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【最終回】10年間の執筆で感じた「サブカルチャー」を愛する気持ち【2023年3月号 風間俊介 連載】『ダンスはうまく踊れない』

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今回、この連載を書くために近所の喫茶店に来ています。普段はそんな事はしないのですが、今回は少し違った心持ちで原稿を書きたかったんですよ。

何故なら、当連載『ダンスはうまく踊れない』、今回が最終回となるからです。

2013年に連載を開始して、ざっくり10年。節目としてはこれ以上無いと思ったので、幕を下ろそうと思いました。10年という月日は、時代が変わるのに十分な時間です。あんなことやそんなことに想いを馳せて原稿を書こうと考えているのですが、あのね、さっきからね、物凄く気になることがあるんですよ。

喫茶店の向かいに座って勉強している大学生風の男の子が、ずっっとペン回しをしている。ただのペン回しならさして気にならないのですが、途切れなく、回した後、次の回しに即座に移行している。僕が喫茶店のこの席に座り、コーヒーを注文して、それを2、3口飲み、パソコンを開いて「どんな書き出しにしようかな」と考えている間、一度もインターバルを空けることなく、回し続けている。むしろ、凄くない? 疲れ知らずじゃない? 携帯扇風機と同じ回転力くらいで、回り続けてるよ。いや、携帯扇風機よりすごいことになってるかも知れない。だって、彼はこの30分くらい、一行も書いてないんだもん。ペンという道具の存在意義を全部ぶん投げて、バトントワリングくらいの勢いでペンを回し続けているんだもん。彼は喫茶店に勉強しに来たのではなく、ペンを回しに来たんですよ、間違いなく。しかし、僕は違う。僕は彼のペン回しを見に来たのではなく、10年の集大成を書き上げるためにここに来たのだ。回るペンに吸い込まれながら、頭の中で中島みゆきさんの『時代』を再生する。そう、このペンと同じように時代もまわる。この10年で、サブカルチャーという文化は無くなっていったのかも知れない。SNSの発展などでコミュニティが細分化され、メインカルチャーもサブカルチャーも同じような扱いになっていったのかも知れない。でも、僕が愛したサブカルチャーって、『メインカルチャーではない』って意味ではなく、『誰かが見たらガラクタだけど、僕にとっては宝石』というものを見つけること、愛することだった気がします。何度もこの連載で書きましたが、無駄なことや、要らないモノを抱えて笑っていられることが余裕や遊びだと思うのです。

昨今、生産性や効率などが重要視されますが、多くの人が「宝物だな、これは」と認めるものではなく、自分だけかも知れないけど、誰かが「時間の無駄だ!」って言ってるかも知れないけど、共感を得なくとも、ワクワクするものを求める気持ちがサブカルチャーを愛する気持ちなのではないかと、個人的には思うのです。

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