スタンフォード大学教授が語る「より良い人生」をデザインする方法(ビル・バーネット)

スタンフォード大学の人気授業「デザイン・プログラム」のメソッドや実践例を紹介した『LIFE DESIGN スタンフォード式最高の人生設計』。英語版は14刷26万部を売り上げ、22カ国で翻訳されています。今回はその著者のひとりであるビル・バーネットさんにインタビュー。本書が生まれた経緯や「人生を変える」ために必要なこと、日本への思いなどを伺いました。

全米が求めていた「人生をリデザインする」ためのツール

—— 『LIFE DESIGN スタンフォード式最高の人生設計』を執筆したきっかけは?

共著者で同僚のデイヴ・エヴァンス(スタンフォード大学デザイン・プログラム講師、ライフデザイン・ラボ共同創設者)からの誘いだったんです。「僕らのプログラムを、学生だけでなく世界中の人々へ届けないか」と。スタンフォード大学ではおよそ15000名が学んでいますが、デザイン・プログラムは必須科目ではないにもかかわらず、約15%の学生が受講しています。

はじめは10週間にわたって、大学での講義をチャプターにまとめたんですけど……つまらない仕上がりになってしまって。ほら、ただ一方的に授業を受けるのって退屈でしょう?(笑) それできちんとエージェントに頼んで、一から構成し直したんです。

—— 2016年8月に原書“Designing Your Life: How to Build a Well-Lived, Joyful Life”が出版されるやいなや、大きな反響があったのだとか。

ニューヨーク・タイムズのベストセラーランキング1位になって、アマゾンではハリーポッターやブルース・スプリングティーンのランクを2日間だけ上回ったんですよ(笑)。NBCやNPRなどテレビ番組にも出演することになって……想像を上回る反響でした。それを受け、スタンフォード大学の同窓会ではじめてのワークショップを開催することになったんです。アメリカだけでなく他の国も含めて全16都市を回る“ワールドツアー”でした。

—— なぜそれほど多くの方々に支持されたのでしょうか。

読者からは「多くの自己啓発本は『これをしなさい』と一方的に指示するようなものばかり。この本は、考え方や具体的なツールを提示して、『あなた自身が自分のデザイナーなのです』と説いてくれる。すると、自分でもやってみようと思える」といった感想が多く寄せられました。この本の内容はデザイン思考や心理学といった科学的根拠に基づいていて、あくまで自分自身で考えるためのツールや方法を提案している。そういった点が支持されたのでしょう。

今の時代、多くの人々が自らの人生に行き詰まりを感じています。体調を崩していたり、貧困に陥ったり、明らかに行き詰まりを感じている人々だけでなく、マッキンゼーやIBMなど一流企業に勤める働き盛りの人……いわゆるハイパフォーマーでも、総じて不幸だと感じているのです。なぜなら、高収入で、周りから「すごいね」と評価されているために、がんじがらめになって、そこから抜け出せなくなっているのです。そういった人々に「自らの人生をリデザインする」ためのツールを伝授したかったのです。

「仕事に熱意を持てない日本人」はどうすべき?

—— ビルさんは日本の現状をどう捉えていますか。

私は以前アップルに勤めていましたが、ご存知の通り、アップルのライバルはマイクロソフトではなく、ソニーでした。ソニーはメディアのコングロマリット化を進め、レコード会社も映画会社も手に入れた。それに倣ってアップルはiTunes Storeをはじめたんです。iPhoneもiPadも、一時は日本メーカーがその部品製造を占めていましたよね。デザインにおいて、シンプルで美しいものを追求するのは難しいことですが、日本のデザインは洗練されていてエレガントで、本当に素晴らしい。今でも学生たちには日本の優れたデザインを教えているんですよ。皆さんはもっと誇りに思っていいはずです。

友人に日本人のエンジニアがいるのですが、彼は「日本人は『出る杭は打たれる』を叩き込まれているんだ」と話していました。しつけとして、「おとなしくするように」と言われているから、なかなか自らを表現することに慣れていない。あまりに謙虚すぎて、「自分たちはクリエイティブではない」と誤解してしまっているのではないでしょうか。逆に、アメリカ人は小さい頃から「私はこんなことをした。すごいでしょう?」とアピールすることを推奨されているから、クリエイティブな人だと思われがちなのであって、実際には大した差はないと思うんです(笑)

それにある調査によると、日本人はとても従業員満足度が低く、仕事に対する熱意(エンゲージメント)も低いのだとか。そのわりに、雇用が脅かされるとか給与が減らされるとか、大きな問題がない限りは、環境を変えようとはしない保守的な傾向もあると聞きます。ただ、若者を中心にその意識は変わりつつあるのではないでしょうか。「意義のある仕事をしたい」「仕事で何かを成し遂げたい」という考え方を持つ人が増えているのではないでしょうか。

—— 日本人が仕事に対して熱意が低いのは、「別に好きでやっている仕事ではない」「好きなことで食べていくのは難しい」という意識が強いからかもしれません。「そこそこの仕事でほどほどにお金をもらえるなら、それでいい」と考える人もいます。

確かにそうですね。仕事に意義を求めることや、仕事で自己実現を果たしたいと考えることは、ある種、現代的な考え方なのだと思います。私の祖父は移民で、高校も出ていませんし、父はコミュニティカレッジを卒業しましたが、ふたりとも必死に働いていました。仕事を選り好みできるような状況ではなかったのです。けれどもその甲斐あって、私はスタンフォード大学に通うことができた。本当に感謝しています。ただ、人生において仕事に費やす時間は、最低でも1日8時間、週に5日ですから、とてつもなく長いものです。もし、自分の仕事を再定義しないまま、なんの喜びも達成感も得られなかったら、おそらく健康にも人生にも悪影響が及ぶでしょう。私の父は、仕事自体は厳しいものでしたが、幸いにして職場の同僚には恵まれました。仮に仕事への意義を見いだせなくても、子育てや趣味、コミュニティなど、何かそれ以外に意義を見いだせるものを見つけるべきなのです。

人生を変えるために必要なマインドセット

—— 物事に意義を見いだすには、「自分はこれが好き」「こういうことがしたい」という気持ちが必要だと思うのですが、中には「何をすればいいかわからない」「熱中できるものがない」という人も大勢います。そういう人はどんなことからはじめればいいでしょうか。

私から提案したいのは、とても楽観的な考え方です。本でも紹介した「興味を持つ(好奇心)」「やってみる(行動主義)」ということです。自分ひとりで一生懸命考えてみても、いいアイデアは浮かびません。ハードルを低くして、何か小さなことからはじめてみる。次々にプロトタイプをつくって、小規模な変化を起こしていくと、やがて大きな変化となります。誰かに話を聞いたり、何かを習ってみたりするのも、立派なプロトタイプですよ。とにかく人と会おう、世界へ飛び出そう。それが私の提案です。

—— これは逆説的な考えですが、日本人の多くが日々の仕事に追われ、人と会ったりどこかへ出かけたりする余裕がないからこそ、自分がどうすればいいのかわからなくなっているのかもしれませんね……。

それは残念なことですね。それでも何か手がかりがあるとすれば、デザイナーの働き方が参考になるかもしれません。多くのデザイナーは基本的にチームで活動し、お互いにモチベーションを高め合うようにしています。私はこれを「助けを借りる(急進的なコラボレーション)」と呼んでいます。ある調査によると、ひとりだけで何かを成功させる確率が40%だとすると、チームで取り組むようになると80%に上がるのだそうです。2倍も違うんですよ! 何かをはじめようと思ったら、誰かに宣言してみたり、リマインドしてもらったりして、友人に手伝ってもらいましょう。ひとりでもふたりでもいいから、あなたが本当に正直になれる友人を探してください。そうやって、何かをはじめられる仕組みをつくれば、ネガティブなサイクルからポジティブなサイクルへ転換できるのではないでしょうか。

—— なんだか、ついネガティブになってしまうのは、周りの友人が愚痴っぽかったり、SNSでネガティブな意見ばかり見てしまったりする影響もありそうですね。

少し過激な意見ですが、「付き合う友人を変える」というのは一理あるかもしれませんよ。アルコール依存症の患者を治療するためには、飲み友達との付き合いを断つことがもっとも効果的だと証明されています。いつもネガティブな友人に囲まれていて、それでも何かを変えたいと願うなら、そのグループから飛び出してしまえばいい。社会には多くの深刻な問題がありますから、ネガティブになるのは無理もありません。「大統領が変わったら」「銃がなくなったら」……なんて、考えなくはないですけど、ライフデザインは“魔法の杖”ではありませんからね。あくまで現実的にできる方法であり、自分が自らデザインできることに意味があるのです。

世界中を巡って、たくさんの読者と会って、この日本へやってきましたが、20代の若者も80代のお年寄りも、みんな「人生を楽しみたい」という思いがあるのです。「何も変わらなくていい。あとは死ぬだけだ」なんて言う人はいません。残りの人生を少しでも変えたい、よりよくしたい、と考えているなら、まずは何にでも好奇心を持ってみてください。イラストでも漫画でも、語学でもいい。とりあえずはじめてみて、友人に話して、新たなアイデアに触れることで、「あ、自分はこんなことが好きなんだ」と気づくはず。皆さん、4歳の頃を思い出してみてください。誰しもがクリエイティブで、どんなことにも想像力を働かせることができた。今でもどこかにその能力が眠っているはずなんです。「Wake up!(さぁ、目を覚まして!)」

プロフィールBill Burnett ビル・バーネットスタンフォード大学 デザイン・プログラム エグゼクティブ・ディレクター同大学ライフデザイン・ラボ 共同創設者スタンフォード大学にて、デザイン・プログラム(人間を中心に据え、価値を追い求めるデザイナーを生み出すことを目的とする機械工学学科と美術学科の両部門にまたがる学際的プログラム)を指揮。また、同大学アカデミックコース・ディレクターを務め、Stanford Center for Professional Development and the Strategic Decisions Groupにおいて、ビジネスリーダーや政策決定者を対象にデザイン思考を教授。その教育及び研究は、クリエイティビティ、アントレプレナーシップ、技術革新の推進を主とする。

(構成:大矢幸世)



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

22

海外著者インタビュー

日本で広く読まれる翻訳書の数々。そのもととなる原書は、どのようにして生まれたか?このコーナーでは原著者にインタビューし、本が生まれた経緯や、著書の手がかりとなった本、影響を受けた本などなどを率直に伺います。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。