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男ほど女々しい生き物はいない

今日は風邪で休んだ同僚の穴埋めとして十年以上前に担当した営業コースを回っているのだが、当時の俺は物凄く好きだった彼女にこっぴどい振られ方をして、生きた屍のように惰性で働いていたんだな。懐かしい道を走ることでその頃の鬱々とした思い出が嫌が応にも蘇る。

「もう会いたくありません。さようなら」

他人行儀な文面で彼女から送られてきたメールを開いた時も外回り中で、悲しいとか辛いとか容易には言い表しがたい重苦しい感情を抱えながら淡々と客先を訪問し、張り付いた愛想笑いで業務をこなしていくしかなかった。それなりに忙しい日であった。

処理しきれない悲しみがようやく身体の外に現れたのはその日の夕暮れ過ぎで、運転中に呼吸が浅くなってきたので社用車を路肩に停めて、夜の帳が降りつつある住宅街の片隅で絞り出すように嗚咽を漏らした事を覚えている。

それからしばらく木偶のように家と職場を往復するだけの乾き切った日々が続き、一か月ほど過ぎた頃、どうにも諦められきれない俺は彼女にこれまた他人行儀な文面でメールを送ってみる事にした。

「あれから元気にしていますか。身体の調子はどうですか」そんな短めの文章だったと思う。

すると望外にもすぐに返事が返ってきた。「最近はそれなりに調子がいいです。あなたも元気でやっていますか」そんな内容だった。

しばらく世間話が続いた後で「また付き合って欲しいなんて言えないけど、時々こうやって連絡してもいいですか」と尋ねてみた。

思っていたよりも和やかな雰囲気でやり取りが続いたため、これくらいは許してくれるんじゃないかと当時の俺は思ったんだな。

古い話なので所々うろ覚えだが、その後返ってきた返事だけはハッキリと覚えている。

「嫌です。あなたの事は大嫌いです」

その日以来、彼女とは連絡を取っていない。

今日は本当に寒い日だ。

(了)

お酒を飲みます