<第36回>「働き方改革」+「ウイズコロナ」の下で社員間の「交流」はどうやったら良いのか?  ~ フィンランドの「リトリート」に学ぶ


画像1

 前回は趣味の必要性について書きました。「働き方改革」+「ウイズコロナ」下での、社員個人の新たな生き方構築に関しての問題意識からです。
 今回は、同じような問題意識ではありますが、社員個人の問題ではなく、社員間の「交流」の話です。

 従来は、社員間交流の典型的な方法として「飲み会」があり、また節目節目での「親睦会」や「新人歓迎会」、(退職や異動の社員のための)「お別れ会」などもありました。昭和の時代の日本株式会社であればもっと濃厚に「社員旅行」や「社内運動会」などもありましたし、ある時期(職場の問題解決のための)「オフサイトミーティング」といったものが流行った時期もありました。

飲み会

 しかし、サービス残業撲滅の動き、そして働き方改革で一刻も早く職場を離れるのがクール、という大きな流れが出来てきたところに、コロナ禍でのリモートワークの開始、飲み会的なものの禁止・・・・ということで、社員間の交流、コミュニケーションについては、風前の灯火となっています。


 コロナ禍でグチャグチャになった就業形態についても徐々に落ち着きを取り戻し、新たな仕組みを構築する必要が出てきているように思います。始まったリモートワークの中で、「リモート疲れ」を感じている方も多いのではないでしょうか。論理的にディスカッションし、意思決定していくようなことにはリモート会議は悪くない気がしますが、時刻になって、会議室のURLをクリックして会議を行い、終了したら即会議室はクローズ・・・というような極めてビジネスライクな時間の使い方が当初は「効率的」と思えたものの、何ヶ月かやっていると、「何だか違うな」「こういうことで意思疎通や意思決定って良いのか」とか、「社員同士の雑談、いつすれば良いんだろう」「会社で働くって、社員間の交流のないリモートの方が良いのだろうか」などと色々な疑問も出てきます。

 私の考えとしては、どんな時代になっても、社員間の交流というものは会社という一種の共同体において極めて重要なことと考えています。まずは、その理由について、下記箇条書きで書きたいと思います。

 ①どんな仕事でも、そこに何らかの喜びを見出してこその人生

 仕事というものは、人生の極めて重要な要素であって、「お金を稼ぐための手段」以上のものがある、というか、仕事の中に何でも良いから、楽しみや生きがいを見つけられないのでは人生の面白みが半減するわけで、その仕事の面白さのかなりの部分は、チームワークや職場における助け合い、連帯感といった「仕事そのもの」以外の、社員間での関係に基づく部分から得られるのではないでしょうか。
 先日参加したセミナーでも、「仕事に対するやりがいを感じる上での最も重要な要素と言われる職場における『心理的安全性』をもたらす項目として、「助け合い」や「話しやすさ」が挙げられていました。

オフィース

 ②仕事を一緒にやるための基盤となる互いの信頼感

 チームで、あるいはチームでなくても集団で業務を遂行する場合には、メンバー間の「信頼」とか「リスペクト」といったことがベースになくては良い仕事が出来ません。そうしたものは、仕事そのものだけの中、ビジネスパーソン相互間といったことだけではなく、人間としての「交流」の中で育まれるものではないでしょうか。
 因みに合理主義、新自由主義経済下で仕事をしてきた私ですが、個人的には、ビジネスライクとか、ギブ&テイクとか、性悪説とかいった言葉が好きではありません。
 今までの65年間の人生で一度も大きな裏切りに遭ったという記憶がないのは、オヒトヨシで裏切りに気づいていないのでも、用心深くて他人を信用しないというわけではありません。人を見る目が特段優れているというわけでもないんだと思います。
 多分、信頼できると思う人については、信頼するからこそ裏切られないのではないか・・・そんな風に思っています。互いの信頼感、といったものは、仕事の中だけではなく、何気ないふだんの会話や行動で醸成されていくものなのではないでしょうか。

③公私混同でも公私のケジメでもない、「公私融合」を

 本コラムの「第29回」にも書いたことですが、これからの時代の働き方は、公私のケジメをつけて公私混同を避ける、といった従来のあり方ではなく、(もちろん、自社の商品を友人に友人関係をタテに押売りするといったことは論外として)「公私融合」が必要なのではないかと考えています。
 すなわち、仕事とプライベートが繋がっていて、プライベートな世界でも互いの仕事にプラスになることについて助け合う、とか仕事時間中に思いついたプライベートの妙案を本業時間中に片付けたり、その逆にプライベートの時間でも仕事のことを考えていたり・・・仕事もプライベートも大事なわけで、無理やり分けようとしないで、自然な形で毎日を過ごせばよいのではないかと私は思っています。
 仕事においてもプライベートのように、人間的な交流が必要なのではないかと考えるのです。


 いつもはリベラルなことを言っているのに、「仕事にも人間的な社員間の交流が必要」なんて、実はアナクロな奴、働き方改革に逆行していると思われるかもしれません。
 でも、働き方改革では一歩も二歩も先を行っていて「仕事がなければいつでも帰って良い」というような北欧についても、実は社員間の交流を確保する工夫があるようなのです。


 先日、フィンランド大使館で広報を担当している堀内都喜子さんの「ここぞという大事な会議は会社外で~世界一幸福な国・フィンランドに学ぶ「飲み会ゼロ」でも社員が積極的に交流できる方法とは」という興味深い記事を見つけました(https://president.jp/articles/-/36498 )。

フィンランド


 職場からまっすぐ家に帰り、飲みにケーションの機会が少ないフィンランドでも、社員同士の交流を図る仕組みとして、「レクレーションデイト」や「リトリート」という仕組みがあるのだそうです。

 レクレーションデイトとは、「日帰り遠足のような形で、業務の一環として、例えば、郊外のリゾートホテルに同じチームの社員同士が行って、最初はオフィシャルに会社に関するプレゼンを聞き、午後は自然の中をガイドと共に散策。そしてサウナ、早めの夕食、解散する」といった形をとり、その結果「リラックスもでき、裸のつきあいもして同僚との距離がより近くなる気がする」のだそうです。

向日葵

 リトリートとは、大概ランチと数時間の話し合いがセットになったもので、例えば「気分が変わる社外の眺めの良い会議室を借り切って、長期的視野に立って職場改善や仕事の効率向上などを課題に話し合う」ものだそうです。

 何だか、前者は昭和の社員旅行の今日版といった風情ですし、後者は「オフサイトミーティング」の簡易版みたいな感じですね。

 働き方改革とか、合理的・効率的な業務遂行といった時代に置き去りにされた、旧き日本の懐かしい「日本株式会社=共同体幻想」の良いとこ取りをフィンランドが実践しているようにも思います。


 私自身、働き方改革の下での、新しい形での社員間の交流促進ということに大賛成なのですが、このコロナ禍の下のリモートワーク全盛の中では、上記のフィンランドの仕組みも実行が難しいようにも感じます。「ただでさえ忙しいのに、チーム全員で参加する時間なんて取れるのだろうか?」「それは業務命令に基づく業務なんだろうか?」などという、ビフォーコロナの時代にも、会社主導の社員教育を阻んできた疑問が頭をもたげてきます。

 しかし本当に、働き方改革+ウイズコロナの時代に社員間コミュニケーション構築は不可能なんでしょうか?

 リモートワークがウイズコロナの主役として一般的になっても、やはり生身の人間同士が一緒に仕事をして課題を解決していく際には、100%のリモートワークだけではなく、出社を伴うリアルな交流を上手に組み合わせていくことが重要なのではないでしょうか?

 上記、リクレーションデイトはちょっと難しいように思いますが、リトリート的なことなら、行うことによって、社員間の交流だけではなく、業務自体の効率化や、社員の会社や職場へのエンゲイジメントも高まり、効果が大きいように思います。
 敢えて我田引水をするなら、「人財育成研修」なんかも、社員の成長、エンゲイジメントを高める方策として、コロナ禍でも実践する、それも、出来ればオンラインではなくリアルで実践するのが望ましいのではないかと思います。

 極端に言えば、リアルな出社は業務や会議そのものではなく、社員間の交流や成長のための研修などをメインにしたものだけにして、そこで醸成した信頼感、エンゲイジメントなどをベースに、論理や実務が幅を利かすオンラインを円滑に行っていく・・・といった姿が、働き方改革+ウイズコロナ下での、オンオフの棲み分けになるのかもしれません。


 余談ですが、先日久しぶりに開催された60歳以上のサッカーの公式戦に出場しました。
 久しぶりにパスを交換し、守備の組織を皆で声をかけてコントロールし、ゴールを狙う・・・そうした試合時間の一瞬一瞬にこの上ない幸せを感じました。

 観客を久しぶりに入れて行ったプロ野球ゲーム、Jリーグ・・・テレビに映し出される選手も観客も、リアルの持つ力、ありがたさを口々に述べていました。

Jリーグ

       (出典:Jリーグ HP)

 コロナ禍を単に社会活動を制約する災禍と捉えるばかりではなく、変わっていく社会の仕組みの一つの変数として受け入れ、本当に幸せを体感できる新たな時代の構築の一要素として組み込んでいかなければならないのだと思います。


<ターンアラウンド研究所https://www.turnaround.tokyo/   小寺昇二>
※社内でリトリートを行う=「気分が変わる開かれた会議室」については、社長を良く知っている今話題のベンチャー「スペースマーケット」で非日常の場所も薦めてもらえます(https://www.spacemarket.com/features/instagenic/cities/tokyo ⇦ 東京都の場合)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?