見出し画像

過剰な親切はやる気を削ぐ。『超探偵事件簿 レインコード』

 2023年のnoteでの活動記録を振り返ると、最も読まれたのは『ニューダンガンロンパV3』の感想記事であった。

 2022年に書き上げたものが、こうして長く読まれ続けているのは、『ダンガンロンパ』のネームバリューによるものが大きいと思う。一作目の配信可能箇所がエンディングまで解放されたことをきっかけに今なお新規層を開拓し、その背徳的なコンセプトが触れる者を魅了して止まないダンガンロンパ。その最終章にして賛否両論を巻き起こした『V3』について思いの丈を綴った、自分にとっても思い出深いnoteが好評なのは、素直に嬉しい。

 その後、小高和剛氏を中核スタッフの一人に据え、デスゲームを否定することで『ダンガンロンパ』のその先の景色を見せてくれた『ワールズエンドクラブ』についても書いたことで、作品の供給は途絶えながらも常に頭の片隅にはダンガンロンパのことがある、という人生を過ごしていた。

 そのため、『ダンガンロンパ』の制作陣が再結集して世に送り出された『超探偵事件簿 レインコード』を手に取ることになったのも、必然だったと言えるのかもしれない。探偵と殺人鬼、つまりは「死」が避けられない題材に小高氏をはじめとするダンガンロンパチームが再び挑んだとなれば、下世話な好奇心が抑えられなくなる。非実在青少年のデスゲームに熱狂し、その姿をゲームから指さされてもなお、その鮮烈さを心が求めてしまっている。一体どこに連れて行かれるのだろう。今度はいったい自分の何を裁いてくれるのだろう。

 ……ところが、困ったことに、『超探偵事件簿 レインコード』は読み物としては興味を持続させるものでありながら、一方ゲームとしては遊びごたえに乏しい、心を無にしてボタンを押し続ける体験になってしまっていた。

 舞台は、数年前から雨が降り続ける鎖国都市カナイ区。カナイ区は巨大企業アマテラス社が実質的に支配しており、社にとって都合の悪い出来事はもみ消され、冤罪により市民が拘束されることも日常茶飯事となっている。そんな街に「超探偵」と呼ばれる、特殊能力を備えた探偵たちが複数人カナイ区に送られることとなり、主人公の見習い探偵ユーマ=ココヘッドもその一人であった。その道中、ユーマは記憶を失ってしまうのだが、傍らには「死に神ちゃん」と呼ばれる存在がおり、彼女?との契約によってユーマはある特殊な能力を授かっていた。ユーマは自身の失われた記憶を探り、一方で他の超探偵と共にカナイ区とアマテラス社の秘密に迫っていく。

 本作はユーマを操作して、現実世界で事件の証拠を集める捜査パートと、「謎迷宮」と呼ばれる異世界を攻略することで事件の真相に近づいていくパートの二つを交互に遊んでいくことになる。捜査パートは3Dマップの事件現場を歩き回り、死体や現場を調べることで「解鍵」と呼ばれる情報を収集していく。この調査パートは際立って斬新な点などはないが、他人の目には見えない「死に神ちゃん」が小ボケをかましたり、現実世界の様々なオブジェにリアクションをしたりと常に動き回ることで、単調なゲーム体験にユーモアを足してくれている。実際、死に神ちゃんはかなり魅力的なキャラクターで、本作を遊ぶモチベーションの大部分を彼女が支えてくれていたことは否定できない。

「ドローン傘」は雨が止まない世界観ならではの、クールなアイデアだ。

 問題は、他の探偵ゲームと一線を画す本作ならではの個性でありながら、多くの難点を抱えた謎迷宮パート。複数のミニゲームを解きながら物語を進行させるのは『ダンガンロンパ』同様なのだが、本作のそれは見た目をすり替えたQTEを連続しているかのような、虚しい体験となっている。

プレイ時間を間延びさせる迷宮

 「謎迷宮」とは、謎が具現化した世界、と作中にて説明されている。この迷宮では事件を隠蔽したいアマテラス社の人間と真犯人とが「謎怪人」として立ちはだかり、捜査パートで集めた解鍵を武器としてプレイヤーはそれを撃破、事件の真相を暴いていく。

 その実態は先述した通り複数のミニゲームを攻略することによって進行するのだが、ユーマを操作して複雑怪奇な迷宮から脱出する、といったニュアンスではない。迷宮とは名ばかりで、このパートは

  1. ミニゲームを解く

  2. 死に神ちゃんや仲間の超探偵の会話を聴きながら【一本道】の迷宮を真っ直ぐ進む

 の繰り返しであり、真実の究明と迷宮の攻略の順序が逆なのだ。

迷宮は親切にも基本一本道。

 これを親切とするか、やりごたえがないと取るかについて、個人的には後者である。迷宮を攻略することで謎が明かされるのではなく、与えられた質問に答えて開けた道をただただ歩くという体験は、『ダンガンロンパ」の学級裁判が会話劇を中心に構成していたことと比べると、移動という過程が必要になるため必然的に冗長になり、しかも会話の内容が先程解いたばかりの謎の解説であるため、余計に長く感じられる。

 加えて、マップの移動時やミニゲーム突入時には5~10秒程度のロードを挟むことも、進行のテンポ感を大いに削ぎ落としていた。この辺りは3Dにこだわる制作陣と、switchの性能とのギャップが生み出したものかもしれず、PS5といった次世代機であればこのストレスは緩和される可能性がある。

驚きのない謎解き

 謎迷宮はその性質上、ゴールまで進めばトリックの解法と真犯人の正体を突き止めることができるものとなっている。これは探偵としての能力に乏しいユーマ=プレイヤーを真実に導くための仕掛けであり、そういった意味では親切の極みなのだけれど、結果として迷宮攻略は捜査パートで集めた情報を元にガワだけすり替えた○×クイズを連続して解く、というものになっている。これは裏を返せば、迷宮突入時点で真相に至るまでの情報が全て揃っている、ということを意味している。

 それは謎解きゲームとしてフェアである一方で、例えば『ダンガンロンパ』の学級裁判において裁判中の証言や新たに開示された情報でこれまでの推理が覆る、というような展開を作ることができず、迷宮攻略が捜査パートで得た情報の確認作業に終始してしまう、という弱点を孕んでいる。

どんなに難解な謎も三択にしてくれる。優しいね。

 そうした前提の元で、例えばプレイヤーが謎迷宮突入時にはトリックの解明や真犯人に気づいたとする。そうなると、プレイヤーはすでにわかっている答えを導くために、ロード時間とセットで挟まれるミニゲームに付き合わされる羽目になり、迷宮そのものがゲームを進行させるための作業と化してしまう。反対に、謎迷宮突入時に謎が解けていない場合は推理をしながら迷宮を歩くことになるが、今度は謎迷宮が答えを二択から三択に絞ってくれたものを総当りで選ぶだけの時間になってしまう。

 誰でも真相にたどり着けるガイドがあるのは親切に変わりないのだが、プレイヤー自身が謎を推理して真相に辿り着くというよりは、ゲーム側が用意したアトラクションに連続して乗っていく受動的な体験になっており、全ての謎が解き明かされても爽快感が感じられず、章を終えるごとの疲労感は次のシナリオを読みたいというモチベーションに勝るものであった。

 また、一部ミニゲームではメニューを開くYボタンが塞がってしまい、捜査情報を読み返せないため結果として総当たりで挑むしかなくなる場面が何度かあったことも、プレイヤー自身が謎解きをしている実感を薄めていたことも記しておきたい。

謎の解明のために一肌脱ぐ死に神ちゃん。

『超探偵事件簿 レインコード』とボクたちは友達になれたか。

 遊びの面では大いに不満が残る本作、じゃあ遊ぶ価値がないかと問われると、そこまで貶すのも気が引けてしまう。

 物語の対立構造においては、都合の悪い事実を有耶無耶にしてでもとある秘密を隠し続けるアマテラス社と、探偵として真実を解き明かしたい「正義」のぶつかり合いが描かれており、双方が自分たちの正義を遵守するためには倫理を犯し続けている点でも、見ごたえのあるものであった。明かされる真実は突飛ながらも、雨が降り続ける異常の街という設定にも意味を持たせ、『ダンガンロンパ』シリーズから続くとある表現規制までをもトリックとした謎解きは、かなり意表を突く出来栄えになっている。

 密室や殺人の謎解きに驚きがない分、舞台設定や世界観にこちらの死角を突いた謎が用意されている本作は、『ダンガンロンパ』の後継を求める人にはやや食い足りないかもしれないが、騙され翻弄された瞬間があったこともまた事実。それをもってして評価するか、ゲームとして落第点を下すのかは実に悩ましいけれど、その両立を成し遂げていた『ダンガンロンパ』のことを懐かしむ気持ちに苛まれたのは、果たして健全と言えるのだろうか。これが一番の謎である。

いただいたサポートは全てエンタメ投資に使わせていただいております。