<第38回>ウイズコロナの今、会社を使い倒してキャリア形成を図ろう  ~ リモートワークで炙り出されたキャリア形成の必要性

大前研一

 このコラムについては、1年弱の間、毎週または隔週で投稿してきたのですが、今回は少し間隔が空き、1か月振りの投稿となりました。


 間隔が空いたことの弁解としては、
 ①これまで37回書いてきて、「人財育成」と、それに関連した「経営改革」については、自分の考えを書き連ねることに一定の達成感があった、
②最近はコロナネタで引っ張ってきたものの、個人的にコロナ禍についてはもうとっくに、その今後の感染拡大、社会への影響については「見切って」しまった、ということで、これ以上あまりこのことについて考える気がしなかった、
 といった事情がありました(弁解です)。

 そうこうしている中、大前研一さんのプレジデントでの記事(8/14) https://president.jp/articles/-/37305 を読み、「そうなんだよ、大前先生!」と膝をたたき、氏の投稿にかぶせる意味で今回投稿することにしたのです。

 氏の記事の内容を、私流に解釈し要約すると、
 
 ・昭和から年号が2回変わっても、日本のサラリーマンの会社という共同体への帰属意識はそれほどは変わらなかったが、今回パンデミックによって働き方改革は一挙に進んだ。

サラリーマン


 ・テレワークをやってみて、業務のムダや人材のムダがあぶり出され、会社に行って仕事をすることの意味や価値を見つめ直した人が増え、「会社に依存しないキャリア形成が必要」と感じる人が増えたが、そう考える人の中で成功者が増えれば、日本の企業社会は変わる。
 ・会社に依存しないキャリア形成とは、実は欧米型の「ジョブ型雇用」のことであるが、現状ではジョブ型雇用が日本の企業社会の主流になるかは疑問。むしろ、転職によってジョブ型人材を目指すよりも、まずは従来の枠組みで経営されている今の会社の枠の中で、実践を積みスキルを身につけることを推奨したい。
ということです。

 欧米流のマネジメントを常日頃から推奨しているイメージのある氏、ヘッドハンティングでキャリアを築いた氏にしては、何だか日本の社会の現状に迎合しているようなきもして、目を引いた記事だったのですが、私が「膝をたたいた」気になったのは、私自身の2回の個人的経験に拠っています。

 ・1回目・・・これまでこのコラムで何回か書いてきましたが、バブルの崩壊で大きく痛手を負い、1990年代は自分に責任の一端がある会社の損失を取り返そうという贖罪意識で働き、その成果に自分なりには納得した後、初めての転職を明確に意識して、「転職出来る部署」への異動を願い出ました。その結果実際に初めての転職を2000年に実行(当時45歳)したのですが、転職前の3年間で着々とスキルを鍛えたという経験(正確には、過去に既に鍛えてあって、時間が開いたのでアップデートできていなかったスキルを元の部門に返してもらって鍛え直した)は、正に大前氏の指摘に通じるものがあります。
 ・2回目・・・2000年代の終わり頃、縁あって勤めていた大企業では、ライン的な仕事ではなくスタッフ的、遊軍的なポジションであったことを利用し、皆が手を付けない課題を一つひとつ解決し、それなりの達成感を感じつつも、「教育」、具体的には大学の実務を教える専任教員になりたい(非常勤教員は経験済み)という思いから、社内で(大学教員になったときを想定して)勉強会を何度も主催し「教えるスキル」を磨きました。またグループ内研修生の面倒を見て、社内業務に関するレポート作成をサポートし、その内容を経営トップにも提言できるレベルまでに仕上げて、実際に2人については経営トップに提言を実行し、会社の経営戦略に反映させました。実際に若手を指導し、実務的な研究成果を作成させるための哲学・スキル」を意識的に磨いていきました。結果として、現在勤務する大学の「公募求人」に際し、「模擬授業」「大学教育についての考え方・・・レポート」で59歳という年齢的な大きなハンディを蹴散らして最高ランクの評価を受け、何十倍もの難関を突破して採用されました。

教える

 
 はっきり言って、ビジネスパーソンとしての価値、とりわけ転職などでの採用面接で説得力を持つのは、過去の業務実績、それもストーリーを伴った分かりやすい実績です。

 今会社で働いていて身につくスキルについて、社外に出ても通用するだけの「深さ」を持たせるには、そうした強い意思をまず持つこと、そして必死に究めようと向き合い、業務において努力することが重要であり、また、変化の時代に求められる多様なスキルの「幅」については、まずは、今いる会社での社内異動やプロジェクト参加などによって身につけることが重要です。

 コロナ禍で炙り出された「キャリア形成の必要性」に対して、今皆さんが持っているアセット・・・今勤めている会社というもの、を最大限活用することが、リスク・リターン、コスト・パフォーマンスなどあらゆる観点で得策だと思うのです。


 企業側からの観点では、かつては社員のキャリア形成に関しては、終身雇用慣行に背反するものとして積極的にサポートしてこなかった面がありますが、社員を定年まで抱え続けていくのが重荷になってくるこれからの時代では、サポートしていくことが合理的になってきます。
 キャリア形成についての意識が高まれば、いた現在担当している業務への真剣度も違ってくるでしょうし、会社にぶら下がっていた無気力社員が自分の意思によってスキルを磨ける社内での活躍場所を模索することになります。

変化

 企業としても、社員のキャリア形成をサポートすることが企業のパフォーマンスを高めることになる上に、それが人生100年時代における「最高の社員福利厚生サービス」ということになるのではないでしょうか。

旅館

<ターンアラウンド研究所https://www.turnaround.tokyo/   小寺昇二>

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