第165回 死を避けられないからこそ悔いのない選択をしたい

1、読書記録 9

墓と葬送の社会史 (読みなおす日本史) / 森 謙二 #読書メーター https://bookmeter.com/books/7996560

著者はドイツやオーストリアなど欧州の墓制と日本の墓制について比較文化的な研究をされています。

読み直す日本史シリーズ、ということで原著は1993年に刊行されています。しかし、内容は古くなるどころか、墓を取り巻く状況は一向に改善されていないので、より社会に求められていると言えるでしょう。

墓地は社会を映し出す鏡である

とはドイツの墓地研究者ハンス・クルト・ベールケの言葉だそう。

考古学の世界でも墓制は変化しづらく、古代の移民集落では郷里と同じお墓を作る例がいくつも確認されています。

2、お墓の歴史

この本では墓地の転換点が四つ見出されています。

①古墳時代から律令国家へ
死がケガレとして忌避され、都市空間から排除されていいきます。

②平安末期から鎌倉時代
末法思想が流行し、死後浄土へと導いてくれる寺院や経典への帰依が上流階級へと広がります。やがて庶民の間にも霊場へ遺骨の一部を納めることで、救われるという納骨習俗が発生します。

③明治維新
国家神道と祖先祭祀が結びつけられるとともに、家としての墓が一般的に。

④現代
墓そのものが忌避され、少子高齢化とあいまって、墓を維持するのが困難になってきます。

かなり大胆にまとめられたので、細かいところはツッコミたくなりますが、大筋としてはその通りだと感じます。

こうして考えてみると古代には死が忌避され、中世から近代は割と近くに死を感じていたのに、現代ではまた死が忌避される傾向にある、というのも興味深いですね。

3、これからのお墓のあり方

現代の墓を考える資料として本書で提示されているのは1987年に実施された「都民の霊園に関する意識調査」

そこから著者は理想の墓像として

明るい公園であり、厳かな空間であり、社会から隔離もされない場所。親しい死者を偲ぶだけでなく、将来自分が死者として迎えられる場所

を導いていますが、これが崩れていくのが現代の墓に対する意識ということなのでしょうか。

もう一つ紹介されているのが1984年における都営霊園の未納率。

この時点で未納墳墓は3%。10年で1割、100経てば3分の2が無縁化すると予測されます。

ここから35年が経過していますが、状況は改善されていないでしょう。墓を管理するのはそれほど困難ということでしょうか。

そこで新たに注目を集めるのが、散骨として海や山に火葬骨を撒いてしまう方法。

「自然に帰る」というと聞こえはいいですが

高温で焼かれた骨は分解されづらいので、そう簡単なことではないのです。

また、宗教法人その他が管理する納骨堂に納めたり、村で管理する総墓へ埋葬するなど、「個」を捨て去る形の葬送も増えてきているようです。

実は墓地以外に埋葬してはいけないという法律(墓地埋葬法)はあれど散骨や一括納骨を規制する法律は現状ではありません。

最初に立ち返ると

墓は社会を映し出す鏡でありますので、議論されることなく、規制されていないからといって皆が好き勝手に葬送を行うようではいけないような気がします。

個人の思想信条に関わる問題ですので、慎重な取り扱いが必要とされますが、避けては通れない道だと思います。

ここまで理屈を説いていながら恐縮ですが

私個人はは松島の海に散骨してほしいと思っています。

だからこそ法整備という形で、自らの選択が堂々とできるような形にしなくてはならないと思うのです。

#墓制 #火葬 #葬送 #墓地 #比較文化史 #読書記録 #散骨




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