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最近の人形劇がスゴイことになっている件『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』

 母親に聞くところによると、私は『きかんしゃトーマス』が大好きな子どもだったらしい。たくさんのおもちゃや図鑑を買ってもらったり、レンタルビデオ店でお気に入りのビデオを借りては繰り返し観るような、そんな男の子だったとか。おそらくそれは機関車や列車への憧れからくるものだったようだが、知らずの内に「人形劇」という文化に触れていたことになる。

 その男の子も今や社会人になった。その20年あまりの間に、「人形劇」も進化していて、その最新系が日本に上陸した。日本アニメの表現法を取り入れたそれは、伝統と斬新さのコラボレーション。人形劇と侮ることなかれ、命を与えられたキャラクターの躍動に、必ずや驚かされるはずだ。

かつて魔界の軍勢と人間界が争った戦において、人間たちによって鍛造され、無双の力を発揮した数々の武器である「神誨魔械(しんかいまかい)」。
戦の後、数多の神誨魔械は護印師(ごいんし)らによって長く守られてきたが、その中でも護印師の「丹衡(たんこう)」「丹翡(たんひ)」兄妹によって守られてきた最強の武器「天刑劍(てんぎょうけん)」が、今まさに「蔑天骸(べってんがい)」率いる悪の手に落ちようとしていた。
蔑天骸の追求から逃れる途中、丹翡は偶然にも「鬼鳥(きちょう)」「殤不患(しょうふかん」の両名と出会い、その助力を得ることに。
奇縁により導かれた3人は、新たに加わる個性豊かな仲間たちと共に各々の思いを抱き、蔑天骸の居る七罪塔(しちざいとう)を目指すこととなるのであった。
公式サイトより引用し、ふりがな追記、一部改編)

 本作は、台湾の伝統芸能である『布袋劇(ほていげき)』に惚れ込んだ脚本家の虚淵玄が原案・脚本・総監修を担当し、台湾の制作会社「霹靂社」とがコラボレーションして誕生した、日台合同による完全新作。

 90cmの木製の人形に布製の衣服を着せ、人が手を入れたり、ワイヤーを用いて動かすことでキャラクターに命を吹き込む人形劇。特撮映画を思わせる大型のセットで展開されるそれは、確かな技術と想像できないほどの手間によって支えられている。

 何より驚嘆なのは、人形であることを忘れさせるほどの演技そのもの。まぶたや唇の艶めかしい動き、稼動域の限界を感じさせない手足の挙動は、(人形の形が異なるとはいえ)表現の豊かさの面で前述のトーマスとは明らかに次元が違う。その上、剣を素早く振るう殺陣や呪文を使う際の複雑な手の動きはとても滑らかで違和感なく、ハイスピードなアクションシーンは間違いなく本作の白眉である。

 ドラマやアクションにおいて、「人形だから」とこちらの没入を妨げられることは一瞬たりとも無い、とさえ言い切れる驚異の完成度。映像に宿るキャラクターたちの魂に、心揺さぶられる。昨年公開された映画『KUBO』同様、命なきものが生きていると錯覚させられてしまう感覚は、それ自体が大きな感動をもたらしてくれる。2、3話と視聴していけば、人形劇への苦手意識や違和感はいつの間にか消え失せるだろう。

 そんな未知の映像体験を披露する人形演舞だが、ストーリーはいたって王道。前述のあらすじは難しい固有名詞のせいで一見とっつきにくく感じられるものの、要は旅の仲間を揃えて敵の本丸に攻め込む、というシンプルなもの。宿敵・蔑天骸が待つ七罪塔に行くためには様々な困難が待ち構えているが、その攻略のために様々な能力や道具を持つ人物を仲間に引き入れ、旅を進めて行く。用心棒的な魅力の殤不患と眉目秀麗でミステリアスな鬼鳥、箱入り娘で強がりなところが可憐な丹翡。その3人の元に集う、一癖も二癖もある仲間たち。どこか危うさを抱えたパーティが、天骸率いる「玄鬼宗」に立ち向かっていく。誰もが慣れ親しんだ英雄譚が、本作の物語の主軸なのだ。

 そうしたキャラクターたちは全て、日本アニメ界ではおなじみの豪華声優陣が声を当てている。キャラクターの名前が難しいため、声優の声質で覚えてしまうのがオススメだ。また、劇伴を担当するのは『進撃の巨人』『ギルティクラウン』の澤野弘之氏が、主題歌をT.M.Revolutionが担当しており、深夜アニメを観るような感覚で楽しめる。日本の視聴者にとって親しみやすい構成が嬉しい。

 台湾の伝統芸能と日本アニメ文化のベストマッチによって生まれた、驚天動地の一大演劇。見慣れぬ技法ゆえに手を付けなかったアニメファンもいるかもしれないが、それは勿体ない。日本向けにローカライズされたものと言うよりは、最初から日本人が好むように設計された座組みなのだ。なにせみんな大好き、安心と信頼の虚淵印。深夜アニメファンが観ないでどうする、な一作なのだから。

 と、ここまで書いて情けない話だが、こればっかりはどれだけ言葉を尽くしても伝わらない感動があるため、まずは無料で誰でも視聴できる第1話を観て、その目で確かめて欲しい。上述した筆者の驚きに、共感していただけると思う。

 10月より第2期の放送が予定されている今、Amazonプライム・ビデオでのイッキ観視聴がオススメだ。


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