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『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』であり続けた最高の幕引きについて

 本日2月10日、『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』が最終回を迎えた。だがしかし、視聴者の皆さんはご存じの通り、快盗と警察の追いかけっこは終わったりしない。むしろこれからも続いていくのだろう。そう思わせてくれるだけの、考え得る限り最高のフィナーレだった。

 思えば『ルパパト』は、面白さの火が消えることなく、一年間を走りきった。2組の異なる戦隊が両立し、それぞれ異なる動機を抱えながら共通の敵を追っていく。その中で、警察側がルパンレンジャーの正体を知らないまま(その逆は知られている)物語が進み、それが白日の下に晒されるかもしれないスリリングな局面を快盗が何度も乗り越える展開が続き、独特の緊張感を保っていた。

 ギャングラーという共通の敵を持つ二つの戦隊だが、局地的な共闘はありつつも、真の相互理解には(25話現在)至っていない。ルパンレンジャーは己の願いのために闘う「私的」な正義を、パトレンジャーは警察組織に属する「公的」な正義を信条に闘っている。それらは甲乙付け難く、悪を倒すための正義なら等しくヒーローとして写る。二つのヒーローが存在する本作は、アバンタイトルで「どっちを応援する!?」と視聴者に投げかけることの出来る、稀有な戦隊モノだ。異なる正義はやがて融和の道を進むのか、あるいは決定的な対立の果てを行くのか。その推移を見守るために、ファンは日曜朝早く目覚めるのだ。
 そしてこの物語の最高の盛り上がりは、快盗の正体を警察が知る瞬間であることは間違いない。今のところ快盗側だけが相手の正体を知っているが、この均衡が崩れる時はいつか必ずやって来る。行きつけの洋食店の店員が快盗であることを知った時、警察側はどのような反応を示すのか。おそらく、この着地から逆算して脚本は書かれているだろう。どのようなタイミングで、どのような状況でそれに至るのか。今からとても待ち遠しい。

 以上は、25話放送当時に書き上げたテキストのセルフ引用になるが、『ルパパト』は「快盗の正体バレ」を物語の推進力として働かせ、それぞれに事情を抱えた二つの正義が交差する様をエモーショナルに描いていく。その過程でキャラクター描写を幾重に重ねることで終盤への積み重ねにも容赦なく、その結果として胸をえぐられるようなシチューションがクライマックスには何度も待っていた。この結末を元に逆算して書かれたのだろうか、本作の物語やキャラクターの感情の動きに、まんまと翻弄されてしまった。

 振り返ってみれば、『ルパパト』のメインストーリーであるところの「ルパンコレクション奪還」「ギャングラー撲滅」については、実はかなり進行が遅かった。ギャングラー幹部は終盤間近になるまで脱落者を出さなかったし、中盤から姿を現した快盗たちの怨敵ザミーゴも、不自然なほどに登場しない時期があった。そもそも、ルパンコレクションを全て集めたら願いが叶う、というドラゴンボール的な報酬については、最終回を終えた今でもその信憑性は謎のままで、そんな不確定要素に基づいて快盗たちは辛い闘いに赴いていた。その過程で気の狂ったようなギャグ回を挟んでくるのも、油断ならなかった。

 しかし確実に、そうしたエピソードで撒かれた種が芽を出すクライマックスは、毎週がアツい展開のオンパレードだった。警察の任務として快盗を追いながらも、幾度となく闘いを重ねることでルパンレッドへの信頼を確立し、言葉を交わさずして強敵デストラ撃破への活路を見出すパトレン1号=朝加圭一郎。そんな圭一郎は、魁利がルパンレッドであることを知らずに、彼を救いたいと申し出る。眩しいくらいに正しいその姿に、魁利は罪悪感を抱く。咲也からの想いに気づきながらも快盗であり続けた初美花にも、似たような後ろめたさがあっただろう。

 そしてついに、ドグラニオの残忍な罠によって、快盗たちは自ら正体を明かすことになった。信じたくなかった疑惑が真実だとしった警察は動揺し、快盗も楽しかった日常を失う。それでも、大切な人を取り戻すために、快盗は闘いを続ける覚悟を決める。

 そんな時でも、圭一郎は魁利の力になりたいと、自分の信念を曲げなかった。相手が快盗だとしても、目の前の苦しんでいる誰かを見捨てるなんてできない。警察を辞める覚悟で放ったその一言は、彼の絶対的な正義を象徴するもので、同時に魁利にとっては何よりの救いだったに違いない。

 追い詰められたルパンレンジャーも、最終決戦に臨む。全てはザミーゴによって奪われた、大切な人を取り戻すため。そのためなら、二度と出られないドグラニオの金庫にも臆することなく入っていく。彼らは常にストイックかつ冷静で、「大切な人を取り戻す」ことだけに目が向いていて、自らを勘定に入れていない。そうしたある種の歪みを抱えた三人だったが、ついにザミーゴを倒した際には安堵の表情を見せ、抱き合ったのが印象的だった。快盗として闘い、「願いのためなら誰かを切り捨てでも生き残る」なんて非情なルールを己に科しながらも、その実闘うことを投げ出したかったのかもしれない。等身大の若者らしさがようやく垣間見えたその瞬間、目元を隠していた帽子がもう必要なくなった三人を映すラストカットはとにかくエモい。

 快盗の想いを託された警察も、ドグラニオとの死闘に挑んでいた。金庫に収納された快盗を救わんと、全力で戦う三人とノエルだったが、どうしても金庫の鎖を破ることができない。しかし、快盗たちの機転によりドグラニオのコレクションが奪われ、ついに起死回生の一手を得る。最終回にしてようやく登場したスーパーパトレン1号、彼の両隣に咲也とつかさが並び立ち、スーパー戦隊伝統の必殺バズーカを彷彿とさせる攻撃でドグラニオに一矢報いる展開の素晴らしさたるや!満身創痍になったドグラニオを前に、「魁利たちを犠牲にしてよいのか」という考えがよぎる圭一郎。覚悟を決めた銃弾の行く先が、「ドグラニオの逮捕」という警察らしい決断に着地していくのも爽快だ(同時に、ドグラニオにとってはこの上なく残酷な末路だ)。

 そして一年後。快盗たちが助けた三人の平穏な生活に安堵しつつも、ギャングラーの残党たちが未だ破壊行為を続けていた。人々を救うため日夜闘い続けるパトレンジャー。そこに、聞きなれたあの声が…!!

 ルパンレンジャーの三人は、ドグラニオの金庫から脱出を果たした。そのカギとなったのは、なんと劇場版に登場したジャックポットストライカー。行方不明だったジャックポットを見つけ出したのは、ルパンレンジャーが助け出したあの三人。命を賭して闘い続けたその目的であった大切な人に救われることで、快盗たちは長い苦しみから解放される。

 快盗たちの願いは果たされたが、「ルパンコレクション奪還」という任務がまだ残っている。そして警察も、快盗とギャングラーがいる以上はパトレンジャーであり続けなければならない。かくして、OP再現というオタクが一番好きなシチュエーションの下、「警察が快盗を追う」という番組コンセプトが今後も続いていくことを、明快に打ち出してくれた。ここにきてノエルをあえて外し、当初の三人対三人の図式で、しかもOPに登場していたコレクションを奪い合うという最高のファンサービス。どこか嬉しげに(それを隠そうとしない咲也&初美花が可愛すぎる)追いかけっこしながらギャングラーと闘う様子は、一年間の積み重ねも相まって滅茶苦茶アツい。作り手のわかりみの深さに、朝から号泣してしまった。

 二つの戦隊が争うという番組のコンセプトを、本作は一貫して手放さなかった。一時的な共闘はありつつも、彼らは永遠に追う者と追われる者。まるで『ルパン3世』のルパンと銭形を思わせる関係性で、『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』という作品の最終回として考え得る限り最高の回答を示してくれた。同時に、「君はどっちを応援する!?」というおなじみのナレーションが来週も聞こえてくるんじゃないかと錯覚してしまうほどに、TVシリーズ初の「VS戦隊モノ」としても文句なしの結末だった。ルパンレンジャーVSパトレンジャーであり続けることが、こんなにも感動的に響くなんて。愛すべきキャラクターたちの騒がしい逃走&追走劇、一年間楽しませていただきました。


まだまだ続くよルパパトは。


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