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ぼくのファーストガンダムは『機動戦士ガンダムUC』

 先日、知人同士で「初めて観たガンダム作品は?」が話題になりました。といっても20代前半の集まりだったため、もっとも声が挙がったのは『SEED』や『OO』といった比較的若い作品で、それこそ1作目『機動戦士ガンダム』から履修したという者は一人でした。各人、ガンダムという作品への愛着度には差があれど、何かしらの形で一度は触れたことがある。さすがは日本を代表するコンテンツの一つと言うべき、圧倒的知名度を誇るロボットアニメ、ガンダム。

 かく言う私にとっての初ガンダムとは、2010年からOVA・劇場公開として展開されていた『機動戦士ガンダムUC』でした。それまでガンダムに触れたことも、ガンプラを作ったことさえない、日本男児にあるまじき人生を送ってはいたものの、やはり避けては通れないのがガンダム。

 きっかけは音楽。当時、ドラマ『医龍』や『魔王』、アニメでは『戦国BASARA』などで劇伴を担当されていた作曲家の澤野弘之氏がこの『UC』に起用されていたことを知り、本編を観るより先にサウンドトラックを購入。その壮大かつ勇壮なテーマ曲『UNICORN』を聴いたとき、いったいどのようなシーンでこの素晴らしい楽曲が流れるのか知りたくなり、しかしいきなりBDを購入する勇気がなく、レンタルDVDのリリースを待ちわびること数か月。その時に観たepisode1『ユニコーンの日』が、人生初ガンダムになりました。

衝撃のファーストインプレッション篇

 主人公のバナージ・リンクスは、日々の生活に「ズレ」を感じながらも、友人と共に学園生活を送る普通の学生。ある日、バナージはオードリーと名乗る謎の少女と出会うのだが、彼女の目的は「戦争」を止めることだという。オードリーに惹かれたバナージは、ビスト財団の屋敷へ彼女を案内するのだが、その裏では何やら怪しい取引がなされており、結果として戦争が勃発。一度はオードリーと別れたバナージだったが、彼女の身を案じ再び屋敷を訪れると、財団の当主カーディアスが実の父であることを明かされ、「箱の鍵」なるユニコーンガンダムを託される。衝撃の真実に戸惑う中、バナージはコロニーを守るため搭乗を決意。そこで流れる『UNICORN』の荘厳なコーラス。変形するユニコーン。誰もが圧倒される中、オードリーが意味深に呟く。「ガンダム…。」THE END。次回へ続く。

 以上が、初鑑賞時の所感を思い出しながら書き出したもの。そう、これはあくまで主人公バナージに起こった出来事に沿ったあらすじであり、実際は何が起こっているのか、全く把握できていなかったのです。

 まず、固有名詞が非常に多い。連邦とジオン、袖付き、モビルスーツ、ニュータイプ、ラプラスの箱、ビスト財団、アナハイム社、ザビ家…。1話の段階で様々な固有名詞が飛び交っており、辞書を引きながらでなければ理解がおぼつか無いことがまず一点。

 次に、なぜ戦争が起きたのか、わからない。連邦とジオンがそれぞれ何らかの組織名であることはわかるものの、一体何を争っているのか、その争いは長きに渡るものなのか、どちらが優勢で、主人公らはどちらに属するのか。その中心にある「ラプラスの箱」とはそもそも何なのか。箱一つで争うって、そもそも何!?

 といったわけで、予備知識無しでは世界観を察することは不可能。よって、前述のような理解度でしかストーリーを追えなくなってしまう始末。音楽だけはとにかく素晴らしいし、正直ラストは泣いた。しかし、全体像は決してつかめないガンダムUC。これは手ごわい。

 何も理解はしていないが、これは何かの続編であることはわかった。その段階で初めてネットに頼ったとき、広大なガンダムユニバースに直面します。本作『UC』は栄えある第1作『機動戦士ガンダム』より続く「宇宙世紀シリーズ」の中でもかなり後の歴史に該当する作品であり、『UC』に到達するまでには複数のTVシリーズや劇場版やスピンオフが存在することが発覚。そのあまりのハードルの高さに困惑し、結果、知り合ったばかりのガンダムとはこちらから距離を置いてしまったのです。

予習篇

 そんなガンダム童貞の淡い失恋のことなどいざ知らず、『UC』は次々に展開。併せて、サウンドトラックも第2弾、第3弾がリリースされていきました。また、PS3向けに発売されたゲームの限定版に同梱された特典BDでは、澤野氏のUC楽曲が演奏されたライブの映像が収録されていました。知人を通じてその映像を観て、自宅に帰り購入したサントラを聴く。すると、一度は諦めた『UC』への情熱が再燃したのです。

 一念発起した私は、ガンダムファンの友人宅に泊まり、強化合宿を決行。TVシリーズを再編集した『機動戦士ガンダム』劇場版三部作を一夜で鑑賞。以降の宇宙世紀シリーズの流れを、有志の方が作成したおさらい動画でチェックし、劇場版『逆襲のシャア』も鑑賞。ゲームを数時間遊んだ上で、再度『UC』と向き合う覚悟を決めたのです。アムロとシャア、地球連邦政府とジオン公国、宇宙移民とニュータイプ。宇宙世紀に起きた様々な争いや衝突、慟哭と歓喜入り混じった様々な感情を一夜漬けで身につけ、当時episode5までリリースされていた『UC』をまとめ借りし、ついにリベンジの時が訪れました。

再会篇

 体調に異変をきたすほどに過酷なガンダムブートキャンプを経た後に再度挑んだepisode1でしたが、驚くほどすんなり頭に入ってきました。

 長きに渡る連邦とジオンの争い。それは、地球の環境汚染により生じた宇宙移民者たちが、独立権を求め地球連邦政府に反旗を翻したもの。新天地を得た人類の革新の象徴たる“ニュータイプ”は、いつしか撃墜王と同義語となってしまった悲しき現実。幾度の戦争を生き延びたジオン群の残党、通称“袖付き”。そして、連邦政府を転覆しうるほどの秘密が隠された“ラプラスの箱”を、それを隠匿することで繁栄し続けた“ビスト財団”が、宇宙世紀100年を前にした今、それを袖付きに譲渡しようという。スキャンダルの発覚を恐れ譲渡の阻止を企む連邦軍と、何としても箱を手に入れたい袖付き。権益維持のため暗躍するビスト財団関係者による介入。

 これまで意味さえわからなかった固有名詞たちが、一本の線で繋がりだした時、作品への理解度は大幅に向上します。常に戦火と隣り合わせで保たれてきた平和が、大人たちの政治・利権を巡る争いで崩れ、子どもたちの命が脅かされる。そんな中、勇敢にも戦争を止めるために独り奮闘するオードリーと、己の血筋に隠された秘密に戸惑いつつも、ユニコーンに乗ることを決めたバナージの覚悟に改めて目頭を熱くしました。

 勝手に抱いていたガンダムへの苦手意識を克服した今、鑑賞ペースを止めることなど不可能でした。続くepisode2では、あのシャアの再来と目される男、フル・フロンタルが登場。その名に恥じぬエースパイロットぶり&美声(もちろん池田秀一御大)を披露し、「シャアが来る!」と一人喜んでいたのも束の間、オードリーの正体があのザビ家の遺児、ミネバ・ザビであると発覚。その意識高い系の態度も頷けるほどの衝撃の事実に、画面のバナージくんも私も動揺を隠せません。

 その後も3、4、5と連続で鑑賞し、当時の最新話であるepisode6もネット配信で視聴。聴きなれた楽曲たちが、ストーリーの盛り上がりやキャラクターの感情に寄り添ったタイミングで流れ、こちらの涙腺はすでに崩壊寸前。その上、父を亡くしたバナージに対し、各episodeで異なる中年男性たちが父親役を果たすその後ろ姿と、それを受けて内面的に成長していくバナージに喜びを感じ、反対にどんどんやさぐれていくリディ・マーセナスには同情を寄せ、女性陣のたくましさにも惚れ惚れ。

 そしてついに、初ガンプラも済ませてしまいました。選んだのは、episode5で“再調整”されたマリーダが駆る、黒いユニコーンこと「バンシィ」。元々が仮面ライダーのファンなため、主人公ライダー(ガンダムの場合は“機”)のアナザーカラーなんて大好物。ダークな色合いと凶悪な武装を兼ね備えたバンシィに一目惚れし、HG(ハイグレード)を購入。図画工作は常に最低評価な少年時代を経て大人になったものの、丁寧な解説書と多彩なクリアパーツのおかげで、難なく完成。ランナーからパーツを取り外し、取り付けて、シールを貼る。たったそれだけでかなりのクオリティのものが出来上がり、しかも1,000円足らずで手に入ってしまう。恐るべしバンダイの技術力。

突入、劇場篇

 そして迎えた2014年5月17日。私は福岡の中洲大洋劇場の入り口前の、長蛇の列に立っていました。この日は、最終章であるepisode7の公開日。当時は学生だったこともあり、公開館までの移動費や高価なBDにも手が出なかったものの、最終章くらいは大スクリーン大音響で観たいと決意。ネットでのチケット販売はなく当日の窓口での販売でしたが、上映の一時間前の段階で折り返し地点が発生するほどの列が出来上がっており、改めてガンダムへの注目度の高さを目の当たりにしました。

 なんとか満席寸前で入り込んだ劇場は異様な熱気に包まれており、劇場限定販売のガンプラやBD、パンフレットを手にあれやこれやとトークを繰り広げる猛者たちで一杯。こちらも友人との2人参戦だったものの、なぜか私だけが緊張して会話も上手くまとまらない。ついにガンダムUCが完結すること、大音響で劇伴を浴びること。その2点だけで、なぜか合格発表に似た緊張感を抱いていたのです。

 そして、初めて劇場で観る『UC』に、ただただ圧倒されていました。ついに判明した“ラプラスの箱”の居場所。先に手に入れた方が、世界の命運を握る最終決戦。それぞれの想いを抱え宇宙を駆ける若者たちと、それを支え見守る大人たち。そして明かされる箱の正体。二体のユニコーンガンダムの闘いをよりエモーションに掻き立てる楽曲『UNICORN GUNDAM』。公開前にご逝去された、永井一郎氏の言葉が、染み渡るように耳に響いていく。

 終演後は澄み渡るような心地で、劇場を後にしたことを克明に覚えています。宇宙世紀という時代の区切りと、一つの超大作の、その完結に立ち会えたことが、大げさですがとても喜ばしかったのです。並々ならぬ期待を抱えていたものの、それを遥かに超える完成度、満足度を叩き付けられたこの日は、とても忘れられない映画体験になりました。

総括篇

 人類の革新を夢見た希望が、いつしか呪いへと移り変わり、結果としてたくさんの悲劇を産みだしてしまったラプラスの箱を巡る争い。その裏にあったのは「血筋」を巡る人間ドラマでした。

 両親の寵愛を受けていたことを知り、決して逃れられない血の運命を力に変えたバナージは、父亡き後も大人の価値観と衝突し、しかし同時に支えられたことで、箱の担い手としてユニコーンに認められました。また、血筋を“呪縛”と呪ったリディもそれを乗り越え、他者と生きる道を選びとります。凄惨な過去を持つマリーダとジンネマンは血筋こそ繋がってはいないものの、本物の親子としての絆を強固なものにしていきます。

 反対に、その呪縛にとりこまれたロニの悲劇は強く印象に残りますし、自らを“器”と規定し、プロパガンダの象徴たることも辞さない空虚な男フロンタルは、他者との繋がりを持たぬため敗北します。

 元来、ニュータイプとは“誤解なく他者とわかりあう能力”を指すものでした。そして、最後は他者との絆、繋がりを得た者が生き残りました。帰る場所があることを何よりも喜んだアムロのように、誰かが自分の帰りを待っていてくれたから、バナージは生還できたのでしょう。人と人が手を取り合い、理解し合う時代を夢見て始まった宇宙世紀は、しかし争いの絶えない暗黒の世紀と化したものの、ラプラスの箱の封印が解かれた今、人類は新たな変革を求められています。その行く末は不確定ですが、この宇宙世紀を生き延びた子どもたちの願いや希望が、少しでも未来をより良い形に変えていく。血生臭い戦記物ですが、少しの明るい期待を持たせた、そんな一作ではないでしょうか。

 きっかけは劇伴目当てで、一度は挫折しながらも、シリーズの長い歴史をかいつまんで学びながら、ようやく完結にこぎつけた『UC』。今でもお気に入りのアニメであり、その他のガンダム作品に触れるきっかけにもなった、かけがえのない一作になりました。まだまだガンダム初心者ですが、今でも一番はこの『UC』。ハードルが高いのは承知の上で、その気になれば初心者も歓迎、初ガンダムにうってつけのシリーズになっています。ぜひ、長期休暇のお供にユニコーン、いかがでしょうか。


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