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ペットを飼ったことがない成人男性、『わんだふるぷりきゅあ!』の1話でワンワン泣く。

 小学生の頃、作文のお題が「ペット」という授業があった。

 先生はこのお題目を何とも思わなかったのだろうか。あるいは、自分が住んでいたのはペットを一匹二匹飼っているのが当たり前の富裕層が集まる地区だったのか。ペットを飼っていない自分は「何を書いたらいいですか」と聞きに行き、先生は「飼ってみたい動物の話をしてみようか」と言った。

 なので、当たり障りのない作文を書き、当たり障りのない花丸をもらい、当たり障りのない授業を終えた。いや、クラスのとある女の子がちょうど愛猫を亡くしたばかりだったらしく、その子が泣いて大騒ぎになったので、全然当たり障りのない授業などではなかった。

 それから数十年経ち、大人になったが、動物を飼ったことは一度も無かった。決してそんな経済的余裕がある家庭では無かったし、いずれ別れが来ると知って動物に情を感じるのが怖かったし、か弱い命に責任を持ちたくなかったから。

 そんな折(?)に、次のプリキュアの題材が「動物」だという初報がタイムラインを駆け巡った。シリーズ20作目を祝うものでありながら同時にチャレンジングな試みがいくつも含まれた『ひろがるスカイ!プリキュア』の余韻がまだ消えないところに「主人公は犬」と来たわけで、プリキュアって何?を問い続けたオールスター映画をやり遂げたシリーズの地盤の強さを伺わせるコンセプトである。犬が二足歩行の人間になるだけでも驚きなのに、その上プリキュアになるわけで、それを「わんだふる」の一言で収めようとする剛腕さに、観る前から期待十分だったのである。

 いざやってきた放送日……は所要があったので、翌日月曜日の夜、記念すべき『わんだふるぷりきゅあ!』の1話を再生する。X(Twitter)をやっていれば流石にミリしらと言うわけにはいかず。フォロワー各位の称賛の声がいくつか視界に入ってはいたが、百聞は一見にしかず。まずは自分で観てみようということで、軽率に再生をクリックする。

 鑑賞後、いや、鑑賞中、なぜだかずっと泣いていた。ホロリと一筋の涙が、とかではなく「こむぎそんな顔しないで😭😭😭😭😭」とわりと大きな声を上げて泣いていた。かれこれ動物とは縁のない人生を送ってきた◯◯歳成人男性、ちょっとどうかと思うくらい涙腺をボコボコに殴られて、布団から出られなくなってしまっていた。翌日の火曜日、朝起きたら、目が腫れてたくらいには。

 今回プリキュアに変身したのは、こむぎというわんちゃん。こむぎはご主人のいろはのことが大好きで、彼女を朝起こすのはこむぎの日課らしい。いろはと散歩して、いっぱい遊んで、こむぎはとっても幸せそう。

 でもいろはには人間としての生活があり、いつも一緒というわけにはいかない。そんなこむぎは「お留守」が大嫌いで、それを言われると泣きそうな顔をして、離れたくないといろはにしがみつき、それでも離れた後はいろはの部屋の窓からご主人が見えなくなるまで見送っているのである。

 その光景を観た瞬間、心臓の奥らへんが「ギュン!」となるのを感じた。こむぎが悲しそうな顔をするとこちらも悲しくて、いろはが帰ってくるといの一番に玄関まで駆け巡るこむぎを観ると心が躍る。ヤバい、アタシ、犬に感情移入しちゃってる―。

 犬という生き物は、みんなこうなのだろうか。ご主人といると溢れんばかりの笑顔を振りまき、幸せを全身全霊で表現して、そばに居られないとこの世の終わりのような顔をしてこちらの帰りを待っているのだろうか。そんな、そんなのって、切なすぎないか??なんでそんなに人間が好きなんだ犬という生き物は??

 こむぎ→いろはへの愛は留まるところを知らない。ガルガルなる巨大な動物が暴れまわる時、いろはは逃げ遅れた少年を助けるべく駆け出そうとするが、こむぎを巻き込まないよう「ここで待ってて」と投げかける。勇気を抱いて駆け出すいろはの背中をただただ見ているしかないこむぎには、それは永遠の別れのように見えていたのだろうか。震える身体を押さえつけて、こむぎはひたすらに走る。大好きないろはとお別れしたくないから、なけなしの勇気を振り絞って、ただただ走る。その勇気に応えるように、プリキュアの力がこむぎに宿る。

 キュアワンダフルとなったこむぎは、ガルガルを倒すのではなくその怯える心に寄り添うことで、いろはを助け出す。人間の身体を得たこむぎは、心なしかいろはと同じ目線で世界を見て、いろはに手で触れることが出来て、嬉しくてたまらないようだ。それを観ている俺は、もう、「よかったね」としか言えなくなっていた。こむぎの願いが叶うことが!こんなにも嬉しい!!

 かくして、『わんだふるぷりきゅあ!』の1話はヤバかったと言うしかなかった。二回目を観た時も泣けたし、「キュアワンダフルの衣装や色合いがいろはの友達のそれと似ている」というツイートを見かけた時はオ''ッ''😭😭となっていた。犬って、健気すぎないか?人間って、こんな無条件に愛されていいのか??

 この1話を観ていて、ぼんやりと思い出したことがある。動物を飼ったことがない身として、実はずっと子どもの頃から「動物に好かれてみたい」という欲求があったことを。犬でも猫でもハムスターでも何でもいいから、とにかく動物に懐かれたり、めちゃくちゃくっつかれたりしたいという、仄かな願いがあった。

 それを思えば、今年のプリキュアは24分間、全身全霊でこの欲求に応えてくれるものであり、涙の理由にようやく辿り着くことができた。こむぎがいろはに注ぐ全身全霊の愛にも感情移入しつつ、その愛を一身にうけるいろはにも自分を投影していて、命の温もりをこのアニメから受け取っていたらしい。こむぎといろは、犬と人間の暖かくて愛らしい関係性に、憧れと喜びを感じていたのである。

 もう、これは追い続けるしかない。続く2話ではいろはちゃんもプリキュアデビューするらしいが、こむぎはそれをどう受け止めるのだろうかと、もう日曜日が待ちきれない。と同時に、「ウチにもこむぎがいてほしい」という欲求にも逆らえなくなってきたので、まずはクレーンゲームが巧い友人をゲームセンターまで連れていき、お金を握らせたいと思う。

 待っててね、こむぎ。

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