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有田哲平の『世界一受けたいプロレスの授業』!? ファンも非ファンも包みこむ『有田と週刊プロレスと』

Amazon Prime Videoで2016年より配信がスタートした『有田と週刊プロレスと』は、有田にランダムに手渡される「週刊プロレス」の内容を、プロレスを知らないゲストに向けて有田が即興で解説し、その面白さを伝えるというトークバラエティーだ。
しかし、これは単なるプロレスファン向けの番組ではない。誌面に掲載された“静”のプロレスを、いかに“動”のプロレスとしてその魅力を伝えるかという、MC有田のプレゼン手腕が問われる番組でもある。そして、どの回も有田のプレゼンは目を、いや、耳を瞠るものがある。まさに“環状線の外側”を相手にしたプロレスなのだ。
今回、そんな番組がDVDとしてリリースされるにあたり、改めてこの番組の魅力の深奥を探り、プロレスファン以外の人も楽しめるコンテンツであることをご紹介したい。

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いつだってプロレスは面白いということを学べる
この番組こそが『世界一受けたい授業』

文/K.Shimbo(ライター)


「こういうやり方があったのか」
常識にとらわれない番組作り

 かつて、地方在住のプロレスファンにとって、活字と写真でしか見たことのないプロレス団体があり、興行があり、プロレスラーがいた。1980年代後半から1990年代にかけて、テレビのプロレス中継がゴールデンタイムから深夜へと追いやられる一方、次々と新団体が旗揚げされ、多団体時代に突入。しかし、映像メディアはその状況に追い付いていなかったのだ。大都市で行われる興行を観に行けないファンは、スポーツ新聞や専門誌で、その動向を追うしかない。当時、中学生だった僕も、田舎の書店に一日遅れで到着する「週刊プロレス」(ベースボール・マガジン社)を食い入るように読んだ。そして、前田日明の「RINGS」に来日するオランダ人のツラ構えにシビレまくり、インディーズ団体「W★ING」の過激なデスマッチを脳内で再生し、熱狂した。インターネットや専門チャンネルが普及した今となっては、遠い過去の出来事だ。Amazon Prime Videoで2016年から配信がスタートした『有田と週刊プロレスと』を観て、そんな時代のことを思い出した。映像メディアとしては最先端の形である動画配信サービスで、逆にノスタルジックな気分に浸れるのは、とても面白い体験である。

 一方で、よくよく見ていくと、ただ懐かしいだけでなく、実は革新的な番組であることに気づく。常識にとらわれない番組作りを、「こういうやり方があったのか」と評価する声もテレビ業界内にあるという。
 『有田と週刊プロレスと』は、くりぃむしちゅーの有田哲平がプロレスを語り尽くすトークバラエティー。「週刊プロレス」のバックナンバーを渡された有田が、それをテーマにゲストの芸人たちとトークを繰り広げ、最後には人生に役立つ教訓を導き出す。Amazonカスタマーレビューで5つ星のうち4.8を獲得するなど絶大な支持を集め、昨年まで4シーズン、計100回が配信された。今回、シーズン3とファイナルシーズンがDVD化される。

 初代タイガーマスクを取り上げたシーズン3・第1回で印象的な場面があった。初代タイガーマスクの魅力をたっぷりと聞かされたゲストの陣内智則が「映像は流れないんですか?」と素朴に尋ねると、有田は「流れないです。『アメトーーク!』ならちゃんとやるだろうけど」と笑顔で否定する。プロレスファンの芸人がプロレス愛を語り、そのトークを楽しむという意味ではテレビ朝日『アメトーーク!』の「プロレス大好き芸人」と共通する部分もあるだろう。しかし、『アメトーーク!』との決定的な違いは、プロレスラーの姿を見せるのに「週刊プロレス」に掲載された写真素材しか使わず、映像をまったく流さないことだ。有田も番組内でこのことについて、「映像がないのはありえない。写真も2次利用だから粗い。地上波だったらまずは映像を入れる」と語っている。しかし、これこそが30年前に「週刊プロレス」だけを頼りにプロレスを追いかけていたときの感覚を呼び覚ますのだ。

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 さらに常識外れなのは、冒頭で「ときに細かい部分を間違えることがあるかもしれない」というナレーションが毎回入る通り、番組で語られることは、あくまで有田の記憶の中にあるもので、事実と異なる場合もあるということだ。つまり、有田の“主観”であり、思い込みも含めた記憶だけでトークを展開する。ファクトチェックが必須な通常のテレビ番組ならまずあり得ないことだが、これもまた古き良き「週刊プロレス」らしさである。既にDVD化されているシーズン2・最終回は、1987年から1996年まで「週刊プロレス」編集長だった山本隆司(現ターザン山本!)がテーマとなっている。山本元編集長は試合結果をただ報じるのではなく、“主観”によって選手や試合の意味づけをしていく“活字プロレス”といわれるスタイルで過激な誌面を作った。そして、プロレス関係者の猛反発を招いたが、読者からは熱狂的な支持を受けた。有田も山本編集長時代を振り返り、「賛否両論はあるが、マジで面白かった!」と絶賛する。この“活字プロレス”のスタイルを「有田と週刊プロレスと」は再現しているのだ。有田もこのことは自覚していて、「毎週、ファン目線で好き勝手なことをしゃべっている。(自分が)ターザン化している可能性もある」と発言している。プロレスは“主観”で語るものだとする“活字プロレス”は、ある時期の「週刊プロレス」の代名詞であり、有田の番組に臨む姿勢もその影響を受けている。

プロレスを知らない視聴者も魅了していく
有田哲平の“話芸”

 そんな懐かしさと革新性が同居する番組で、特筆すべきなのが有田のトークスキルである。事前に何号の「週刊プロレス」が渡されるのか知らされない有田は、即興でトークを構成し、まるで講義するかのように、その歴史的背景から爆笑エピソードまでを見事に説明してみせる。時にはモノマネも挟みながら、プロレスを知らない視聴者も魅了していく。しかも、30分の放送に対して収録時間はほぼ同じで、編集もほとんどないという。もはや、“話芸”の域に達していると言っていい。
 有田のトークを楽しめるオススメの回として挙げたいのが、「ハッスル」がテーマのファイナルシーズン・第3回だ。芸能人も参戦し、プロレスのエンターテインメントの部分をとことん追求した団体「ハッスル」。その誕生の経緯や意義を有田は、格闘技団体「K-1」「PRIDE」の隆盛から読み解いている。そのロジックの組み立ては秀逸で、聞いていて何度もうならされた。また、マイクパフォーマンスだけではあったが、「ハッスル」のリングに2度上がっている有田が、その時のあまりにデタラメな裏話を披露している。大いに笑えるのだが、これまでプロレスの歴史の語り部だった有田が、その歴史の一部になったことに感動を覚える。また、「プロレスとテレビ中継」をテーマにしたシーズン3・第9回では、プロレスがテレビの視聴率に翻弄された歴史、タレントがプロレスに関わることなどについて持論を展開。地上波テレビで多くの人気番組に出演している有田が何を語るのか、注目していただきたい。ほか、シーズン3・第10回で、芸能界屈指のプロレス通といわれる東京03の豊本明長が有田に「ドラゴンゲート」について伝授する特別編も興味深い。有田とはまた違う語り口で、複雑な「ドラゴンゲート」の人間模様を分かりやすく解説している。豊本はシーズン3・第11回でもデスマッチについて語り、いずれも有田が聞き役に回っている。豊本の豊富な知識により、プロレスの深淵が味わえる回だ。

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 僕は子供の頃から熱狂的なプロレスファンだったが、最近はかなり冷めてしまい、今では年に1回も興行に足を運ばなくなった。たまにインターネットで昔の試合を観たり、友人と酒を飲みながら、過去の試合について熱く語り合ったりする程度だ。「昔は良かったよね」が口癖のいわゆる“懐古厨”というヤツだ。『有田と週刊プロレスと』を観始めたときも、懐かしいプロレスの話を楽しんだり、かつて「週刊プロレス」を熟読していた頃を思い出し、「やっぱり、昔のプロレスは面白いなぁ」と思ったりしていた。しかし、有田は現役バリバリのプロレスファンなのである。シーズン4・第1回「新日本プロレス ニューヨーク進出」では、配信の3カ月前に行われた新日本プロレスのマディソン・スクエア・ガーデン興行を、アメリカの団体「WWE(当時WWF)」と新日本プロレスとの歴史を踏まえながら、熱く語っている。また、シーズン4・第8回「女子プロレス団体 スターダム」では、「全日本女子プロレス」から「スターダム」まで日本における女子プロレスの歩みをたどりながら、これからのプロレス界への前向きな提言まで語っている。そんな有田のトークを聞いていて、アントニオ猪木がいなくなってからすっかりご無沙汰していた新日本プロレスも、1990年代の団体対抗戦しか知らない女子プロレスも、猛烈に観てみたくなった。“昔の”ではなく、いつだってプロレスは面白いということを学ばせてもらえた。日本テレビ『世界一受けたい授業』に出演中の有田だが、僕にとっては、この番組こそが『世界一受けたい授業』だ。配信ではなく、DVDで手元に置いておく価値は十分にあると思う。

 ちなみに、くりぃむしちゅーの相方の上田晋也は、「週刊プロレス」のライバル誌「週刊ゴング」の愛読者だったとのこと。いつか、「上田と週刊ゴングと」も観てみたい。

<商品情報>
『有田と週刊プロレスと シーズン3DVD-BOX』

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『有田と週刊プロレスと ファイナルシーズンDVD-BOX』

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【発売日】ともに2020年12月4日(金)
【価格】ともに13,200円(税込)
【DVD仕様】
シーズン3:
2019年/全25話/本編約745分+特典約30分/日本/カラー/MPEG-2/16:9LB/音声:ドルビーデジタル2.0chステレオ/字幕:なし/6枚組(片面2層5枚+片面1層1枚)
ファイナルシーズン:
2020年/全25話/本編約786分+特典約30分/日本/カラー/MPEG-2/16:9LB/音声:ドルビーデジタル2.0chステレオ/字幕:なし/6枚組(片面2層5枚+片面1層1枚) 【出演】MC/有田哲平(くりぃむしちゅー) 倉持明日香
シーズン3ゲスト:陣内智則 田村亮(ロンドンブーツ1号2号) 福田充徳(チュートリアル) 豊本明長(東京03) 小峠英二(バイきんぐ) 岡田圭右(ますだおかだ) ビビる大木
ファイナルシーズンゲスト:福田充徳(チュートリアル) 吉村崇(平成ノブシコブシ) 澤部佑(ハライチ) 岡田圭右(ますだおかだ) ビビる大木
【概要】プロレスとは、人生の縮図。週刊プロレスとは、人生の教科書。くりぃむしちゅー有田哲平が、毎回1冊の「週刊プロレス」をテーマに、語って、語って、語りまくり、プロレスから学ぶべき人生の教訓を伝授する!! 毎回1冊の週刊プロレスが有田に手渡される。どの年のどの号か…事前情報は一切ナシ。突然渡される週プロをテーマに、有田が語って、語って、語りまくる!!! 幼い頃からプロレスに魅了され、週プロを愛読し続けてきた有田の口から、いったいどんな人生の教訓が飛び出すのか――!? プロレスが大好きな人も、まったく知らない人も、だれもが笑って学べるプロレス人生塾! あなたの人生に役立つ「プロレストークバラエティ」、1冊の週刊プロレスから広がる"有田ワールド"を見逃すな!
【特典映像】
シーズン3
『週刊プロレス記念号スペシャル①』有田哲平が「2代目タイガーマスクとパンクラス」を語る!
ファイナルシーズン
『週刊プロレス記念号スペシャル②』有田哲平が「猪木と馬場のデビュー30周年記念試合」を語る!

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