<第43回>「キャリア教育」の時代<その3・・・小中学生篇>  ~ 学校教育の「救世主」であるキャリア教育を小中学校にどう採り入れていくか?


小学生

  キャリア教育というタイトル3回で、人生100年時代、つまり一生涯学んでいかなければならない今の時代の各段階における現状と打開策に関して述べるシリーズは、前々回が社会人篇、前回が大学生篇、そして最終回の今回は小中学校篇ということになります。

 小中学校で行われている教育の実態に通じているわけでもない私が、こうして小中学校の教育に関して論じて良いのか?という疑問が湧いてきます。

 小中学校の教育を実際にこの眼で見たというのは、一人娘の授業参観(ちょっとした理由があり、家内ではなく、私が全回参観しました)そして、大学のゼミで指導している学生の内、教職資格を取得したい学生の指導見学程度でしかありません。

 しかし、自分としては、小中学校での教育について語る資格は十分あると考えています。

 ところで、皆さんは、学校の授業内容の基準を定めた「学習指導要領」について、現在のものをお読みになったことがありますか?そのメインコンセプト、つまり現在の学校教育で求められているものは何なんでしょうか?

 一言で言えば、それは「生きる力」、英語を交えて言えば、「社会でサバイブしていく力」を学校時代に育んでいくことです。

地球


 要するに、グローバルな競争社会の下、少子化で少ない子供たち一人ひとりが社会でしっかり仕事をし、社会生活を営んでいく、それが教育の目的なのだということが現在の指導要領では明確になっているのです。
 従来であれば、「学校の教育は社会では役に立たないんだから、教育は会社に入ってから・・・」と高を括ってきた産業界から、わかりやすく言えば、「今の若者、使えねぇ。終身雇用も崩れていて、時間をかけて企業内で教育していく余裕はない」ということで、上記のようなことになったということなんだと思います。

 ところが、「社会でサバイブしていく」って言ったって、学校の先生たちは、学校以外で働いた経験は乏しく、日々のとてつもない業務量に押しつぶされているのが実態であり、「社会で今何が起こっていて、教えている生徒たちが社会に出て行ったときに、本当に役に立つことは何なのか?」を勉強するヒマありません。

 そこで出てきたことが、大学であれば(私のような)実務家教員の採用、そして小中高であれば、「キャリア教育」ということになるのです。
 すなわち、学校教育において、「キャリア教育」というものは、「サバイブしていく力」を育む上での、「起死回生の救済策」、新しい世の中の状況に学校教育がキャッチアップしていくための「切り札」として期待されているわけです(下記の文科省HPの資料参照)。

プレゼンテーション1

 では、サバイブしていく力の涵養の切り札たる「キャリア教育」に文科省は、具体的には何を望んでいるのでしょうか?

 上記の表にある6つのポイントの1番目の「学校の学習と社会とを関連付けた教育」、2番目の「生涯にわたって学び続ける意欲の向上」、そして3番目の「社会人とししての基礎的資質、能力の育成」あたりが該当するでしょう。

 確かに、例えば、1番目について、国数英といった基礎学力が、そのまま社会人としてサバイブしていく能力に地続きであるという「実感」を少しでも感じ取れれば、学習意欲は格段に増加するものと思われます。

 しかしながら、1,2番目は言うに及ばす、3番目の一つの例であろうと思われる「論理的思考」一つを取っても、今の学校教員になかなり荷が重いと言わざるを得ません。

 毎年、夏休みに、大学のある深谷市近郊の(大学以外の)公立学校の先生方の教育免許更新試験で「経済動向」「産業動向」などについて授業をさせてもらっているのですが、そこでのテストの解答用紙を採点していて、(学校以外の)社会についてのこと、そこで通用する(これまで学校教育で育んできた資質や能力以外の)社会のことを教えて欲しいと希望するのはあまりに酷ではないかと思うのです。
 アンケートで、「経済動向、産業動向など、ふだん意識しない内容を教えてもらって、視点を一つ高く持つことができました」と褒めてもらえるのは気持ちがいいものですが、裏を返せば、そうしたことを追いかける、意識することもなく、ふだんの教育に埋没しているということです(もちろん、それをわかっているからこそ、そういう授業をやって、日常多忙で消耗している先生たちの頑張りに報いようともかんがえているわけです)。

学校

 
 その点、学校外部から社会人や私のような実務家大学教員を招聘して講演してもらうということをやっている学校もあり(稀です。私自身、結構やってきましたが・・・・)、こうしたことの頻度を上げることが、特に、生徒たちの「学習に向合う姿勢」に効果を挙げることは、想像に難くありません。

 実務家教員やビジネスパーソンなどを招くような授業の頻度を上げることは有効だとは思いますが、それだけでは十分ではないと思います。

 「ワークショップ」とか「研修」といった、企業社会で行われている体験的な学びのプログラムを、小中学校でも積極的に導入することも考慮に値すると思います。

 こうした問題意識に立って、当「ターンアラウンド研究所」では、小中学校を対象として、グループ対抗のゲーム形式で、メンバーが力を合わせて模擬的な仕事をやっていく」研修を開発しました。
 仕事を遂行していくには、国数英といった基礎的な学力をふんだんに使うことを意識させるような仕立てになっていて、実施後の振返りによって、学校で学ぶ教科の重要性の確認、社会では学び続けることが力になるといった気づきが得られるようになっています。

 このワークショップ授業とパッケージで、地元のスポーツクラブ(サッカー、バスケ、ラグビーなど)の選手に授業をやってもらうこともメニューに入れています。

サッカー

 私自身、スポーツクラブの役員をやっていますし、専門の一つですから、比較的容易にそうした授業を企画することが出来ます。
 スポーツクラブの側でも、単なる選手の課外授業講師の派遣であれば、なかなか報酬をいただくということを言い出せないものですが、ワークショップ授業とのパッケージ商品であれば、ただでさえコロナ禍で資金不足に陥っているクラブ財政の支援金を得ることも可能になってきます。

 現在、複数の自治体と実行に向けて相談中ですが、こうした動きが日本全国、拡がっていけば、文科省が構想する「キャリア教育」そして、その成果としての「サバイバル人材の育成」にも実効性が出来てくるのではないでしょうか。

<ターンアラウンド研究所 https://www.turnaround.tokyo/  小寺昇二>


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