第249回 もう実物を復元するなんて時代遅れ

1、安土城再建論争

1月1日付け京都新聞の報道によると

安土城の復元に向け、滋賀県が本格的な検討に乗り出すそうです。

2020年の明智光秀が主人公の大河ドラマ『麒麟がくる』にも登場するでしょうし、

お城ブームで観光資源として活用できるのではないか、との思惑があるようです。

ただ、現在では往時の姿を正確に伝える絵図は見つかっておらず、文化庁が認める“復元”とするにはハードルが高い状況です。

さらに問題は再建費用。

300億円規模との試算もあるようですが、これはコンクリート造りの場合で、本格的な木造にした場合は桁が一つ増えるかも知れません。

地元自治体は本当にこの負担に耐えられるのでしょうか。

2、天下人の幻の城

安土城は現在の滋賀県近江八幡市に織田信長が築いた城で、本能寺の変の後に焼失したため、10年も現存していなかった幻の城と言えます。

1989年から20年に渡って史跡全体の20%が発掘調査され、清涼殿を模したとされる本丸御殿など複数の屋敷跡の様子が明らかにされています。

復元する、という時にイメージされるのは天守閣という部分ですが、こちらも礎石などが確認され、後世の城に大きな影響を与えたとされる建物の基礎がどのようなものだったのかがわかってきました。

ただ基礎がわかってもウワモノを想定することは非常に難しく、どこの史跡でも非常に苦労します。寺院や官衙遺跡などはある程度企画化されているでしょうから推定も可能ですが、安土城の天守閣は空前絶後といってもいい一点もの。

安土城郭資料館の模型や、伊勢安土桃山城下町の城郭風の建物でご覧いただければわかりますが、

最上階は和風の金閣みたいな建物で、その下が中華風の八角堂、その下が後に天守閣と呼ばれるような建築と異様な組み合わせとなりつつも、絶妙な一体感を保っているような感じです。

内部は狩野永徳の障壁画で飾られ、

一重目には三皇五帝や孔門十哲や竹林の七賢など中華の思想に彩られ、

二重目には仏教説話

四重目から六重目は部屋が多く、鷹の間、岩の間など障壁画で名付けられていたようです。龍虎や鳳凰など、安土桃山時代の城郭や寺院などに受け継がれた絢爛豪華な題材が見られるようです。

これを本当に復元できるのでしょうか。

3、現代人の良識を信じる

整理すると、安土城は当時の文化の粋を集めた最高傑作であり、のちの城郭建築の基準となった記念碑的存在でもあります。

現在でも残る石垣や発掘調査で明らかになった建物の遺構配置などから平面形はほぼ明らかになっています。

その貴重性から、地下に残る本物の遺構を壊して同じ位置に新たな天守閣を再建することは、どう頑張っても認められないでしょうし、

遺構を保護するために場所をずらしたりすれば、それはもうニセモノになってしまいます。

出来上がったそれは、学術的に価値がないだけではなく、美術的にも到底本物を超えることはできないので、

昭和の遺産である各地の

“城郭風”建築の一つに伍すだけになってしまうでしょう。

それでも莫大な税金を投入する価値があるのでしょうか。

Twitterのタイムラインを眺めていると、反対の意見が多く見られましたので、

歴史好きの方の良識に安堵しました。

私の住むミヤギでも仙台城の建物を復元しようという機運が何年かおきで起こるのが常ですが、安土城と同じ理由で復元されることはないでしょう。

天守閣はもともとありませんでしたが、大手門や櫓や本丸御殿など、建物があった方がわかりやすいということなのでしょう。

伝える側も発掘調査の成果などで情報が増えていますし、

見にくる方も目が肥えていますので、本物を前に、魅力的なストーリーを語られる方が満足されるのではないでしょうか。

最後に、仙台城が正式名称で、青葉城は俗称ですから、そこは是非覚えて帰ってください!

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