままモンスターバースにも合流し、ゴジラと一線交えるジョージ&デイビス、なんて対戦カードを夢見ずにはいられない。


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