ムーミンパーク記事加工

ムーミンパークで楽しめる! ムーミン屋敷の秘密

翻訳書ときどき洋書「エージェントが語る!翻訳出版」第6回
小さなトロールと大きな洪水
著:トーベ・ヤンソン 訳:冨原眞弓
講談社 青い鳥文庫

もうそろそろムーミンたちが長い冬眠から目覚めるこの季節。
すでに春の訪れを感じているという方も、いらっしゃるのではないでしょうか?

そんな中、いよいよ明日(2019年3月16日)「ムーミンバレーパーク」がオープンします。この日本初のムーミンのテーマパークでは、子どもから大人までがムーミン物語の世界を体験し、物語の魅力や原作者トーベ・ヤンソンの想いに触れることができるとのこと。

以前、この連載でもお伝えした通り、タトル・モリエイジェンシーはムーミンシリーズのエージェントを当初より務めています。

そこで今回は、パークのシンボルでもある「ムーミン屋敷」を取り上げ、ムーミンパークで楽しむことのできる、ムーミン原作の世界をお伝えしたいと思います。

パパをたずねて三千里? ムーミンママとムーミンの不安な旅路

物語を通して、幸せなムーミン一家の象徴のような存在である「ムーミン屋敷」。
しかしいったいどのような経緯で、ムーミン一家がこの家に住むことになったのか、意外と知る人は少ないかもしれません。

それもそのはず、ムーミン屋敷の原点について描かれた『小さなトロールと大きな洪水』は、1945年に最初のムーミン物語として刊行された後、長い間、絶版となっていました。結果、世に知られるのは、一番最後となってしまったのです。

物語の始まり、ムーミンパパが行方知れずとなってしまい、暗い森の中を彷徨い歩くムーミンママとムーミントロール。しかし寒さに弱いムーミンたちは、なんとかして冬がやってくるその前に、温かい場所を見つけ、家を建てなくてはなりません。

「パパはいつでもどこかへいきたいと思っていたの。ストーブからストーブへと転々とね。 どうしても満足できなくて、ある日、いなくなってしまったの。(後略) 」

旅の途中、ムーミンパパ失踪の理由をそう明かすムーミンママ。もう一生会えないのではと、涙が止まらないムーミンたちでしたが、その後、パパに関する新たな手がかりを得ます。ようやく希望を取り戻したムーミン一行は、再び旅を続けていくことになるのです。

ムーミンパパが遭難! 洪水で流されてしまった家

そうこうしている内に、ムーミンたちは大雨による洪水に襲われます。ところが幸か不幸か、この洪水がきっかけで、ムーミンパパの消息を知ることとなるのでした。

「あなた、だいじょうぶ? 寒くないですか? いままでどこにいたの? あなたのたてたすばらしいおうちはどこにあるの? わたしたちのこと、思い出していてくれた?」
「ほんとうにすばらしい家だったんだ。」

なんとムーミンパパは、洪水により遭難していたのです。挙句の果てに、せっかく自分で建てたという家も、すっかり流されてしまったのでした。パパはどれほどその家が素晴らしかったかを、みんなに説いて聞かせます。

「空のような青い部屋、お日さまのような金色の部屋、それに水玉もようの部屋だ。屋根裏にはお客さん用の部屋もある。(後略) 」

まさにこの洪水で流されてしまった家というのが、後にムーミン一家の物語の中心地となる「ムーミン屋敷」なのでした。ムーミンパパは、家族のために家を準備して、みんなのことを探していたというのです。

「その家はわたしたちと住もうと思ってたてたの?」
と、ママはうれしそうにききました。
「もちろんさ。」
パパはいいます。

こうして、家こそ失いはしたものの、家族が共にいられることの幸せを再び感じることのできたムーミン一家。身をぴったりと寄せ合いながら、幸せな気持ちで眠りについたのでした。

ムーミン谷に起こった小さな奇跡「ムーミン屋敷」

翌朝、雨上がりの美しい天気の中、うきうきとした気分で散歩するムーミンたち。あちこちと歩く内に、花々が咲きみだれ、木々は実をたわわにつける「とてもすてきなところ」へと行きつきます。

さいごに、みんなは小さな谷にやってきました。それまで見たどんなところよりも美しい谷です。

このユートピアのような場所こそが、私たちもよく知るあの「ムーミン谷」なのでした。そしてこの谷とムーミン一家との運命的な出会いが、新たな奇跡を起こします。

その草地のまんなかに、タイルばりのストーブにそっくりの家がたっています。とてもすてきな青いペンキぬりの家です。

なんと洪水で流された「ムーミン屋敷」が、一家よりも一足先に、ムーミン谷へと流れ着いていたのでした。思いもよらぬ出来事に、感動につつまれるムーミン一家。

「この家より美しい家はないわ。」
ママはムーミントロールの手をとって、空のように青い部屋へはいっていきました。

そしてついに『小さなトロールと大きな洪水』は、まるでおとぎの国の物語のように、新たな章の始まりを予感させるハッピーエンドで幕を閉じるのです。

こうして、いつまでも、いつまでも、みんなはこの谷に住みつづけました。

さて、現実世界の「ムーミンバレーパーク」へ目を向けてみると、今回オープンするムーミン屋敷「ムーミタロ」は、トーベ・ヤンソンが残した図面やトーベが仲間たちと手がけたジオラマの要素を取り入れながら、原作を忠実に再現しているとのこと。

まだムーミン原作を読んだことがないという方は、ぜひこの機会にチャレンジしてみて、本の中のムーミン物語の世界を、実際にパークで楽しんでみてはいかがでしょうか。そうすれば気分はもうすっかり、ムーミン谷とその仲間たちかもしれません!?

執筆者:山崎絢加 (営業部)

タトル・モリエイジェンシー発!エージェントの視点で、翻訳出版についてご紹介します。1年目のフレッシュ新人から、20年以上のキャリアを持つトップエージェントまで。さまざまなバックグラウンドのメンバーが交代で執筆します。

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