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一気 歌手・とんねるず伝説が始まる(後編)

前編を読む
とんねるず以前にも、お笑いタレントが曲をリリースしてヒットした例はいくつもある。
とんねるず以前で一番近いヒットは、漫才ブーム時代のザ・ぼんち。
1981年1月にリリースされた「恋のぼんちシート」は、
オリコン最高2位、ザ・ベストテンでも4位にランクイン。
80万枚を売り上げる大ヒットシングルとなりました。
この曲は、ザ・ぼんちの漫才の持ちネタである「ザ・アフタヌーンショー」
のパロディを曲の中に入れるネタの延長のような曲。
この曲に限らず、
ひょうきん族でビートたけしと明石家さんまが演じた
タケちゃんマンとアミダばばあが歌う「アミダばばあの唄」。
もっと一昔前でも
ドリフターズやクレイジーキャッツなどがヒット曲を飛ばし、音楽番組にも出演していたが、あくまでもネタの延長、テレビ番組の延長といった曲ばかりであった。

そこで一気である。
一気だって深夜テレビのノリから始まった曲じゃないか!
とツッコミが出そうだが、前出した曲との大きな違いは、
ワンフレーズソングを飛び超えた歌になっていることだ。

「恋のぼんちシート」は、A地点からB地点までにこんなことがありました
「アミダばばあの唄」は、アミダばばあの人生について
ドリフの「みよちゃん」も植木等の「スーダラ節」も
ワンテーマで曲が終わる。
バラエティから飛び出した曲だから、
人気タレントの曲だから、
このフレーズが聞きたい!
このギャグが聞きたい!
優先で作られ、歌われた曲。

ところがとんねるずの「一気」。
そもそも「一気」はとんねるずの持ちネタでもギャグでもない。
今、若者の間で一気が流行ってるからこれを曲にしよう。
日本中の飲み屋で「イッキイッキ」と盛り上がるよ。

おそらく作詞家の秋元康あたりがそんなことを言って
じゃあ作ろうか!!!と作られた曲だと思う。

そして、これは推測なのだが、イッキブームがどのようなものだったか。
イッキという社会現象について、そこまでリサーチしないまま曲が作られた。
酒さえ入ればイッキ・イッキ・・・
このフレーズをとんねるずに歌わせたい。

それだけで作られた歌だと推測する。

だとしてももし1番2番3番・・・と
ただ酒を飲ませるだけの歌。
たとえば1番では先輩が後輩に飲ませて
2番では上司が部下に飲ませて
3番では相手に飲ませて
そんな一気ソングなら
サビの部分
「酒さえ入ればイッキイッキ・・・」
は盛り上がるだろうが、そこまで行く過程がワンパターン。
これ、それまでのバラエティソングによくあるパターン。
一つのブームに関する曲を作ろう。
サビなり、良いフレーズはできた。
あとは・・・で、曲の体裁を考え肉付けする。
だけどもともとがブームに乗った陳腐なフレーズだから
サビ以外の作られた詩や曲はほとんどこころに残らない。
過去に流行った言葉やおもちゃ、現象の多くが曲になっている。
○○音頭
ロック○○
これらは発表された瞬間だけちやほやされ、すぐ飽きられたのがほとんど。
そしてその歌い手の黒歴史になったりもしている。
とんねるずが「一気」をリリースしたほぼ同時期、
同じ深夜テレビ「オールナイトフジ」から発表された
片岡鶴太郎の「ゴーストブスターズ」などまさしくそれ。
映画・ゴーストバスターズの流行に絡めた曲・
「ゴーストブスターズ!!!」
このフレーズしか覚えていないw
まぁ、企画物のお笑いソングなんてそんなもの。

ところはとんねるずの「一気」は、そうならなかった。
一過性のブームにすぎない「一気」のフレーズを自分たちの世界に変えたのだ。


「一気」は四番までで構成されている。
一番は、これまでの企画物ソング同様「一気」という現象を歌う曲。
ビール、焼酎、ウイスキー
お猪口、コップに鍋の蓋、やかん、灰皿、学生帽
酒さえ入ればイッキ・イッキ・・・
一番でフレーズを全て使い切ってしまう。
まぁ一気飲みをするだけの曲だから当たり前。
そして普通の企画物だと、一番のフレーズをちょっとだけ変えて
二番三番と歌われるものだが、ここからがとんねるず。

二番は木梨憲武演じる新宿二丁目おかまバーのママ・チャッピーノリリンによる
厚揚げの一気
三番は石橋貴明のものまね・矢沢永吉による
お勘定の一気
である。
もうそもそも一気は関係ない。
おかまキャラのノリちゃんと永ちゃんキャラのタカさんが歌うだけ。
そして四番もとんねるずがネタでよく話す学校あるあるのひとつ
貧血の一気

まぁ、百歩譲ってお勘定を一気に払うは、一気っぽいが、
厚揚げを一気に食べるや
貧血で一気に倒れるは
もう一気じゃない。
「一気」という社会現象を歌っているように見せかけて
とんねるずの世界が歌われた約4分の作品。

これが当たった。

毎週オールナイトフジの中で歌い、

ザ・ベストテンのスポットライト
テレビジョッキーのゲストコーナー
と音楽番組にも出演。

お笑い芸人が毎度3分間の漫才やコントをする場合、
同じネタなら飽きられるし、新ネタを作り続けるのはなかなか大変。

その中で「一気」という3-4分のネタができたのだ。
曲はあるが、アドリブも入れ放題。
カメラから見切れても歌詞を忘れても
暴言吐いてもそれも含めて一気。
伝説となったオールナイトフジのカメラ壊し事件で
一気はホンモノになった。

そしてとんねるずはそれ以降
テレビでネタを披露する必要がなくなった。
ネタが歌。
とんねるずが歌うことがネタになる。
今までに存在しなかった芸人、そして歌手が誕生することになる。

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